現実j-7
駅前広場で解散すると電車にのる。満員電車にもかかわらず隣のオジサンがスマホをいじってる。画面はアーマゲドンオンラインだ。恐ろしい速さで広まっている。美弥子が心配だ。予想通りなら、夢の世界で死んでしまったのだろう。家に着くと美弥子がリビングで泣いていた。何があったんだ。急いで抱きしめる。
「あにぃ、アタシフラれちゃったよ。りょう君、3人も彼女作ってるクソ野郎だったよ……」
よかったそんなことで済んでて。現実では美弥子も俺が守ってやらないと。
「そんなクソ野郎なんざ、美弥子からフッてやれ! だから泣くなよ。楽しい事は他にもあるさ。な」
抱きしめながら頭を撫でる。
「あにぃ恥ずかしいよ。でもやっぱりあにぃは優しいね。そうだねアタシにはこれがあるもん」
笑顔でスマホの画面を見せる。そこには文字だか模様だか分からない羅列があるだけだった。美弥子はもう涙が止まり、笑顔でスマホをいじる。こんなに人を蝕むのか。抱きしめてた腕から力が抜ける。
「あにぃ、ありがとう。先お風呂入るね」
美弥子は笑顔でバスルームに入って行った。美弥子、制服着替えないと。母さんに叱られるぞ……その程度の考えしか浮かばず母さんが買い物から帰って声をかけられるまで俺は阿呆のように立ち尽くしていた。
シャワーを浴び、夕飯をかきこむ。炊きこみご飯に煮物に味噌汁とシンプルな夕飯だったが、この味は変わらないでくれと願いつつ、急いで食べる。食べ終わったのは美弥子と同時だった。歯を磨く為洗面台に2人で向かう。
「今日は封印解除楽しみだな。あにぃもやればいいのに」
「いや、今日はライブイベント見ることにするよ」
「アタシはどっちも見たいな。ねえ、あにぃ、ノーパでみるんでしょ。隣でゲームしながら見せてよ」
「ああ、構わないぞ。念のためタオルケットだけもってきな」
こうして2人での動画鑑賞が始まる。時間は8時半、そろそろだ。カメラは固定されているのか観客席からステージまで見えるようになっていた。このライブハウスのどこかにノリがいるのだろうか。観客席からはマスターと皆がしきりに叫ぶ。ステージ上に体格のいい坊主頭のスーツ姿の大男が控えるように立っている。遠すぎて顔が判断できないが本条先輩に似てる気がする。まさかな……
8時50分になった、今日は紺のスーツ姿のマスターこと優さんがステージ上に上がる。その瞬間、観客席から手に光りを反射するような物もった男がステージに飛び乗り、優さんを襲おうとした。刹那、控えてた大男が獣じみた速度で動き、腕をひねり上げると同時に顎に掌底を入れた。この動き、間違いなく本条先輩だ。なぜ優さんの側近のような真似を? 襲いかかった男は引き釣り下ろされどこかに連れていかれた。優さんは演説を始める。
「今宵、悲しい事件が起こった、だが私はそれを許そう。彼が新たな同士となるならば兄弟も同然、この欺瞞に満ちた世界では凶行に走るのも無理はない。皆も言いたい事があるだろうが、彼を許し、この世界を壊し、新たな世界に導こうではないか。さあ、封印解除の時は来たカウントダウンで迎えよう。5、4、3、2、1、ゼロ!」
その時カメラに写った優さん以外の全ての人が倒れた。あの本条先輩まで。となりから美弥子が倒れ寄りかかって来る。受け止め、ベッドに運ぶ。俺の部屋だがしょうがない。
いそいでノートパソコンを見る。なんだ? 足元がふらつく。凄い眠気が襲ってくる。机に捕まり、なんとかモニターを覗く。モニター越しにこちらを優さんが見ている。すると一言呟いた。
「クルス君、今回は耐えられるかな?」
カメラ越しの遠目でも分かる邪悪な微笑み。間違いない。優さんは敵だ。眠気に抗えない。クソッ、この一連の黒幕は優さんだったのか……
飲み込まれるように夢の世界に落ちていく。誰かが夢の世界の俺を起こそうとしているのか。ダメだ、狙いは来栖先輩だったのか……
―――最愛の人の兄がラスボスなんて酷すぎないか―――
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