夢i-6
「今宵はあの、伝説の魔獣ケルベロスを退治した勇敢な冒険者達を称え、皆心ゆくまで宴の席を楽しんで欲しい。それでは魔獣退治の立役者タツヤ殿、何か一言もらえるかな?」
いきなりのキラーパス! こんな時どう言えばいいんだよ。会場中からの注目、ニジエも柊もレベッカまでニヤニヤしてこちらを見ている。こうなりゃやけだ。
「ケルベロスは大きく、そのブレスたるや伝説以上の業火でした。それを防いだのが我がパーティーの魔術師たるニジエで、そのおかげでケルベロスの首を落とすことが出来、退治できました。さらの格闘士ユウタは首を引きちぎる活躍を見せ、この仲間達抜きではこの試練を達成出来なかったと思います。我らが仲間に感謝を、それと子爵様万歳」
なんて下手くそなスピーチなんだろう。こんなスピーチでも、子爵様は満足そうだ。大きな失敗はしてないのか? 子爵様が告げる。
「それでは、この度の英傑に乾杯の音頭をとってもらおう」
なんだそれ? そんなの聞いてないぞ。しかし目の前に赤ワインが注がれたグラスが運ばれて来る。どうやらみんなにグラスが渡ったようだ。ニジエに左袖を軽く引っ張られる。言えってことか。下手に恥ずかしがると帰って恥をかきそうだ。ここは堂々と大声で言うしかない。
「乾杯!!」
その声で皆グラスに口をつける。俺もワインを一息で飲み干す。多分いいワインなんだろうが味が分からない。相当緊張してたんだな俺。玉座の両脇の幕が上がるとそこには様々な楽器を持った楽団が現れ、曲を引き始めた。多分これがダンスパーティーの始まりか。グラスを置き、ニジエに手を差し出す。
「一曲踊っていただけますか?」
「ええ、何曲でも」
ニジエは手を上に乗せてくれた。よし、ここからは練習の成果を見せる時だ。腰に手を回し、身体を密着させる。ニジエの笑顔がすぐ目の前だ。これは予想以上に破壊力がある。恥ずかしいという感情を打ち消しステップに集中する。
「タツヤさん、前をむいて笑顔じゃないと」
声と共に吐息がかかる。なんとか笑顔を作っているが、ニヤけ顔だろう。荘厳な円舞曲が奏でられている。リズムに乗れば後は難しく無かった。これも猛特訓のおかげか。3曲程踊ったところで、料理が運ばれて来た。このまま立食パーティーに移行するのか、慣れてきたのに残念だな。あちこちで談笑が始まる。俺、恥かいてないかな?
「タツヤさん、とっても踊りやすかったです。リードがお上手なんですね」
「新堂にスパルタで教えられたからね。ニジエは練習は?」
「残念ながら1人でステップの練習しただけなんです」
「でも、上手かったよ。凄くリードしやすかった」
「そうですか? 嬉しいです」
ニジエはそういうとカクテルのような物を飲みだした。恥ずかしがっているのを誤魔化してるのか。すると柊、レベッカペアが近づいてくる。
「ユウヤ信じられない! 2回も足踏まれちゃったよ~」
「ごめんなさいレベッカさん」
「この埋め合わせは今度してもらうからね~」
かわいそうな柊、どこまでも貢がされるんだろうな。その瞬間、背後に気配を感じ、後ろを振り返る。そこにはジェラルドさんが立っていた。
「気配を隠したのに見事気づかれてしまいましたね。流石と言うべきでしょうか。タツヤどのは剣士でいらっしゃるそうで、一度お手合わせ願いたいものですな」
冗談じゃない。近いから解る。この人は今、この場で瞬きする間に俺を切り伏せる事ができるだろう。マスターの嫌な予感的中か。仕方ないちょっとカッコ悪いが言い訳させてもらおう。
「本日は帯剣もしてませんし、それに、そう言った件はマスターに許可が必要なので」
「成程、マスター・コリン様も相変わらずの御様子で。それでは子爵様の護衛に戻らせて頂きます。またの機会を楽しみにしていますよ」
そういうとジェラルドさんは子爵様の横に戻って行った。流石にこの場で剣を抜くような人では無かった。
「今の人こえぇ~、目が一瞬ガチだったじゃん」
「あれが蒼い剣のジェラルドさんか。勘だけど来栖先輩より強いぞあの人」
「私がちっちゃい頃はよくお菓子買ってくれたおじさんだったよ~」
どうやら、本質は優しいようだ。来栖先輩に近いんだろうか。
宴もたけなわに近づく、少しニジエの顔色が悪い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます