夢i-5

「ユウヤ、似合う~?」


 柊は言葉を失っている。無理もない。普段からは想像出来ない色気を、レベッカが放っているのだ。マスターは言い放つ。


「たく、仕方ねぇ奴だな。おい、お前達、もしナイフを持ってる奴がいたらここに預けておけ。城内は武器の持ち込み厳禁だぞ」


 言われて気づき、俺と柊はダガーナイフをマスターに預ける。


「こんなもん持って入っちゃ、暗殺者と疑われるぞ。城のマナーは銀の塔の比じゃないからな。それを覚えておけよ」


 マスターに言われて気付く、そう言えば城内のマナーなんてすっかり忘れてた。


「何か特別なことはあるかな?」

「そうだな。まず、子爵様もいらっしゃるだろうから、あんまり見つめ過ぎないことと、勘違いされる動きはするなよ。とくにユウタは格闘士だって知られてるしな。あんまりこちらから近づきさえしなければいいかな。それと、冒険者だって舐めてかかる連中は腐るほどいるが、一々相手にするなよ。気にしなきゃあいい。後はそうだな。万が一、腕試しなんてことを挑まれたら、ギルドを通すように言うんだな。今の騎士団長は元冒険者だから、そういうことがあるかもしれん」

「元冒険者の騎士団長なんているんだ」

「ああ、【蒼い剣のジェラルド】って通りなでな。10年近く前にたった1日でオーガ100匹斬りを1人で成し遂げ、騎士に召し抱えられてからトントン拍子に出世したんだ。コイツは腕比べが大好きなんでな、もしかしたら絡まれるかもしれん」


 1人でオーガ100匹斬り! そんなのどっちが化け物か分からないくらいだ。そんなのに絡まれたらたまったもんじゃない。


「なんか絡まれない策は無い?」

「その時は俺の名前を出していい。義理堅いやつだからその辺は心配ないだろう」

「その他のマナーは?」

「自分より後から来た奴の真似をしろ。それが一番カドがたたん。何より今回の主賓はお前達だ。そう小うるさく言われもしないだろうさ」


 また真似か。得意分野だし、それで済むならそれに越したことは無い。

 マスターから注意事項を聞いていると、随分大きな馬の蹄の音が響いてきた。


「お、ありゃ4頭仕立ての馬車の音だな。お迎えがきたようだぜ」


 ギルドハウスの扉を開いたのはまだ30歳前くらいの紳士風の男性だった。


「はじめまして。私、ルンレスト城よりお迎えにあがりましたヴィスコンティと申します。タツヤ様、ユウタ様、ニジエ様、レベッカ様、こちらへどうぞ」


 返事をし、外に出ると鷹と矢にユリの紋章が描かれた立派な馬車が用意されていた。ヴィスコンティさんにエスコートして貰い1人ずつ馬車に乗る。中まで立派だ。赤いクッションが敷かれ、座り心地も抜群にいい。バルナウルでの往復に使えたら良かったのになんて考えがよぎる。それなりの速度がでているのか、いつもは見上げるだけの城まで城門をくぐるのに30分かからなかった。降りる時もまたヴィスコンティさんだ。男もエスコートし慣れてるのか手に触られても嫌な感じはしなかった。お城の扉は大きく開かれており、その大きさ。豪華絢爛たるや銀の塔の比ではない。たまに帯剣したもの者もいるが、赤をベースにした制服のようなものをきているから、お城の兵士か騎士なんだろう。ダンスパーティーに鎧姿は不躾という事か。大勢の紳士淑女が入っていく。この先にボディチェックでもあるのかと思いきや、すんなり入れた。事前に報告でも入っているのかと思いきやニジエが耳打ちする。


「多分、風の魔法で害意を検知してますね。リュシエンヌさん程ではないですが」


 なるほど、こんな所にも魔法が使われているのか。文明が中世どまりなのでは無く、機械に頼る必要がないのかもしれない。そんなこと考えるのも無粋か。今は目の前に広がる城内の光景を楽しもう。こんなところ2度と来れないかもしれないのだから。ニジエの手を自然とにぎり、大広間に入る。夜なのにこの明るさ。見事なクリスタル製のシャンデリアのおかげか。

 実は最初お城って要塞みたいなものじゃと思ったが、堀があり、跳ね橋を通ったくらいでこれといった要塞らしさは見当たらなかった。ルンレストが城塞都市なのとも関係があるのかもしれない。いや、余計なことを考えるのはやめよう。大広間の奥に玉座が見える。王様でなく子爵様でも玉座に座るものなのか白髪、白鬚が丁寧に整えられており、服も白と白づくめだな。ひと際目立つのが、青いマントに大剣を背負った短髪で精悍な壮年の兵士だ。多分あれがジェラルドさんか。感覚的に来栖先輩を強化した感じで、静かだが強者のオーラを感じる。ひとしきり来賓者が入り終わったのか、子爵様が立ち上がり演説を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る