夢k-2
「敵、密集して中央に来る。こちらも陣形を変えるわよ。中央に集まって。敵を押し返すわ」
新堂の指揮に従い、こちらは集合する。これなら密集した敵を相手に出来るだろう。新堂が近い、これが最終防衛ラインという訳か。とにかく空中の相手は闘いづらい、サキュバスクィーンとの闘い方の工夫がここで生きてくるとは。とにかく無心で相手にしなくてはならない。敵の数は増える事はあっても減ることはないのだから。不意の叫び。
「香苗! 避けろぉぉぉぉ!」
新堂に目を向けるとガーゴイル4匹が向かっている。俺じゃあ間に合わない。来栖先輩が4匹を纏めて斬る。何とかなって……無い。その陰から1匹のガーゴイルが来栖先輩に向かっていた。スローモーションのように見える時間、そのガーゴイルは来栖先輩の右腕に鋭い爪を向けてきた。弾ける血しぶき、剣を握ったまま宙を舞う来栖先輩の右腕。来栖先輩は倒れた。それを見届け、ガーゴイルの増援は止まった。今いる敵を相手にすればそれで終わりだ。新堂が叫ぶ。
「誰か! 誰か来栖を助けて! 血が止まらないの!」
ヤバい、指揮を取ってた新堂が動揺してしまった。戦術士の支援が無くなる。途端に身体が重く感じる。何とかここを自力で乗り越えないと。
「柊は来栖先輩を引きずって後退、ニジエは腕を拾ってなんとか繋げて! ここにいる闘えるものは後、一踏ん張りだ。敵の増援はもう来ない!」
なんとか俺が指揮をとる。戦術士の様な支援効果は無いが。この場さえ乗り切れば何とかなる。敵が引いたのは目標を達成したからだろう。とにかくあと20の敵を砕けば終わりだ。この数なら今の人員で捌ききれる。来栖先輩が心配だが気にしてる余裕も猶予も無い。今さえ乗り切れば俺達の勝ちだ。最後のガーゴイルに剣を突きこむと皆、安堵してその場に座り込む。俺は来栖先輩の元に駆け寄った。右腕の付け根は布で縛られ流血を防いでる。くっつけるように大剣を握りしめた右腕が置かれていた。ニジエが目を閉じ集中している。ああ、来栖先輩の右腕がほのかに光り出した。
「ニジエ、お願い! 何とかして!」
新堂が悲痛な声を上げる。ニジエはまだ集中してるようだ。
「お願い! イタイノイタイノトンデケェェ!」
その時、いつもモンスターを倒した時とは逆に光が収束していく。まぶしさが収まると右腕が繋がっていた。良かった。最悪の事態はまのがれたか。周りを見渡すと、横たわった男にポーションを飲ませてる者の姿や、他の魔術師が治癒を始めてる。そしておびただしい数の死体。多いのはフルプレートアーマーにボロボロの槍を握りしめた遺体が多い。門番の兵士は文字通り死ぬまで闘ったようだ。
安全を確認してか門が開かれる。新堂は来栖先輩を抱きしめ、泣いているようだ。
「新堂、来栖先輩は俺が背負うから、ついてきてくれ」
声をかける。とりあえず青銅の蹄に向かおう。来栖先輩は重かったが、きっとそれ以上の物をこの人は背負っていたんだろう。新堂が声をかけ続ける。
「お願い、来栖! 目を開けて!」
鈴木先輩のように光ってないから、死にはしないだろう。右腕は大剣を握りしめたまま動かない。ふいに背中から声が聞こえてきた。
「ん、香苗か……闘いはどうなった……?」
良かった目を覚ました。来栖先輩は無事だ。
「もう大丈夫よ。守りきれたから。来栖は自分の心配をして」
その時、剣が落ちて音を立てる。
「ああ、良かった。守りきれたのか。すまない、柊君、剣を拾ってくれないか?」
柊が慌てて来栖先輩の大剣を拾い上げた。傷だらけの剣を。
「達哉君、すまないがこのままギルドハウスまで運んでくれないか? 言わなきゃいけないことがあるんだ」
「大丈夫ですよ。どこまででも背負って行きますから」
もし、来栖先輩が自分が不甲斐ないなんて言いだしたらどうしよう。新堂は自分を責めるに違いない。だけどまだ希望はある。来栖先輩は無事なのだ。扉をニジエが開き、全員がテーブル席につく。柊は大剣を抱きしめたままだ。マスターは沈痛な顔で話す。まわりにも疲弊しきった冒険者達が座っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます