夢f-5
運良くか銅山内でモンスターに出会うことは無かった。後は平野を抜け、バルナウルまで一直線だ。
「おい、ニジエさん濡れてるぞ」
行く時は雨が避けていたが、あれはニジエの意識が無いと発動しないのか。マントでくるむようにしておぶりなおす。門まですぐそこだ。まず泉の妖精亭でニジエをベッドに寝かそう。いや、その前に着替えさせて乾かさなくては、風邪をひいてしまう。心苦しいがその時は起こそう。流石に勝手に服を脱がせる勇気は無い。バルナウルの門をくぐる頃には考えはまとまっていた。
泉の妖精亭で事情を話、ニジエの部屋の鍵をもらうと扉をあけ一旦ソファーに寝かす。
「柊、暖炉点けてくれ。ガンガン燃やして構わない。薪が足りないなら取りに行ってくれ。俺はニジエを起こす」
柊は文句を言わずに言われた通りにする。今日の失敗の大半は自分の失言のせいだと理解しているのだろう。俺はニジエを起こすことにしよう。
「ニジエ、起きてくれ、もう宿だ。このまま寝たら風邪ひくぞ」
中々起きない。肩をゆすりなんとか薄目が開く。するといきなり起き上がり、
「え、え、ここ宿ですか? もしかして依頼失敗?」
「まだギルドに行って無いから解らないけど、とりあえず着替えて寝てなよ。俺達で行ってくるから」
「ここまで私どうして来たんですか?」
「俺がおぶってきた。気にしないでくれ。ニジエのおかげでケルベロス倒せたから」
そういうとニジエはまた顔を真っ赤にし、顔を隠す。部屋は充分暖まったようだ。俺と柊はそっと扉から外に出る。
「さて、ギルドに行くか」
「品物渡すから、陽行ってくれよ」
「疲れてんのお前だけじゃないんだぞ」
「待ってる間に陽の部屋、暖炉つけとくからさ」
それはそれで魅力的な提案だ。どうせ柊を連れていってもやらせることは無いし、俺も随分冷えている。ここは提案に乗ろう。ガルムの毛皮5枚とケルベロスの尻尾を受け取ると雨の中青銅の蹄を目指す。中に入るとトマスや他の冒険者がギョッとした目でこちらを見た。
「随分デカい音がしたが、アレ、アンタかい?」
「正確には連れの魔術師だが、カタンガ銅山にデカい穴開けちまったよ。悪かったな」
「そのくらい構わねぇがガルム相手にしちゃ、ちと派手すぎやしねぇか」
「そのことなんだがな……」
俺は道具袋からケルベロスの尻尾を出し見せつけた。
「アレで吹っ飛ばしたのはケルベロスだ。これ証拠な」
ギルドハウス中の全員が集まる。トマスもまさかという目つきで品物を見る。
「これがか、本物なら初めてみるな。ガルムもいたのかい?」
「ああ、残念ながらガルムの毛皮は6枚しかない。今回は失敗扱いになるのか?」
「待ちな、物が物だけに一晩時間をくれないか? 街の鑑定屋にデティクトの魔法をかけてもらって調べてみる。本物なら大成功だからな」
やはり伝説級なだけあって本物かどうか解らないようだ。初めて見るんだから仕方ないだろう。俺は鑑定待ちという初の依頼達成を成し遂げ、そこでようやく腹ペコなことに気付いた。
「小腹が減ったんでなんか適当に食いモンないか?」
「ああ、ピロシキならすぐ出せるからちょっと待っててくれ」
そういうとトマスはケルベロスの尻尾を持ち奥に引っ込み、代わりにピロシキを出してくれた。個人的にはもっと味は濃いめでいいのにと思う。この際贅沢は言ってられない。ピロシキを2個、腹に納めると幾分空腹は落ち着き、今度は疲労感が襲う。そう言えば今日は休憩無しで闘いっぱなしだったな。
「ごっそさん、また明日くるよ。鑑定よろしく」
まだ豪雨は止んでない。恐らく今日はもうやまないのだろう。宿まで走ろう。部屋に戻ると暖炉に火が点き充分に暖まっていた。装備からパンツまで全てぬぎ、着替える。
そう言えばガルムの毛皮渡し忘れたな。まあいいかどうせ明日行かなきゃいけないんだし。正確な鑑定をしてくれるといいな。そう考え濡れた服一式を適当に干すとベッド
に入る。ランプを消そうとした瞬間、声をかけられると思ったが杞憂に終わったようだ。雨が苦手なのはどうやら本当らしい。今夜はグリゴリさんに邪魔されず久しぶりに心地よく寝れそうだ。明日は新堂とニジエを合わせないとな。そんな普通なことを考えながら眠れる。色々あったが悪い日では無かった気がする。俺は吸い込まれるように寝入った。
―――今夜のニジエの事、結構嬉しかった。例え夢でも―――
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