―――夢e

夢e-1

 起きると身体の痛みは無かった。やはり現実と夢どちらでも怪我は持ちこさないらしい。詳しい原理はサッパリだが都合がいいので考えるのはやめにしよう。まだ柊は起きていないようだ。もし現実で練習中なら無理に起こしても悪いかと考え、宿の受付に先に青銅の蹄で待っている旨を言伝し、ギルドハウスに向かう。


「お、今日は随分ゆっくりなんだな。もう仲間が待ってるぞ」


 マスターの言葉の後、俺を呼ぶ声がする。そちらに目を向けるとニジエが既にテーブル席についていた。


「遅くなって悪いね。今日は早めに抜け出したのかな?」

「何だか兄さんは今日からしばらくお城に呼ばれてるみたいです。苦労せず出て来れましたよ。柊さんは一緒じゃないんですか?」

「アイツはまだ寝てるよ。実は今日からそれぞれ現実でトレーニングを始めたんだ。少しでも強くなりたくてね」

「まだ強くなるんですか。これは私も負けてられませんね」


 ニジエはやる気を出しているようだ。魔法はどうすれば上手くなるんだろうと、ささやかな疑問を抱えていると、柊が扉を勢い良く開けて入ってきた。


「すまん遅れた。トレーニングしすぎて寝付けんかった」

「仕方ないな。俺も今来たばっかだし、今日は防具でも見に行こうか」


 今日の方針を話してるとマスターが口を挟む。


「ん? 依頼は受けないのか?」

「先に装備を整えてくるよ。依頼は今日は受けられないかもな」

「そうか。フィリップによろしく伝えといてくれや」


 そういえば前のお礼も用意しないとな。市場で適当にラム酒を一本買うとレシステンシアに向かう。ドアを開けると相変わらずハゲかけた頭でフィリップ店長は無愛想に俺達に呟く。


「いらっしゃい」

「この前はどうも。これあの時のお礼です」


 酒瓶をみると急に表情が変わった。ホクホク顔でこちらを見ると、


「おお、コイツはいい、お前解ってるな」


 15オーロのラム酒は良い物なんだろうか。急に態度が変わりこちらを見渡す。


「仲間も連れてるってことは装備の買い替えに来たか」

「はい、約束のマント買おうと思って」

「もう用意してあるぞこれだ」


 黒いマントは革が裏打ちされており、見た目より重く感じたが、これなら切り傷を減らせそうだ。打撃に耐性がありそうなのも嬉しい。


「フィリップさん。500オーロくらいでいいガントレットないかな?」

「500あるんなら充分なモンがあるぜ。ちょっと待ってな」


 奥にフィリップ店長が入っていくと柊とニジエは色々見始めた。そういえば柊は防具どうするんだろう? ニジエ向きの防具も無さそうだ。


「あったあったこれだ」


 奥から取り出したのは手袋のように指が独立しているガントレットで前腕部まで金属板で覆われている立派な物だった。


「コイツは新しい型でな。ガントレットとヴァンプレイスを合わせたモンだ。なかなか優れモンだぞ。はめてみろ調節してやる」


 言われて手を差し出し、手袋のようにつけ前腕部を革ベルトで固定すると腕に良く馴染み、また動かしやすくもあった。


「お前もどの防具が重要か解ってきたな。コイツは500オーロだ。マントと締めて550オーロだぜ」


 俺は財布から支払うと次の目的に入る。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る