夢k-10
2人一組で荷を乗せる。どうやら樽の中身は水のようだ。一応満タンでは無い。まずニジエと新堂がペアで樽を乗せ、新堂のみが下りてくる。これを繰り返せばいいのか。ニジエは樽の中身を満たして蓋をする。4往復で全員乗れるが怪しまれ無いように8往復で全員が姿を消した。樽は全て満タンになったようだ。樽の奥にうずくまるように姿を隠し、最後に麻のシートを被せると外から声が聞こえる。
「なんだよ! 全員逃げちまいやがって。こりゃコリンに文句言わねえとな。」
俺達は荷運び中にバックレたというわけだ。すぐに馬車が出発する。門で検査があるだろうが大丈夫だろうか? 耳を済ますと声が聞こえて来た。
「現在は戒厳令が敷かれている。荷を改めさせてもらうぞ」
これは多分、兵士の声だ。
「構いませんぜ、見るだけ時間の無駄だと思いますがね。さあどうぞ」
おい、これ大丈夫なのか?
「樽? 中身はなんだ?」
「中身は水でさ。飲料用のね。こいつはルンレストの冒険者が有志で募金を募ってこんな物でも、送ってくれって頼まれましてね。もし、先の襲撃でタラントの井戸が潰されてたら、水はいくら有っても足りないでしょ。どうぞ中身を確認してくださいな。なんなら、樽8個分の売買証明もありますがね。あれはヘンリーのとこだったな。」
だから中途半端に水が入っていたのか。麻のシートの手前が開けられる。どうやら樽の中身を確認しているようだ。
「確かに水だな。売買証明にも飲料水8樽分か、では全ての樽がそうか?」
「もちろん、たかが水でもコイツにはルンレストを守り抜いた冒険者達の心意気が詰まってるんですぜ。そういえば門前の兵士も随分亡くなったとか。それを疑うんなら、さあどうぞ。俺なら匂いだけで分かっちまいますがね」
するとスンスンと匂いを確認しているようだ。皆息を殺す。
「早くしてくれませんかね。コイツは飲料水ですぜ、時間かけると悪くなっちまいますんで」
「そのようだな。先の防衛戦では私の友人も命を落とした。急いでタラントへ届けてくれ」
だから水だったのか。情に語りかける話し方といい、誤魔化し方といい、コイツはプロの詐欺師のようだ。馬車が門を出ると、ジェイムズは馬を操りながら、声をかけてくる。
「俺はお前達の事なんざ3日もすれば忘れちまうからよ。只の詐欺師だ。感謝は金でしてくれ」
金にもシビアか。これで俺達は明日からキブツ領では行方不明というわけだ。もし騒ぎになっても来栖先輩は行き先をタラントまでしか知らない。このままカ―チンガを目指せればいいが。その前に俺は気付いてしまった。
「新堂、お前いくらか持ってる?」
「あと金貨4枚ね。どうしたの?」
「俺達だとあと9枚しかない……」
「馬鹿ね。今回は出してあげるわ。これはツケとくからね」
仕方がない、貸しは高くつきそうだが、この際文句は言ってられない。ジェイムズが声をかけてくる。
「お前ら、そろそろ、領地が変わるぞ。シートに包まって隠れろ。タラントで樽を下ろすのは住民に手伝って貰い、今度は空の樽を乗せるんだからな。行き先はカ―チンガだと聞いてる。タラントで人に見つかるヘマはするなよ」
そうか、タラントで荷物下ろさないと不自然だからな。なんだか、こそ泥になった気分だ。ニジエはニコニコしている。
「私、こんな悪い事してるの初めてです。いけないのかもしれないですけど、兄さんに内緒なんて、結構ワクワクしちゃいます」
「お気楽ねぇ。まあ変に緊張されるよりはいいけどね」
「しかし、今度はカ―チンガか。何だか楽しみじゃん」
「もう少し速度出ればいいんだけどな」
楽しめればいいが、何だか今回も厄介ごとが待ってる気がする。馬車はのんびりと進む。出来れば速度を出して貰いたいが、荷が重いんだろう。
「心配すんなよ。今夜にはカ―チンガに着いてるさ」
こちらの声を聞かれたのだろう。こうなっては待つしかない。
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