夢j-5

 来栖先輩に近づくのは不可能だ。でたらめに剣を振り回している。アレに触れたら俺もただでは済まない。新堂なら頭を抱えてうずくまってるだけだ。あの靄は幻覚にかかった後に切っても意味があるのだろうか? 待つか、博打にでるか。待ち時間はあまり多くない。ここは博打か。イメージしろ。当てるのではなくかすめる一振りを、間違えば新堂をこの手で殺してしまう。待ってればまた引き裂かれてしまう。そんな姿見たくない。ここの床は幸い滑らかだ。何か模様の様なものが見えたが今見てる場合じゃない。新堂の頭をかすめる一振り、それに今までの技の全てを込める。新堂を挟んでサキュバスクィーンと一直線になる瞬間、剣を突き出し靄を打ち払う。そのまま手元を引くように滑らせるように新堂の頭スレスレをなぎ払った。頭の上の靄が消える。頼むこれで正気に戻ってくれ。


「新堂ゥゥ! シャキッとしろぉぉ!」


 願いを込めた叫び、うずくまっていた新堂が立ち上がる。


「陽菜! 私に随分な言いようね!」


 こちらを向いた顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったが。瞳には力が戻っていた。賭けは勝ちだ。


「陽菜、アンタ仲間は?」

「心配ない。すぐに来てくれる。それより今は敵に集中しよう。お前は後ろに下がって指揮しろ」

「来栖は?」

「今はどうしようも無い。仲間が来るまで他の事考えてる暇ないぞ」


 今も常に黒い靄が放たれ続けている。それを払うのに手一杯だ。


「アンタどこに剣振ってんのよ」

「コイツ幻覚魔法を撃ってきてるんだ。それを振り払ってる」


 新堂には見えないのか、やっかいだな。


「じゃあ、その幻覚魔法を打ち払って、どうやって私を解除したの?」

「頭の上にかかってる靄を斬ったんだ。来栖先輩にもかかってるけど、近づけない」

「なら、近づきましょう。あんな出鱈目な振りの剣なんていくらでもさばけるわ」

「頭を狙うのは博打になるぞ」

「難しく考えないでダンスと同じよ。来栖に合わせて動けば止まってるのと変わりないわ」


 いや、難しいだろそれ。でもやらなきゃいけないんだろうな。


「次の剣戟をいなすから、アンタは来栖に張り付きなさい。そしたらその幻覚を斬り払って。できるでしょ、私が教えた剣なんだから」


 新堂は俺の剣を信じてくれているようだ。期待には答えたくなるな。来栖先輩の大振りが来る。新堂は柳のようにサーベルでその剣戟をいなす。


「今よ!」


 言われなくても、チャンスはここしかないだろ! 俺は来栖先輩に張り付き、共に踊るように2歩ステップを踏んだ瞬間、頭の上を突いた。靄が霧散し、こちらに倒れてくる。転がって避けると来栖先輩は地面に倒れた。


「いい判断よ。私は来栖を起こすからその間、攻撃防いで」


 てっきり避けて怒られるかと思ったが、戦術的に悪くない判断だったらしい。


「陽! 助けに来たぞ!」

「タツヤさんお待たせしました!」


 ようやく援軍到着か。これで相手の手数を上回れる。


「この靄をなんとかするの手伝ってくれ」

「任せて下さい。丁度良く水たまりがありますね」


 あそこは新堂がうずくまってた位置だ。もしかしてあの水たまり……いや考えるのは止そう。今は勝つ為に手段は選べない。


「水よ! 靄から私達を守って!」


 え? その詠唱大丈夫なのか、だってあの水たまりは多分……考えるまえに水をまとった感じがある。これなら靄にある程度抗えるだろう。あんなものでも今は仕方ない。


「ニジエ、消耗は?」

「後2回なら何とか……」


 やはり消耗は激しいか。新堂を目の隅で見る。来栖先輩が顔をはたかれてる。戦列復帰は遠そうだ。宙を舞う敵は微笑を浮かべてこちらを見てる。どうすればいい、ニジエは攻撃魔法を無駄撃ちさせられない。考えろ。俺にはこの小賢しい頭しかないんだ。不意に思いつく一発逆転の手段。


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