現実d-15

「よし、最後にストレッチをしようか。明日は筋肉痛に悩まされるだろうけど、少しは軽減されるから」


 体育でやる柔軟体操を済ませると。もうへとへとだ。柊を見ると案の定、死体のようになっていた。


「始めるには遅いがコヤツなかなか見込みがあるな。よし、明日から空手部に来い。サッカー部には俺から言っておいてやろう」


 柊は強制的に空手部に入れられるようだ。本条先輩の強引さは来栖先輩の比では無いようだ。


「言っておくけど、これから毎日なんか奢りなさいよ。タダで教えるほど暇じゃないんだからね」


 どうやら虹江とのデート代はコイツの腹に消えるようだ。


「あつちの世界じゃダメか?」

「ダメに決まってるでしょ。教えてるのはこっちの世界なんだから」


 やはり甘くはない。本条先輩は不思議そうに尋ねる。


「さっきから敵とかモンスターとか何の話だ? まさかゲームの話じゃあるまいな」

「違うに決まってるだろ。ゲームならこんな練習しないって」


 来栖先輩がフォローをいれる。どうやら本条先輩は夢の世界には来てないらしい。


「ふん、何も怒っている訳では無い。気を抜き休むのも修行のうちだ。かく言う俺も最近ゲームを初めてしまってな」

「似合わないな。どんなゲームだ?」

「アーマゲドンオンラインと言ってな。後輩がやっているのを見て叱ろうと思ったが、これは中々面白いぞ。俺はダークモンクを使っているが、こういう動きは中々惹かれるものがあるな」


 似合わなすぎる……本条先輩すらハマるとは、アーマゲドンオンラインってそんなに魅力があるのか? 柊はよろよろと本条先輩の前に立ち押忍と挨拶すると。


「俺からすべき助言としては2人共細すぎるな。もっと食え。食った分を筋肉に変えろ。武の基本だぞ」

「それは今日の帰り、本条がご馳走してくれるってことで構わないのかな?」


 来栖先輩が言うと本条先輩はしまったと言う顔をしたが、すぐに気を引き締め、


「仕方があるまい。今日は奢ってやろう。2人共遠慮せず食うがいい」

「勝さん、私もいいわよね?」

「もちろんカナちゃんもだ。来栖は遠慮しろ。財布がもたん」

「つれない事いうなよ。大丈夫、今日は腹3分目くらいにしておくからさ」


 あの大柄な身体だ。来栖先輩もさぞかし食べるんだろう。正直、今は吐きたいくらいだが、これは先輩の好意に甘えておかなきゃならない場面か?


「本条先輩、ご馳走になります」

「押忍、俺もっす」

「奢るといってもファミレスだがな」


 こうして地獄の様な時間は終わった。毎日これをやるのかと考えてると辟易しそうだ。でも柊に比べればマシだろう。5人で鶴見駅に着く頃にはとっくに日がくれ、雨は上がっていた。手頃なファミレスを見つけ、ボックス席に座る。俺と柊が手前に座り、目の前に本条先輩、新堂、来栖先輩だ。なんだか向こうは窮屈そうだ。

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