夢k-3

「今回の防衛戦、みんなご苦労だった。冒険者の被害は死者が14人、再起不能はまだ把握しきれない。正直に言って、これは勝利とは言い難い。だが今生きてる者は死者への敬意を表し、献杯しよう。飲み物は今レベッカに運ばせるからな」


 みんなが黙る中、ボロボロの斧をテーブルの横に置いた若い冒険者が叫ぶ。


「城の騎士団は何してたんだよ! 俺達、こんなに仲間が死んだんだぞ!」


 マスターは言いづらそうに答える。


「貴族を城にいれ、そこに控えてたそうだ。知っての通り、現騎士団長は元冒険者だ。かなり食い下がったようだが、子爵様は出撃の許可は出さなかったようだ」


 周りから不満の声があがる。貴族以外は守らないのかよと。俺も同じ気持ちだ。あの時、騎士団が出れば被害はもっと少なかったはずだ。そこで来栖先輩が左手を上げ立ち上がる。


「みんな、騎士団に文句があるのは間違いない。でも逆に考えたらどうだ? この街を守った中心にいたのは俺達冒険者だ。つまりこの手柄は金に変えられない、この街の人々を俺達が守れたのがその証だ。俺も一時危なかったけどこうして生きてる。ここで不平不満を言うのは、このルンレストを守って死んだ仲間達への侮辱と変わらない。俺達は城の騎士団よりも勇敢で強かった。そうじゃないか?」


 水を打ったかのように周りが鎮まる。そうだ。俺達がこの街を守ったんだ。レベッカは察してか無言でジョッキを周りに置いていく。皆にジョッキが行き渡ると来栖先輩は左手でジョッキをかかげ大声で話す。


「それでは今生きてる運のいい奴らと、亡くなったルンレストの守護神達に。献杯」


 皆ジョッキをかかげ一気に飲み干す。すると俺は違和感に気付いた。後で治して貰おうと思ってた傷が癒えていくことに。マスターはポーションをみんなの飲み物に混ぜていたのだ。恐らく自腹を相当切ったのだろう。有難い心遣いだ。味もおかしくないことから高価なポーションを使ったのだろう。皆口々に今回の闘いを誇っている。俺も仲間を見る。ニジエは疲労が多少あるが、無傷だ。柊は多少の怪我はあるものの、元気そのもの。来栖先輩も笑顔でジョッキを煽る。新堂は無口で無表情だ。何故だ? 今回の勝利の立役者だし、無傷なのに……言いづらそうに新堂が口を開く。


「来栖、右腕動かないんでしょ……」


 なんだって? 傷跡もなく繋がっているのに。


「やっぱり香苗は気付いたか。全く動かない訳じゃないんだよ。多分神経は繋がってる。指先は辛うじて動くけど、腕が持ちあがらない」


 それは剣士として絶望的な宣言だ。ニジエが失敗した訳じゃないだろう。だがもう来栖先輩は……ニジエが声を上げる。


「ごめんなさい! 私が失敗したからです。本当にごめんなさい!」


 新堂が遮るように言う。


「ニジエのせいじゃないわ。むしろよくやってくれたくらいよ。私が悪いのよ。あの時、前に出過ぎたから……」


 来栖先輩は厳しく言い放つ。


「2人共、俺の怪我を勝手に自分のせいににするのはやめてくれ。この傷は俺が剣士として闘った証だ。2人は俺を未熟者だと侮辱したいのかい?」


 そう言われると2人は黙った。


「多分、リハビリでこの右腕は元に戻せるさ。それに剣は左手でも振れるからね。心配はしなくていい。何よりここは夢の世界だ。現実には影響ないさ」


 言われて気付く、そうだ、現実とは違うんだから何も問題は無い。少し安堵する。来栖先輩は続ける。


「だけど、クレイモアは残念ながらしばらく振るえないだろう。達哉君、非常識なことだが、俺と剣を交換してくれないか? あれなら片手で振るえる。俺のは安物で申し訳ないけど」


 申し訳なくなんて全然無い。俺如きが来栖先輩の剣を受け継げるかが心配だが。

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