―――夢d
夢d-1
起きると身体の一部分がやたら元気になっていた。あんなことを考えていたのだから仕方ない。アレなゴムを渡した父さんを少し恨み、落ち着くと装備を装着して隣の部屋の柊を起こしに行った。
「おいっ、朝だぞ。起きろよ」
予想通り返事が無い。鍵のかかって無いのを確認すると不用心だなと思いながら、ドアをこっそり開けると、レガースを壁に立てかけ、丸まって眠る柊の姿があった。
いつまでも野郎の寝顔を見ている趣味は無いので強引に叩き起こすことにした。肩をゆすり、頬を叩き、しまいにはベッドから転がり落としてみる。するとようやく起きた。
「おはよう、良い朝だぞ」
なるたけ爽やかに朝の挨拶を済ませる。しかし柊は無理矢理起こされたからか不機嫌そうだ。
「何するんだよ。おはよーじゃねえって。危うく現実で蹴りの練習しながら庭で寝るとこだったじゃん」
どうやら夢の世界で起こされると現実では眠くなるらしい。これで1つ謎が解けた。だが逆はどうなんだろう? 興味は尽きない。
「せっかく起こしてやったんだから怒るなよ。それに早めにギルドに行った方が、割りのいい依頼が多いんだぜ」
「そうなのか、なら仕方ないな、早いとこ装備を整えてギルドにいくか」
柊はベッドに座りレガースを着けている。両足に付け終わると軽く蹴りを空振りし感触を確かめていた。空を蹴る風圧をこちらまで感じる。
「よし、行こうぜ。ニジエさんも来てるかな?」
「いや、まだ早いだろ。ニジエは貴族街に住んでるから抜け出てくるのは時間かかるだろうし」
「ニジエさんってこの世界では貴族なのか? 通りで上品な感じがすると思ったわ」
「ま、とりあえず、俺達は早めに行っていい依頼取って待ってよう。集まったらすぐに出発出来るようにな」
「あ、集まると言えば、昼はなんで呼ばなかったんだよ。なんかハブられたみたいで悲しいじゃん」
「その辺はニジエを待つ間に説明するよ。とりあえずギルドに向かうぞ」
やっぱり柊は気にしていたか。もっともしつこい詮索はしてこないので、ある程度理解はしてくれそうだ。青銅の蹄に着くと、マスターが少し驚いた顔で迎えてくれた。
「随分早いな。どうしたんだ?」
「今日から3人でパーティー組むから、報酬が良くて初心者向けの依頼なんかあるかなって思ってさ」
「正式に組むことにしたのか。戦士、格闘士、魔術師か。良い構成だな。今日は討伐依頼が出てるぞ。試しに挑んでみたらどうだ?」
「アバダン平原かな? またコボルト狩りがあれば丁度いいんだけど」
「いや、今回はチュレアの森での討伐依頼だ。苦い経験もあるだろうが、ここでリベンジしておくのもいいだろう」
「ちょっと待ってくれ。柊……いやユウタはまだ防具がクロースだぞ。ウェアウルフの一撃でおだぶつだ。ニジエだって未熟なんだぞ」
「確かにそうだな。だが格闘士はお前みたいに鎧なんて着込まんし、ニジエは随分、治癒魔法が得意らしいじゃないか。経験者であるお前がキッチリ、リーダーを果たせば不可能じゃない依頼だと思うがな」
話しぶりからするに今回はテストなんかじゃなく本当の討伐依頼のようだ。マスターの口調は真面目で、意地の悪い感じはしない。どうやら本当に俺達で可能だと吟味しているようだ。
「一応聞いてみるけどどんな依頼なんだ?」
「ウェアウルフの爪20本を討伐の証拠に納品。報酬は1500オーロだ。万が一、オーガの角を持って来たら1本につき300オーロの追加報酬が出る」
眩暈のしそうな依頼だ。前回のことを思い出すとそんな依頼は不可能なのではないか? 一応柊にも尋ねてみる。
「報酬はいいんだけどちょっとヤバそうなんだが、やってみたいか?」
「そうだな。報酬を三等分するなら、ある程度のリスクは仕方ないんじゃん。それにこの依頼こなせば一気に装備整えられそうじゃん。やってみようぜ」
どこからその自信がくるのか、柊はやる気になってるようだ。こうなったら後はニジエの判断を待つしかない。俺はマスターにニジエが揃ってから決める旨を伝えるとオレンジジュースを2つ注文し、テーブルに向かう。やはり現実のフードコートのジュースよりこちらのジュースのが味が濃くて美味い。昼のことを思い出していると柊は思い出したように、
「そう言えばお前、現実でニジエさんと会ってたらしいじゃないか。悠紀夫からSNSでメッセージが回って来たぞ」
お前もか! と言い出したくなったが、彼女疑惑をかけられてないだけマシだろう。
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