夢e-9

「ニジエ、ガルムってモンスター知ってる?」

「はい、ハウンドより2回り大きく強烈な炎を吐くモンスターです。しかし普通はあまり群れを作りません」

「普通は?」

「言いにくいんですけど、統率するモンスターがいる場合は別なんです」

「統率するモンスター?」

「はい【ケルベロス】がいる場合は、統率された動きをする為、群れをなすそうです」


 ケルベロス! それくらいは俺でも分かる。地獄の番犬、伝説級のモンスターじゃないか。そんなのと闘えるのか? オーガも倒せない俺達が。


「でも、ガルムもケルベロスも属性とか火っぽいじゃん。ニジエさんの魔法があれば案外イケるんじゃん」


 そんな単純なことでは無いだろう。あの纏わり付く水はあまり多様できないのだ。この街では補給もままならない可能性もある。まだ武器も大したものじゃ無いのにそもそもガルムと闘うのすら未経験なのだ。これは生きて帰れるかどうかすら怪しいことになりそう……出来るとしたら明日の現実で可能な限り強くなることだ。それで間に合うのだろうか? さっきまで有頂天になってたのがバカみたいだ。俺は意を決して言う。


「ニジエ、明日は俺と柊は可能な限りトレーニングをしてから向かう。ガルムまでならなんとかなりそうだが、ケルベロスはヤバすぎる。だから明日は散歩に出ても会えないと思って欲しい」

「俺もかよ、そんなやべぇ相手なん?」

「ヤバすぎる相手だ。いるかどうかまでは解らないが、最悪の状況に備えて、いる方向で考えよう」

「ええ、逃げることも視野に入れた方がいいですね」

「トマス、ケルベロスがいる可能性はあるか?」

「それなんだがよく解らねぇんだ。もう銅山が封鎖されて2日たつんだが、昨日1人生きて帰って来た奴がいるくらいだな」

「その人に話聞けるかい?」

「無理だな。さっき話したろガルムが群れでって。そいつはそう言い残して死んじまったよ」

 

 最悪の可能性を考えた方が良さそうだ。


「今日は早めに寝よう。明日は命懸けになるぞ。今まで以上にな」

「私は魔法の使い方をもっと工夫してみます」

「俺は本条先輩に死ぬまでシゴかれてくるか……」


 急に気まずくなる。こんな料理が最後の晩餐なんて嫌すぎる。とにかく現実でできる限りの事はしよう。今日はもう宿に帰らなければ。

 宿に着くと雨が降ってきた。


「真っ暗で残念です。出来れば昼見たいのに」


 ニジエはそんな事を漏らす。明日は銅山でまずガルムの様子を見よう。そうだ。何も明日ケルベロスに挑まなくてもいいじゃないか。時間をかければこちらも強くなれるし、もしかしたらケルベロスも去るかもしれない。

 部屋に入るとそんな事を考えながらゆっくりいこう、焦る必要はないのだ安心して寝よう。いくぶん気楽になるとベッドに入る。明日はとりあえずトレーニングを頑張ろう。そんな考えに支配されると睡魔が襲う。


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