現実k-5
「バカ言わないでよ。私がそんな訳……」
「そうなんだよ。お前は小さい頃から、俺に着いてき過ぎた。でも、俺は香苗の寄りかかれる人間にはなれないんだ。認める所は認めろ。達哉君には俺からもお願いするから」
見ると、新堂が涙ぐんでいる。あの気の強い意地っ張りが。
「私……周りがおかしくなってるの薄々勘づいて……でもどうにもできなくて……クラスから独りぼっちになっていくようでそれで……」
「そうだろうね。戦術士になってから更に責任は重くなった。お前はよく頑張ったよ、達哉君、納得いかないかもしれないが、ここは1つ兄としてお願いできないかな」
来栖先輩が深々と頭を下げる。生意気な新堂があんなにも寂しがり屋だったなんて。よく見ればか細い腕、思ってたよりずっと小さい肩。新堂は女の子なんだ。今さら再確認する。
「分かったよ、新堂。来栖先輩にこんなに頭を下げられたら断れないだろ。でもあくまで学校限定のフリだからな」
「ありがとう、これで俺は安心して左手の剣に集中できるよ」
「ありがとう、陽菜。じゃあ、今日もビシビシいくわよ」
涙を一度拭うといつも通りだ。立ち直りが早いな。それでこそ新堂だ。だが今後は俺がサポートしていかないといけないだろう。メンタルサポートもリーダーの役目のはずだ。この際だ俺も気になってたことをぶちまけよう。
「新堂、一番最初にお前に打たれた時なんか違和感があったんだけど、あれ何したんだ?」
「ああ、あの時ね。単に気配を消しただけよ。陽菜の剣はうるさすぎるのよ」
剣がうるさい? どういうことだ?
「ごめん、もうちょっと解り易く説明してくれ」
「仕方無いわね、いい、構えや呼吸も含めて見るんじゃなくて感じられるようにするの。これが第一段階ね。そしたら自分の隙も無くしていくのよ。自分が感じたことの逆をやるのよ。これが静かな剣、相手からは読まれにくくなるし、相手を読みやすくもなるわけよ」
言わんとしてる事は分かるが。出来るかと言われれば疑問が残る。見るから感じるに変化なんて出来るのだろうか? 竹刀を見ながら頭をひねる。
「アンタはこれ以上、武器が強くならないんだから、地力を上げるしかないのよ。無理なんて言わせないからね」
新堂は目の前に立ち、正眼の構えをとる。まて、この感じ……
「正眼の構えを取って、絶対動かないでね。打ち込まないから」
俺は言われた通り構える。新堂が最初に打とうとしてくる場所を探る。目線、肩の動き、呼吸、それだけじゃ無い筈だ。全体の感じとは、勘に近いものか? いや、そんな博打的な物では無い筈、俺は目を瞑る。来栖先輩の声が聞こえる。
「それでいいんだ。視覚以外の感覚をフルに使えば分かるはずだよ」
新堂の長く細い呼吸を感じる。確かに静かだ。これが静かな剣か。まだ深く感じられるはず。より潜るように、こちらも静かに肌に感じる空気の流れ。これを感じてるのか。新堂の打つイメージ。この感覚に近いのは虹江と息を合わせたあの時か、敵の動きすらも感じる。左小手を打たれる感触、まだ打たれてないが熱い物をヒリヒリと感じる。瞬間、新堂が動いたのが分かる。一層熱を感じ、打たれるのがはっきり分かった。刹那、拍子をずらすように後ろにすり足をする。
「え、ちょ、ちょっと、あ」
新堂の竹刀が手前で空を斬るのを感じる。目をあけると焦る新堂と、笑顔の来栖先輩が見ていた。
「動かないでっていったでしょ! 寸止めしくじるとこだったじゃない」
「結果は最高だったけどね。少し汗を拭きなよ」
俺は汗をかいてたのか、精神的には凄まじい消耗だ。汗を拭いながら聞く。
「新堂は汗1つかかずにこんな真似出来てたのか。通りで勝てない訳だ」
「あの時は陽菜が遥かに格下だったからよ。まさかいきなり機をずらされるとはね」
「達哉君は本当に飲み込みが早いね。今、香苗は相当な速度で打とうとしたはずだよ」
「寸止めを意識したから最速って訳じゃないけどね。反応するかもとは思ったけど、ここまでとは驚きだわ」
どうやら、俺は中々の芸当をしてたらしい。自覚は無いが、いい結果のようだ。
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