夢b-12

「さっき助けに行った後、治癒魔法使えてたよね? その後集中力が薄れてたって言ってたのにそれはどうして?」

「それはですね、相手を傷つけたいって意味での集中力は薄れてしまってたんですけど、怪我を治したいって思いはむしろ強くなっていたからなんです。それに魔法って無限に使える訳じゃないんですよ。あんまり使いすぎると眩暈がしてくるんです」

「へぇ、やっぱりMP切れみたいなものにペナルティはあるんだ」

「エムピーですか? それはちょっと解りませんけど、魔法は使えば使うほど頭がぼんやりしちゃうんです」


 確かに無制限に打てたら遠くから魔法撃ちまくって、モンスターなんて狩り放題だろう。夢の中とはいえその辺は甘くないようだ。


「じゃあ、さっき襲われてたのは魔法を使えなくなった所を狙われたってこと?」

「いえ、撃つには撃てたんですが、1撃で倒しきれ無くなってて、そしたら仲間を呼ばれて襲われてしまって……」

「その辺は経験なんだろうね。ちなみにどんな攻撃魔法を使えるの?やっぱり派手に火を放つとか?」

「私は火の魔法は使えなくて……水系の激しい水流で吹き飛ばすような魔法です。火はイメージできなくて。熱いものだというのは解るんですが……」


 俺なら火の方がよっぽどイメージしやすいが、ここらへんも個人差があるのだろうか?


「そうなんだ、今日はもう魔法は使えない感じ?」

「いえ、こうして落ち着くと少しずつ集中力が戻ってくる感じです。私、マンダリーノのジュースを飲むと頭がスッキリするんです」


 マンダリーノはオレンジに似た果物で、モノによってはかなり酸っぱいが基本は甘い果物だ。味の当たり外れの激しい果物だが、店でジュースとして出すからにはある程度確認してるのだろう。


「今日初めてここのお店で飲みましたけど、ここのジュースは凄く美味しいです。甘味と酸味が上手く調和してるというか、これなら早めに集中力も回復しそうです」


 流石はマスターだ。客に必要なものを長年の経験から把握できるのだろうか?


「なら、それを飲み終わったら依頼にいこうか。ハウンドの毛皮1枚なら1時間もかからず終わるだろうし」

「はい、解りました。まずタツヤさんが攻撃をして仕留めていく感じですか?」

「いや、まずニジエに魔法撃ってもらって俺が仕留める感じにしよう。せっかくだし、間近で魔法も見てみたいしね」

「じゃあ、そうしましょう。タツヤさんは魔法をあんまり見たこと無いんですね」


 一応、初日に見たことはあるが、あの時は半分錯乱しており、女性が杖を突きだし小声で何かを呟いたと思ったら、閃光が走り派手な爆発と共にゴブリン達が蒸発した記憶しかない。あれは何魔法なんだろう? 爆発魔法なんだろうか? まだ生きてることを確認した俺は怯え切っており、街に連れていってくれるまで碌にお礼も言えない有様だった。ふと、あの女性にはあれからまだ会っていないことに気づいた。


 あの後知ったことだが、あの時飲ませてもらったピーチ味の即効性ポーションは200オーロ以上もする高級品だった。瀕死の傷を全快したことからヘタしたらそれ以上かもしれない。美味しい味付きポーションは値段が跳ね上がるのだ。いずれそのお礼もしなければならない。

 マスターに名前を聞いてみればあれほどの女魔術師なら解るだろうが、まだ胸を張ってお礼を出来るレベルでは無い。次会う時は肩を並べられるような冒険者になってからだ。 残念ながらその日は遠そうではあるが……。今の相棒はニジエだ。なんとかウェアウルフには勝てたものの、俺のレベルくらいなら丁度いいだろう。もっともレベルもHPもMPも数値化されてないのでなんとも言えないが。おっとこんなこと考えるのは良くない、恐らくニジエに付き合うのは今日だけになるのだろうから……。

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