夢b-13

 そんな考えをしていると、ニジエがジュースを飲み終えたようだ。呼ばれて意識を目の前に戻す。


「タツヤさん。こっちは飲み終わりましたよ」


 そう言われて残りのアップルジュースを急いで飲み干す。


「じゃあ、行こうか。場所はアバダン平原でいい?」

「はい、でもコボルト相手には自信がないので……」

「その時は任せて」

「はい! 頼りにしてます!」


 ちょっとのことだが、頼りにされるのは嬉しい。まあ怖い思いをさせる必要もないからコボルトには極力近づかないでおこう。


「ごちそうさん」

「ごちそうさまでした」

「おう、気をつけて行って来い」


 いつものマスターの声に送り出されると、ギルドハウスを出て、目抜き通りを抜け門を出る。ハウンドは比較的にルンレストから近くに生息しているが、流石に門が見えるような場所に近づくほど不用心なモンスターでは無い。何より今回は1匹でいるところを見つけなければならない。ニジエも自分の力で依頼達成する方が気分がいいだろう。俺はいざという時の備え程度でいい。ニジエの魔法が敵を撃ち漏らした時、それが今回の俺の出番だ。報酬は貰うとはいえ、できるなら初依頼は自力で達成したいだろう。貴族のお嬢様ならこれが最初で最後の仕事になるかもしれないのだから。

 門からしばらく歩くとおあつらえ向きにハウンドが1匹でうろついているのが目に入った。まだかなりの距離があり、ようやく視界に入った程度だが、あまり近づき過ぎても逃げられてしまう。ここに来て重要な事を聞き忘れていた。


「そう言えば、ニジエの攻撃魔法ってどれくらいの射程距離があるの? ここから見えるハウンドに届く?」

「いえ、もっとはっきり見えるくらいじゃないと当たりません。それに私、あんまり目が良く無いんです。1撃で倒すにはイメージを固める為に結構近づかないと……」


 結構魔法も制約多いんだな。いや、本人が目が良くないからイメージ出来ないと言ってるのだ。おそらくは射程にも個人差があるのだろう。


「ならもっと近づこうか。でもあんまり近づきすぎるとハウンド逃げちゃうよ。良い距離になったら早めに教えてね」

「はい、解りました。でも逃げる程の距離にはならないと思います。今ならかなり早めに集中出来そうですし」

「そんなもんなの?」

「ええ、自分を守ってくれる人がいるなら余計なこと考えず倒すイメージに集中出来ますから」


 なるほど、午前中、彼女は周囲を警戒しながら魔法のイメージを固めていたのか。想像は出来ないが、あの森での警戒疲れを考えると相当に疲弊することだろう。ハウンドに逃げられない距離を探りつつ少しずつ近づいていく。運がいいことにこちらは風下だ。目測で後10m程の時点でニジエが小声で声をかけてくる。


「ここなら大丈夫です。かなり良くイメージ出来ます」


 そう言われて足を止めニジエの邪魔にならないように半歩右前に陣取る。


「横殴りの激流よ! 敵を討って!」


 ニジエが叫ぶこれが彼女の攻撃魔法の詠唱なのだろう。次の瞬間、彼女の杖の先から急に大量の水が激しい水鉄砲のように放たれた。ちょっとした滝が真横に流れていく程の勢いだ。半歩横にいる俺にも飛沫がかかる。

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