夢b-14
「ギャオン!」
命中したハウンドは吹き飛び、地面に叩きつけられ、光に包まれた。勢いの強い水鉄砲程度だろうと思っていたニジエの魔法は想像していたよりもずっと凄かった。
「やった! 今回はイメージ通り上手くいきました!」
ん? 今回はイメージ通り? 午前中は違ったのか? あれほどの勢いと幅ならハウンド3匹まとめてでも吹き飛ばせるだろう。気になって尋ねてみた。
「今までとはなんか違ったの?」
「はい、練習の時はこれくらいの威力だったんですけど、今日はなんだか水が拡散しちゃって上手くいかなくて……」
成程、言葉どおりイメージを固めるのが重要なら周りを気にしながら撃つのと、気にしないで撃つのではそれなりに違ってくるだろう。正直、この威力なら直撃させればハウンドどころかゴブリンやコボルトクラスにも充分通用しそうだ。そんなイメージをしつつハウンドが倒れた場所を見ると1枚の毛皮が落ちていた。今回は運がいいようだ。
「あ、毛皮! これで依頼達成ですね」
「そうだね、正直、俺いらなかったかも」
「そんなことないですよ。もし失敗したらどうしようって考えないで集中できたから上手くいったんだと思います。だからタツヤさんのおかげです」
「そんなもんかな? とりあえず早めに毛皮拾っちゃいなよ。しばらくすると消えちゃうんだから」
あれは前にハウンドを狩りまくっていた時の事だった。数を減らし仲間を呼ばせ後でまとめて拾えばいいと考えて戦ったとき、8匹目を斬って仲間を呼ぶのを待っていた所、最初にドロップした毛皮がスゥッと消えてしまい焦ったことがあった。
「そんなこともあるんですね。解りました。」
ニジエは毛皮を拾うと俺と同じく左腰に付けた革製の道具袋に毛皮を入れた。やはり道具袋より遥かに大きい毛皮がすっぽり入る。
「これで依頼達成ですね。じゃあ帰りましょうか」
まだ日は高いが特に受けている依頼もないし、帰るのもいい、だがその前に聞きたいことがあった。
「それもいいんだけど、まだ魔法は撃てる?」
「はい、まだまだ撃てそうですよ」
「大雑把でいいんだけど、何発くらい撃てそう?」
「う~ん、ザックリですけど今の感覚なら後5発は撃てそうですね」
「なら、後3発くらい撃ってみない? もしかしたらもっとイメージが固まって水圧カッターみたいになるかも」
「水圧カッターですか? あんまりイメージ出来ないんですが、そんな物もあるんですね」
もっとも実物は俺も見たことは無い。自分のノートパソコンで何かの動画を見たことがあるくらいだ。確か理屈でいえば圧力を高めていけばそうなるんじゃないか? 今は横殴りの滝みたいなものだが、噴出口を狭めることが出来れば成功するかもしれない。
「なんて言ったら良いんだろ? もっと水の出口を狭めて一気に放出するような感じでさ」
「難しそうですね、ちょっと向こうの木で試してみていいですか?」
流石にぶっつけ本番でモンスター相手に撃たせるわけにはいかないだろう。俺は食い入るように12m程離れた木を見ていると、後ろからニジエに言われた。
「すみません、私の後ろに下がってもらえませんか? 今はモンスターもいませんし、それに……」
それに?
「その位置じゃ、間違って爆発しちゃったらタツヤさんも巻き添えになっちゃいますから」
暴発なんてのもあるのか。そんな危険微塵も考えていなかった。そりゃイメージで撃つんだから失敗もあれば最悪暴発もありうるだろう。特定の魔法が特定の効果になるゲームの世界とは違うのだ。慌てて後ろに下がる。そこで気が付いてニジエに言う。
「ちょっと待って、あんな量の水が目の前で爆発したらニジエも無事じゃないんじゃないか?」
こんな初歩的なミスを今更になって気づく。だがニジエはあっけらかんと答える。
「大丈夫ですよ。自分が出した魔法で自分が怪我する訳ないじゃないですか」
そういうものなのか? いやこれもイメージなのかもしれない。余計なことは言わない方がいいだろう。自分の魔法で自分が怪我をしないとイメージしているなら、物理法則など無視してそうなるのだろう。
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