夢d-12
女の服選びは長いと聞いたことはあるが本当の事のようだ。不服そうなレベッカに柊は提案する。
「なら、3日かけて選んでそれで決めるのはどうだろう? そっちの方が絶対似合う服、見つけられるじゃん」
おお、コイツ冴えてる! それなら今日は俺達の服だけ探せばすむ。しかしレベッカの返事は容赦なく現実的なものだった。
「そんなのダメだよ~。冒険者なんてすぐお金使っちゃうし、最悪死んじゃったりするもの~」
可愛らしい声で恐ろしいことをサラッと口にする。確かに冒険者は根無し草。3日先どころか明日の約束すらまともに出来ないだろう。約束と聞いてグリゴリさんのことを思い出す。
「レベッカ、大切なのは、約束することじゃないか。たとえその約束は守れなくとも、人はただ、希望を糧に生きているのじゃないかって」
「何それ? 私は今日がいいの~、そろそろ決めないともう帰るよ~」
「待て、解った、今から服屋を回ろう。可及的速やかに」
「なら、けって~い、まず私のおススメはね~……」
レベッカは機嫌を直し店を案内してくれるようだ。おススメがどうとかあの職人の編んだ生地は良いとか。おまけに柊は含み笑いをしながら、
「なあ、お前あれなんてマンガのセリフ? そんなのシラフでいうとかこの世界にハマりすぎじゃん。くぷぷ」
言うんじゃ無かった。あれはグリゴリさんくらいのミステリアスさが無いと単なる妄言にしか聞こえないんだろう。こうして俺達はレベッカの服を探すついでに自分達の服を探すハメになった。これじゃあ逆だが仕方がない。
「レベッカ、ニジエを待たせてるから本当に手早く頼むよ……」
「ええぇ~、女の子待たせちゃダメだよ~、タツヤはマナーがなってないね~」
半分くらいはレベッカのせいだがこれも仕方ないことなんだろう。ああ、どうニジエに謝ろうか。それだけを考えているとレベッカは矢継ぎ早に服を見せては似合うかどうか聞いてくる。
「ユウヤ~、これどう~?」
「似合うと思いますよ。そして俺はユウタです」
「わかったよユウヤ。こっちはどうかな~?」
全然わかってないようだった。俺はレベッカの相手を柊に任せ、自分で服を探し始める。この青のブルゾンいいな、などと考えてるとレベッカから不満の声があがる。
「ユウヤ解ってないな~こういう所で女性をリードしてこそ本物の紳士なんだよ~」
名前すら覚えて貰えないのに、あんな不満までぶつけられるなんて柊も災難だな。だがおかげでこちらは自由に服を選べる。俺は気に入った青のブルゾンと新品のシャツ、クリーム色のホーズというズボンを買った。お値段60オーロと服にしては高いがこれくらいのオシャレは許されそうだ。ここで着替えて行く旨を店員に伝えると今まで着ていたクロースは布に包んでくれた。
レベッカと柊のやり取りはまだ続いている。
「ねえ、ユウヤ、私には何色が似合うと思う~?」
「そうですね。若草色なんて元気なイメージで似合うと思います。それから俺はユウタです」
早くこのやり取りを終わらせねば。かと言って俺も女性の服を選んだ経験など無かった。ここに来てなんとなく解ったのだが、レベッカは見た目こそ全然違うものの美弥子に性格が似てる気がする。頑張れ柊、早く食事に行けるかはお前にかかってるんだぞ。
「そもそもレベッカさんは誰にその服を見せたいんですか?」
「んん~、それはやっぱりお店に来るみんなかな~」
ナイスな質問だ。これなら具体的にどういう服がいいか誘導できるではないか! 将来の参考の為に覚えておくことにしよう。
「それならこれはどうですか?」
柊の持ちだしたのは若草色のワンピースに白いエプロンのついたエプロンドレスだった。なんだかメイド喫茶なんかで見かけるような気がする形状だ。
「おお~ユウヤにしては悪くないね~、でもこれならワンポイントにスカーフも欲しいかな~」
もういい、それくらい買ってやれ。時間は万金を積んでも買えないのだ。結局、首元を飾る為に白地に黄色でクラシカルな紋様の入ったスカーフまで買い、値段は合計で80オーロもしていた。あのスカーフだけで30オーロもするとは女性服の価値は本当に解らん。
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