夢d-11

「今夜もウチで食ってくか?」

「たまには贅沢するよ。早めに空いてる、いいレストラン知らないかな?」

「普通はそういう所には予約を入れるもんだが、仕方ねぇな。ちょっと待ってろ。今、紹介状書いてやるから。」


マスターは普段使わない羊皮紙に何かを書きこむとリボンでくくり蝋印をした書簡を手渡した。


「封は開けずに持って行くんだぞ。貴族街の手前に行けばデカデカと【銀の塔】ってレストランがあるからそこへ行くんだ。予算は1人80オーロだな。それと間違っても、そんな装備着けていくなよ。ギリギリドレスコードは無いが、鎧姿で行ったりしたら紹介した俺が恥を掻くからな。マナーにも注意しろよ、後、代金はここで払っていくんだ。レストランでジャラジャラ銀貨を出すような田舎者のような真似するなよ」


 どうやら随分敷居の高い店らしい。料金は払うのでなく店員が取りに来るようだ。ニジエは思っていたことを口に出す。


「そんなお店なのにドレスコードが無いなんて変わってますね。普通見た目で入店できるか決められそうですが」


 俺も思ってたことだ。それぞれが80オーロづつマスターに支払いうと、マスターは意外なことを口にする。


「このご時世、貴族の次に金を散財するのは冒険者だからな。商人も金持ちは多いが、奴らの財布の紐は固いんだ。だからこっちで問題無さそうな冒険者を紹介することで成り立ってるんだよ。ギルドを通せば食い逃げされる心配も無いだろう」


 なるほど、確かに冒険者はその日暮らしな者も多いせいか金遣いが荒い。装備に酒に女と金に糸目を付けない輩は多い。そんなニーズを狙っての商売なのだろう。考えれば正装を持ってる冒険者なんて滅多にいなさそうだ。いや、ニジエならドレスくらいは持ってそうだが。


「じゃあ、一旦解散して各自汗を流してから銀の塔前で集合! 服装はなるべく綺麗な物を着てくること」


 こうして一時解散となった。ニジエは早足で貴族街に向かう。俺達はというと……。


「柊、お前それ以外に服持ってるか?」

「持ってる訳ないじゃん。お前はどうなんだ?」

「あるにはあるけどボロボロだ」

「……。俺ら服買いに行くとこから始めなきゃだめじゃん……」


 まさにその通り、今までこの世界で服なんて防御の為くらいにしか考えて無かった。正装とはいかないがせめて恥ずかしくない程度の服を買いに行こう。

 そう考えたらレシステンシアじゃダメだ。多分勢いで防具を買ってしまう恐れがあるし、かと言ってオシャレな服が売ってる店なんて知る訳も無い。


「とりあえず、武器防具置いて店さがした方がいいんじゃん?」


 柊の言う通りだ。防具屋ならともかく、まともな服屋に帯剣したまま入って騒ぎになったらシャレにもならない。俺達2人は番犬のねぐら亭に装備を置き、桶の水で汗を拭うとクロースとダガーのみを装着し書簡をもち、再び青銅の蹄前で途方にくれていた。


「もういっそマスターに聞いた方がいんじゃね?」


 柊のもっとも過ぎる意見に同意しようとした瞬間、高い声が響いた。


「タツヤとユウヤ? うちの前で装備も付けずになにしてんの~?」


 この声はレベッカだ。そうだ同じくらいの年頃の子ならオシャレな服屋も知ってるだろう。


「レベッカさん、俺はユウタです。タツヤと混ぜないでください……」


 こいつ名前覚えて貰えなかったの地味に効いてる……。しかし今はそんな些細なことどうでもいい。


「実はこれからレストラン行くのに恥を掻かない程度に良い服を買いたいんだ。レベッカならその辺詳しいんじゃないか? 良ければ案内して欲しいんだけど」

「してあげたいけど無理だよ。これからお店の手伝いがあるんだも~ん。でも、まあ、条件次第ならいいかな~」

「どんな条件なんだ? あんまり無茶な条件じゃなきゃいいぞ」

「実は私も新しい服が欲しいの。買ってくれるなら付き合ってもいいよ~」


 女の服選びか、なんだかヤバそうな気配がする。しかし背に腹は代えられない。


「いいだろう。だが俺達はあんまり時間が無い。ササッと選ぶならその条件で構わない」

「オーケーオーケー、3軒くらいで決めるね~」

「頼むから1軒にしてくれ……」

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