夢d-10

 納得したところで帰るとしよう。もう3時頃だろう。スワンプトロールの一件で昼食を食べ損ねた。昼食用に買ったマモーラはどうせ2、3日腐らないだろう。今日は奮発して高い店で食べるのもアリかもしれない。そう考えると自然と足取りは軽やかな物になった。2人に聞いてみる。


「今日昼飯食べ損ねただろ? だから帰ったら装備を置いてどこかレストランにいかないか? 早めでもやってる店はあるだろうし」

「お、それいいじゃん。今回で財布も潤うことだし、装備の分を残しても良い物食えそうじゃん」

「そうですね。私もそれに賛成で」


 こうして俺達の方向性は決まった。チュレアの森を抜け門を越えると、後1時間程で夕方の鐘が鳴る前に青銅の蹄に来れた。計算通りだ。


「ただいま~」

「おう、その顔は依頼成功ってとこか」

「まあね、これ依頼の品ウェアウルフの爪20本。確かめてくれ」


2人をテーブル席で待たせると、カウンターに爪の山を置く、マスターは手を切らないように本数を確かめる。依頼の数に達していることを確認すると、


「どうだパーティーでの闘いは。1人で闘うのと違うだろ?」

「ああ、大違いだ役割分担ってこんなに重要だったんだな」

「背中を任せられる相手がいるってのはそれだけで心強いもんだ。特に魔術師はありがたいだろ」


 その話で思い出した。直接の名前は出さないが聞いてみることにする。今回はお礼をしない訳にはいかないしな。


「マスター、火の魔術師で腕が立つ人知らない? 金髪の髪の長い美人で、前に俺を助けてくれたのと同じ人なんだけど」

「なんだ? お前もう仲間を増やす気か? しかも美人でブロンド限定だと、贅沢が過ぎないか?」

「違うよ。実は今日も、スワンプトロールに襲われたのを助けてもらったんだ。しかも一撃で」

「ス、スワンプトロールだと! お前よく生きて帰れたな。あれは滅多に出てこないモンスターだぞ」

「いや、実際助けて貰わなかったら死んでたよ。これ証拠」


そう言って道具袋からスワンプトロールの髭を出す。


「久しぶりに見るな。これなら追加で600出してやるよ」

「そんなに出して良いモンなのか?」

「これ自体滅多に出回らないし、魔法の触媒になるからな。好事家も欲しがる奴がいるだろうし、それくらいの価値はあるな」

「なんだ、なら直接売りに出した方が良かったかな?」

「バカ野郎、ギルドのお墨付きだから交渉の場に立てるんだ。お前が考える程甘くねぇってことよ」


 なるほど、直接売買よりギルドの依頼の報酬のが高くなるのは一種のブランドのようなものだからか。だが、今気になるのはそこでは無い。


「じゃあ、これは600オーロで引き取ってもらうとして、スワンプトロールを一撃で倒せる魔術師の情報は?」

「残念ながらこのギルドにはいない。だが心当たりはあるな」

「本当に? なんて魔術師?」

「名前は誰も知らんしどこのギルドにも加盟してないそうだ。ふらっと現れては、はした金で厄介な依頼をあっという間にこなしていくらしい。あだ名は『火竜の花嫁』なんて呼ばれてるみたいだ。話し通りならお前さんが助けられたのはこれで2回目になるな」


 参ったな神出鬼没じゃ礼の言いようもない、しかし気が向いたら現れると言ってたし、また会う機会はあるかもしれない。ボーっとそんな事を考えているとマスターの一声で銀貨の山の前に引き戻される。


「普通、1000オーロから先は金貨で払うもんだが3等分するんだろ? なら銀貨払いだ。仲間を呼んで早くしまってくれ」


 そう言われ、テーブルに座っている2人を呼び戻す。マスターは気を利かせて銀貨の山を三等分してくれたようだ。


「スワンプトロールの髭で600オーロ追加されたから、当初の依頼報酬1500オーロに加えて2100オーロ。1人当たりの取り分は三等分で700オーロでいいかな」

「マジかよ。最高じゃん。この銀貨の山、こんなの現実じゃ絶対お目にかかれないぞ」

「私は最初の500オーロのみで充分です。スワンプトロールからは逃げてただけですから」

「いや、最初に魔法撃ったじゃん。それに逃げてただけなら俺ももらう権利ないぜ。精々ハウンド蹴っ飛ばしてただけだからな」

「そうだよ。それに報酬は三等分する取り決めじゃないか。受け取って貰わないと困るよ」


 するとおずおずとニジエは仕方ないとばかりに銀貨を財布に入れ始めた。

 何はともあれこれで1人700オーロ以上の金が手に入った。マスターも上機嫌だ。

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