夢d-4

「少し怖いですけど、受けてみませんか? 私もっと自分に自信を持ちたいです」

「そうだな、女の子がこう言ってるのに、ここで逃げたら男がすたるじゃん。俺も賛成で」


 理由はそれぞれ違うが方向性は決まった。マスターに討伐依頼を受ける旨を伝えると、快く送り出してくれた。必要な買い出しを済ませると、今回はアバダン平原に向かわず、門を出て真っ直ぐ南西に向かう。このルートならチュレアの森まで1時間かからず着けるだろう。森に入る前にフォーメーションを確認しておく。


「基本は俺が斬り込むから、ニジエは弱めの水の攻撃魔法で援護して。柊はニジエから離れないようにしながら出てくるハウンドを倒してくれ。けどまずはニジエを守ることに集中して欲しい。数が多いから長期戦になる。警戒も重要だが、不要な消耗は2人とも極力抑えてくれ。特にニジエの治癒魔法は生命線になる可能性があるから頼りにしているよ」


 こんな所だろうか。前回の反省から見落としはないだろうか? 自分がリーダーとなると急に不安になる。今までの人生でリーダーなんてしたことないしな。人の命を預かるとはなんと重たいことだろうか。

 いや、弱気になってはいけない。こんな時だからこそ俺は自信を持たなくては。不安が仲間に伝わるようじゃリーダー失格だ。そう自分に言い聞かせるとチュレアの森へと足を踏み入れた。

 もう、ウェアウルフ特有の匂いは覚えている。見通しの悪い森の中を嗅覚を頼りに敵を探す。不意に独特の獣臭い匂いを感じる。間違いない。近くに奴はいる。

 この前の経験から暗がりに目を凝らすと大きな根元で相変わらず毛玉の様な状態で眠っていた距離は12mと言う所か。ニジエに毛玉を指さす。するとニジエは小声で詠唱を済ませ大きな水鉄砲が毛玉を襲う。


「ガアアァァ!」


 不意打ちを食らい、びしょ濡れで立ち上がりながら雄たけびを上げると。こちらも即座に反応する。


「柊、コイツら叫ぶとすぐにハウンドが来る! 周りに警戒してニジエを守って。こちらにくるようなら大声で知らせてくれ!」


 即座に指示を出すとウェアウルフに向き合い、剣を振り被る。相手も反応してか身を沈めるが、何だか動きが遅い。そうか、毛が水を吸って重いのか。これなら充分速度に追いつける。そう思った瞬間、また水の魔法が斜め上に打ち出される。ドスンと重い音と共にもう一匹のウェアウルフが落ちてきた。そうだ! コイツらハウンドだけじゃなく仲間も呼ぶんだった。恐らく枝のかすれる音で、いち早く察知したのだろう。ニジエのナイスアシストだ。


「陽! 俺も1匹相手するか?」


 柊が叫ぶ。しかしニジエの守りを薄くする訳にはいかない。


「いや、ニジエを守ってくれ。ニジエは水のデカい魔法を今落としたウェアウルフに撃ってくれ」


 水の大砲が横を過ぎるのと同時に俺はもう1匹との間合いを詰める。やはり以前に比べて反応が遅い。これなら俺の剣速で充分間に合う。袈裟懸けに大振りの一太刀を食らわせると、肉に剣がめり込む感覚が続き不意に抜けるような軽い感覚が腕に伝わる。パッと目の前に赤い花が咲く。一撃で片付いたようだ。目の前で二重の光が瞬く。もう一匹もニジエの魔法で倒せたようだ。計2本の爪が落ちた。どうやら幸先はいいようだ。

 だが、ニジエの消耗は無視できない。続けて闘うより間をあけて回復しながら闘う方が良さそうだ。小休止をいれる。柊は出番がなく不満そうだ。


「なんか陽とニジエさんだけ活躍してないか? 俺必要あるか?」

「何言ってんだ。お前が周りを見てるからこそ俺達は安心して攻撃に専念出来るんだ。じゃなきゃあんなに思い切って飛びだせるかよ」

「私も守られていると集中出来ますから、柊さんには感謝してますよ」

「そういうこと。所でニジエは後何発くらい魔法撃てる? デカい方で」

「ふふ~ん、実は水筒にマンダリーノのジュースを詰めてきました。これならちょこちょこ休憩を入れればかなりの回数撃てると思いますよ。匂いがついちゃうから、水の水筒は別に用意してあります。ですから安心して下さい」


 買い出しの時、色々買ってるなと思ったが、そんなものまで買ってたのか……。現実なら相当な重さになりそうだが、こんな時この道具袋は本当に役にたつ。この不思議構造に感謝だな。

 ニジエは自慢げに道具袋から赤いリボンの巻かれた革水筒を取り出し一口飲むと満足気な笑みを浮かべた。これでさっきの分くらい回復したのだろうか? だがまだ18本も集めなければならない、今日はざっと20匹は狩り続けなければいけないのだ。まだまだ先は長い、温存も重要になるだろう。 その配分を自分が指示しなければならないとなるとこっちの頭の方が参ってしまいそうだ。

 だが悪いことばかりではない。弱めの魔法でも相手の動きを鈍らせることが出来る。これを知れたのは大きな収穫だ。ゲームならニジエの魔法にはデバフ効果もあるということだ。

 これを上手く利用出来ればかなり簡単に依頼はこなせそうだ。油断は禁物だがこのパターンを軸に攻めて行こう。そう思った頃にはすでに2人とも小休止を終え、探索に出る準備を済ませていた。俺も急がねば……。

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