夢i-8
「覗き趣味は関心しませんね。グリゴリさん、いやサキュバス!」
「あら、私サキュバスに見えるの? それは悲しい誤解なの。あんな低俗な連中と一緒にされるなんて」
「じゃあ、あなたは何者なのか教えて下さいよ。簡単でしょそれくらい」
「残念ながら封印が4つも残ってる以上自分の事はあんまりしゃべれないの。ロックがかかってるからね」
「なんですかロックって。助けたりバカにしたりいい加減にしてくださいよ」
「あら、私は貴方にだけは純度100%の善意で接してるつもりよ」
こんな風に忍び寄って何が善意だ。
「ああ、そう言えばこの前はご馳走様確かに貴方は1つ約束を守ってくれたわ」
「どういたしまして、ついでに帰ってくれると嬉しいんですがね」
「随分冷たいのね。あのバイオリン気にくわなかった?」
中庭でのバイオリンもこの人の仕業か。
「あれはどうも。でも今ぶち壊しにされてますが」
「あら、残念、でも重要なことを伝えにきたの。聞いて損はないの」
「なんですか。簡潔にお願いしますよ」
「クルス君たちはここまで、もう先は望めない。あの子、充分、器が満たされちゃったから」
「器が満たされる? どういう意味ですか?」
ふうと一息ついて話し始める。
「貴方には何も無い、信念も、理想も、情熱も帰るべき場所も無ければ寄る辺となる物も風に流されて、人に流されて、諦める事に慣れた人間よ。普通なら、そこまでの強者となり生き残るには信念や確固たる意思が要るの、しかし、それを持つ者はいずれその器が満たされ満足するか、満たされる事無く器を破壊し死に至るしかない、。素質の在る者は壊れやすいって事よ。」
グリゴリさんはこちらを見据える目をぎらつかせて続ける。
「だけど貴方には何も無い、希望が無いから絶望もしないし、期待をしないから失望もしない、器が無いから満たされないし、器が無いから壊れて死ぬ事も無いの。生き続ける限り、戦い続ける限りどこまでも強くなる。そして、貴方にはその力を自分の為以外に使えない、世界を破壊する事にも、世界を救うことにも貴方には器が無いから力を振るうべき先が無い、つまり昇華され無いのよ。人間がどこまで強くなるのか本来、究極、すなわち極みの究る、さらにその先に何の意味も無く辿り付く可能性を、ただ一人秘めた存在なのよ」
「訳がわかりません。俺にだって情熱や信念の1つくらいは……」
「それは肉欲じゃなくて?」
「それは、そんな訳は……」
「別に責めてるわけじゃないの。私、貪欲な人間ちゃん、好きよ」
ニジエに対しての感情、これは恋なのかそれとも肉欲なのか……キスしたら沸きあがるなんて本当の恋なのか?
「悩む必要なんて無いの。したいことをすればいい。出来れば私の導きに従うのもアリだけど、見る限りそれは逆効果そうね」
当たり前だこんな奴に振り回されてたまるか!
「まあ、私の話はちょっと頭の片隅に覚えておいて欲しいの。それじゃあおやすみなさい。幸福な人」
そう言うとグリゴリさんはまた消えてしまった。帰る家ならあるし、希望だって多分あると思う。あんな言われようあんまりではないか。せっかくの気分をぶち壊しにしやがって、1日の終わりがこれじゃあ報われないじゃないか。剣を納め、布団に入る。そう言えば明日は新堂とニジエと優さんで出かける約束があった。ニジエと出かけられるのは楽しみだが、優さんが心配だ。新堂が上手く相手してくれないかな。一抹の希望を胸に眠るとしよう。
―――希望って簡単に見つけられるものだっけ?―――
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