現実g-8

 家に帰るとカレーの香りがした。我が家はクリームシチューの翌日は決まってカレーだ。なんでもクリームシチューを少し足すことによって味にコクとマイルドさが出るんだとか。ただいまを言い、部屋に向かう。いつもけたたましい美弥子は風呂に入っているようだ。自室にカバンを置き、風呂に入る準備をする。今日は体操をする時間は無さそうだ。リビングには風呂上りなのか美弥子が待ち構えていた。


「おにぃ! 二股なんて酷いよ!」


 なんのことだ? 新堂が情報を回すとは言ってたが早すぎる気がする。悠紀夫経由で情報が回るにも明日以降のはずだ。


「達哉、まず夕飯を食べなさい。シャワーはその後だ」


 父さんが怒ってるのか、これは誤解を解くのが先な気がする。


「新堂とのことは偽装彼氏で付き合ってるように見せかけてそうじゃないんだよ」

「嘘だね! アタシ証拠の写メあるもんユキ兄ちゃんから送られてきたんだから」


 新堂とファミレスにいた時に写メでも取られたのだろうか? 確認すると自分でも驚愕する写メが映っていた。新堂とダンスの練習をしている時の写メだ。横からだから抱き合ってるようにしか見えない。


「これは違うんだ。ダンスの練習でやましいことは何もないんだよ」

「あにぃ、往生際悪いよ! ダンスの練習なんてなんで必要なの? しかも最近この女の人とよく放課後過ごしてたらしいじゃない」


 悠紀夫のバカ、完璧に誤解されるような情報を流していたようだ。この誤解を解くのは可能なのだろうか?


「新堂とは同じ部活で、演劇部だからダンスの練習してただけなんだよ」

「アタシこの人のことも詳しく聞いたよ。前、剣道部の凄い先輩と付き合ってたんだけどおにぃと付き合う為に別れたって」


 そう言えば悠紀夫は来栖先輩と新堂が兄妹だと知らないはずだ。こんなに歪んで情報が伝わるとは。


「この人、新堂香苗って言ってガッコで1番モテる女の子なんでしょ。前の虹江って人とはどうなったの? 詳しく教えて!」


 美弥子は問い詰める。父さんもそれを止めることはしない。いつもなら夕飯が冷めるからと言って止めてくれるんだけど。


「さあ、キリキリ吐きなさい! おにぃ、ここまで証拠が揃ってまだ言う事あるの?」

「だから本当にダンスの練習してただけなんだよ。カレー冷めたら嫌だからもう食べるぞ」


 食べ始めてしまえばこっちのものだ。美弥子はまだブツブツ言ってるが、もう聞かないことにする。すると父さんが口を開いた。


「達哉、食べ終えたら少し話があるから、母さんが片付け終わるの待ちなさい」


 この展開は再びか。カレーは好きだが、なんだか今日は砂を食べるような味気無さだ。スプーンが進まない。


「ごちそうさまー」


 美弥子が大声で告げる。母さんは、


「美弥子、もういいの? 昨日みたいにいっぱい食べるんじゃないかって多めに作ったんだけど」

「今日はもういいや、それに昨日みたいにあんまり食べたくないし。あーあ、あにぃみたいにパッとしない人に彼女が2人もいて、なんでアタシには素敵な彼が現れないんだろ」


 美弥子よ。兄の欲目かもしれないがお前は可愛い、しかしそれ以上にワガママすぎるのだ。父さんが静かだが強い口調で言う。


「お前はまだ彼氏なんて早すぎる。どうしてもという相手ができたなら、必ず父さんに会わせなさい」

「何それ、みんな彼氏作り出したのに、ウチはハードル高すぎない? おにぃなんて彼女2人だよ」

「よそはよそ、うちはうちだ。達哉には父さんから話しておく。もう部屋に戻りなさい」


 2人が話してる間に食べ終わってしまった。普段なら、おかわりしたいが今日はそんな気にならない。

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