夢e-7

 柊が馬車から降りると目の前のコボルトの様子がおかしい。何だろう? 何かもがいてる? 疑問はすぐ驚愕に変わった爆発でも起きたかのように砂埃が舞う。視界が晴れてくると、目の前には巨大なムカデが姿を現した。こんな奴いたのかよ。俺とニジエは御者を馬車に詰め込んで急いで柊の隣に立つ。


「まいったな。後少しなのに」

「ニジエさんあれは何て名前のモンスターで?」

「確かキングセンチュリオンです。すごい足の数ですね」


 3人共緊張感の欠けた会話をする。胴回りは人程の太さがあり、その長さは見えてるだけで10m以上あった。


「陽、あれどうやったら倒せると思う?」

「細切れにすればいいだけだろ。キモイし早いとこやるか。ニジエ、水の大砲お願い」


 弾けるような音と共に水が一筋の滝のように敵に向かう。胴体の一部にあたり、節の1つがへこむ。あの胴体はかなりの硬さがあるようだ。なら斬るべきは節目だ。出来れば頭を狙いたい。

 しかし、キングセンチュリオンはすぐに土の中に潜ってしまった。穴でもあればモグラたたきの要領で迎え撃てるんだがな。

 土の下から這いずるような不気味な音が響く、どうやら下からこちらを狙うつもりのようだ。さてどう予測したもんかな。

 

「ちょっと待って下さい、考えがあるんです」


 ニジエはあたりにとにかく水をまき散らす。直径6m程の水たまりが出来上がる。


「この水たまりの上にいて下さい。そうすれば感知できますから」


 なるほど、ソルティステーノを発見した感知魔法と原理は同じか。


「柊さんの真下から来ます!」


 まるで突然塔が立つかのように姿を現す。柊はバックステップで躱し、胴体の腹側に蹴りをお見舞いする。


「こっちもかてぇじゃん」


 オーケー、俺の出番ってことだ。身体をぐねらせる前に節目を絶つ。これで半分くらいか? 地上に落ちた半分はのたうち回りこちらに向かってくる。しかし水を含んで泥と化した部分は走りづらいようだ。水たまりの上でまた節目を断つか? こっちの方がやっかいだな。


「柊、あれの動き止められる? 2秒くらいでいい」

「結構無茶言うじゃん。まあ本条先輩程じゃないけど」

「せっかくですし、2秒と言わず、ずっと止まってもらいましょう」


 ニジエが意外な提案をする。そんな事可能なのか?


「水よ。あの敵に纏わりついて!」


 ニジエの杖の先からバスケットボールくらいの水の玉が撃ちだされる。大ムカデに命中すると途端に動きが鈍くなった。


「もがけばもがく程、この水は纏わり付きますよ。ではタツヤさん、お願いします」


 こんなこと出来たのか。もう殆ど動くことが出来なくなった大ムカデに近寄り、頭らしき部分の前に立つと大上段に構え、剣を振り下ろす。絞るようにしなやかな一撃で。節目に剣先が触れると同時に手首を引き絞る。あっさりと頭部が落ちた。身体の一部はまだ動いていたがすぐにまばゆい光となり、ドサリと大きなクワガタの顎のような物が落ちた。

 キングセンチュリオンの顎か、とりあえず拾って道具袋に入れ馬車に戻る。


「ニジエさん、さっきの奴どれくらい強いの?」

「カヴィール荒野の主って呼ばれてますね」

「その割に大したこと無かったな。そう言えばニジエはあんな水の使い方どこで覚えたの?」

「昨日、水で網が作れないかって聞いてきたじゃないですか。網は切れちゃうイメージしかできなかったんですけど、ガムみたいなイメージなら出来そうだと思って」

「なるほどね。これは使い勝手良さそうだ」

「でも、結構疲れちゃうし、水で洗い流されたりしちゃうともろくなっちゃいそうです」

「まあ、奥の手が1個増えたと思えばいいじゃん」


 こうして荒野の主との闘いはあっけなく済んだ。大きな水たまりを残して。

 御者は大口を開きこちらをボーっと見つめていた。


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