夢g-6

「ちょっと待てよ新堂、今、ミスリル銀って言ったよな。銀って確か結構柔らかい金属なんじゃないのか?」

「だから、この世界には独特の法則が働いてるのよ。ミスリル銀は退魔の力もあるけど、他の効力もあるらしわ」


 成程、材質も重要なのか。考えれば剣といえば鋼だけだと思っていた。さっきからマンダリーノのジュースに口をつけていたニジエが思い出したようにこちらに声をかける。


「タツヤさん、ちょっとマント外して背中みせてもらえますか?」


 どうしたんだろう? 俺は言われた通りにマントを外す。


「やっぱり、初めて会った時、鎧についていた爪痕みたいな傷がありません」


 あの初ウェアウルフのか。この違和感は何だろう。鈴木先輩も口を挟む。


「俺も来栖先輩の盾やってっけど、鎧や盾が傷ついたり、へこんだりしても翌日には直ってんな」


 この世界では武器防具は壊れないのだろうか? 来栖先輩が異を唱える。


「でも、この前仲良くなったグスタフって奴、良い槍もってたけど戦って思い切り穂先が欠けたって嘆きながら鍛冶屋に行ってたぜ」


 ……この差は何なんだろう? 俺達だけ優遇されてる? 名前から察するにそのグスタフって人は元々夢の世界の住人だろう。外国人の可能性もあるが、この世界で外国語を喋る人に出会ったこと無いし。また考える事が増えてきた。


「まあ、高い武器は強いって考えればシンプルでいいじゃん」


 柊はあっけらかんと言う。確かに考えても答えが出ないならそれでいいと済ませてしまうのが楽だ。ここは夢の世界で、むしろ自分達こそ異分子なのだろう。もっと気楽に考えるか。


「とりあえず、武器屋行こうか。来栖先輩ありがとうございます」

「気にしないでよ。色々考えてたのは香苗だし」

「そうよ。それと感謝は言葉でなく形で表しなさい。具体的にはご飯奢るとか」

「奢るには微妙な情報だな」

「ならおまけよ。武器屋は【ホネスタン】がおススメよ今日なら安くしてくれるんじゃないかしら」

「え、俺はいつも【アンビシオン】だけど」

「あそこは鋼製の武器までしかないじゃない。お金に余裕があるならミスリル銀製の武器を使いなさいよ」


 確かにミスリル銀製の武器は魅力的だ。しかし今日ならってなんでだろ?


「いい情報教えたんだから夕飯の奢りよろしくね。場所はコリンにでも聞きなさい」


 そういうと新堂達はテーブルに戻っていってしまった。仕方ないマスターに場所を聞こう。


「マスター、ホネスタンって武器屋どこにあるか知らない?」

「お、奮発する気だな。ホネスタンは目抜き通りの市場から路地に入って右側だな。そうだ、ちょっと待ってろ」


 マスターは羊皮紙で無く普通の便せんに羽ペンを走らせ、軽く吹いて、封筒に入れた。


「この封筒を店長のマクラウドに渡しな。きっとサービスしてくれるぜ」


 紹介状のような物だろうか? とにかくサービスして貰えるのは有難い。マスターに礼を言うと3人でホネスタンを目指す。路地裏の店なら外見はぼろっちいのではないかと思ったが、中々小奇麗で洒落た店だった。


「いらっしゃいませ、当店にようこそ」


 口ひげを綺麗に切りそろえたマスターくらいの年のオジサンが出迎えた。この人がマクラウドさんだろうか。武器屋らしからぬ丁寧な物腰に気圧されてしまう。


「青銅の蹄のマスターから手紙を預かってるんだけど、マクラウドさんって人に渡したいんですが」

「マクラウドは私ですね。お手紙拝見させていただきます」


 手紙をマクラウドさんに手渡すと読んでいる間、武器を見渡す。どれもやたらとピカピカしている。これがミスリル銀なのだろうか? 値段はアンビシオンの4倍近い。ロングソードが400オーロってなんだよ……

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