夢f-2

「なあ、陽。俺はあんまり洞窟とか詳しくないけど、進めば進む程暖かくなるもんなのか?」


 確かにおかしい。もう15分は歩いているが室温は上がる一方だ。こういう場所って結構寒そうなイメージがあったんだが。

 答えはすぐに解った。暗い筈の前方が時々光るのだ、その度に暖かくなる。つまり何かが火を吐いてるのだ。目の前に現れたそれは想像とは違った。燃えるように逆立った毛、目は赤く光り、息をする度、炎が漏れる。ハウンドを大きく超える体躯。これがガルムか。近づいた瞬間黒焦げにされそうな威圧感がある1匹だったのはせめてもの救いか。


「ニジエ、まほ……」


 言い終わる前にニジエは魔法を撃っていたいつもより勢いが強い気がする。倒れたガルムに大ぶりな一撃でとどめを刺す。あっさりと食い込む刃。これが水の魔法の効果か。まるで包丁で鶏肉を切るくらいの感覚だった。こちらの技量も上がってるからかもしれない。光って消え1枚の毛皮となり、すかさず道具袋に押し込む。しかし、


「ニジエ、指示が終わってから撃ってくれ。連携取りづらいだろ」

「今、間に合ったじゃないですか。私、馬鹿じゃありません。いつ撃てばいいかくらいわかりますよ」

「そういうことじゃないだろ。限りがあるんだからここは俺の指示に従ってくれないと困る」

「自分の限界も解ります。言い訳する人につべこべ言われたくありません!」


そういうとニジエはフォーメーションを無視して走っていってしまった。マズイ、前衛のいない魔術師は格好の的だ。急いで柊と追いかける先々で轟音がなる。ニジエが魔法を乱発しているのだろう。見るとヘンゼルとグレーテルのパンくずのように毛皮が落ちている。さっきはとどめが必要だったのに。確実に威力が上がってる、なぜだろう。


「柊、毛皮拾っといてくれ。俺はニジエを追う!」

「わかった。ニジエさんに撃たれるなよ」


 ぞっとすることを言うこんなの喰らったら即死だろう。しばらく走ると悲鳴があがった。


「いやぁー! 来ないで!」


 いつか聞いたセリフ。まさか集中力が切れてハウンドに襲われてるんじゃ……

 現実は予想の斜め上をいった。ニジエの目の前にいたのは漆黒のバカでかい三つ首犬。最悪の展開だ。まさかケルベロスにあってしまうとは。

 ケルベロスの左右の口が大きく息を吸うと身体が一瞬大きくなった。次の瞬間。目の前が真っ白に輝くこれが業火か。


「こっち来ないでぇ!」


 ニジエが叫び右手をかざすと洞窟内に蓋をするように水の壁ができた。ものすごい蒸発音がする。驚きなのが、あの業火のブレスを片手で防いでるという事だあんなことできるのか。


「ニジエ! 今行く!」


 すかさず駆け寄ろうとすると、


「いやっ!タツヤさんも来ないで!」


 今度は俺の方に左手をかざしもう1枚の水の壁を作ってしまった。なんてことだこんなに避けられてるなんて。柊が追いつく。


「ど、どうなってんだこれ?」


 俺にももはや説明不能だ。試しに水の壁に触ってみると川に手を突っ込んだ感触がする。もしかしたら泳いで向こうに入れるのではないか? 厚みはかなりありそうだが不可能では無さそうだ。


「頼むニジエ、話を聞いてくれ!」


 叫んでも聞こえてるのか解らない。ニジエは目を閉じ両手を伸ばして水の壁を作っている。さっきの蒸発音が聞こえないという事は音を遮断してるのか? 水なら音を伝えそうだが。もしニジエが拒絶からこの水の壁を作っているなら音も伝わらないんだろう。しかし無限の集中力がある訳では無い。現にケルベロスは蒸発させているのだ。このままでは最悪もありうる。

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