現実l
現実l-1
腹に衝撃が響く。誰かがボディプレスをしてるようだ。
「……にぃ! あにぃ! 起きなよ! 二股あにぃ!」
起こされた原因はこれか。朝から美弥子はかしましく叫んでいる。まだ二股かけてるって思われてんのか。
「美弥子、朝からボディプレスはよさないか。もう少し優しく起こせ」
「ぶー、二股かけるようなあにぃにはこれくらいが丁度いいんですー」
何が丁度いいんだか。身体中に痛みが走る。夜、戦った分の筋肉痛か。あの時は驚きと闘争心で感じ無かったが、随分無茶したんだな。時間はまだ6時半頃だが今日は体操だけに止めておこう。
体操を終え、シャワーを浴び、ストレッチをすると母さんから朝食ができたことを伝えられる。今朝はナスの味噌汁に焼いた油揚げか。美味い。この変わらない味だけが俺を狂気から救ってくれる道しるべか。このことを見越してグリゴリさんは母さんと父さんを遮断したのだろう。美弥子は食事中、こちらをずっと睨んでいる。そんなに嫉妬してどうにかなるでもあるまいと思うが、操られてるのだから仕方ないか。久しぶりに普通の登校が出来る。道端で電車で皆、スマホをいじってるが、もう気にしないことに決めた。まだ別れきってないのかカップルの喧嘩もなれたものだ。この先どんな異常な事態が起ころうと気にしないでおこう。次の封印解除が憤怒なら、巻き込まれないようにしなければならないしな。
学校につくと先に新堂が来ていた。
「おはよう、アンタ私達が寝た後何してたの?」
「ちょっとした秘密特訓をね。成果はあったから、そこそこ期待していいよ。だけど教室がなんか妙だな。俺達以外誰も話して無いように見えるんだが」
「見えるじゃなくて、実際そうなのよ。みんなアーマゲドンオンラインに夢中。アンタと私だけが仲間はずれね」
クラス中が一心不乱にスマホゲームに夢中になっている。気にはしないがやはり異常だ。グリゴリさんは封印をずらすと言っていたが、それは上手くいったらどうなるんだろうか? どう転んでも嫌な予感しかしない。
「とにかく、俺達は気を強く持とう。周りに飲み込まれ無いようにするんだ」
「そうね、それが一番大事よね」
1人なら難しくても2人なら何とかなる。仲間がいてよかった。来栖先輩はまず大丈夫だろうが、柊が気にかかる。もっとも、ああ見えて周りに流されない奴だし心配はいらないか。悠紀夫が相変わらず遅れて教室に入る。なんだ? 睨みつけるじゃなくうすら笑いを浮かべてるなんて。なんだか奇妙な感じがする。気になったんで少し話しかけてみると。
「俺は裏切り者とは話さん。代わりに天罰を下してやるからな!」
と言われてしまった。なんだよ天罰って。悠紀夫に出来ることなんてたかが知れてるから、別に構わないけど、嫌がらせにしては変な言い方だ。ホームルーム開始のチャイムがなると、やはり一斉にスマホをしまう。なんだか統率されたような動きのようで少し笑えてしまう。
授業はつつがなく進み、休み時間には新堂に分からなかった部分を聞く。こうしていると本物のカップルのように見えるのだろうか。たまに刺すような視線に気付く。静かな剣と同じ感覚で気配に敏感になってるせいなのだろうか。
「新堂、なんだか俺、気配にやたら敏感になってるみたいなんだが」
「仕方ないでしょ。アンタも少しはマシな剣士になれた証拠よ。不意打ちに合わなくなったって考えればいいでしょ」
現実では不意打ちなんてされる心配なんて無いんだが、そういえば強敵が現れるなんて言われたがそれっぽい気配は感じないな。どの気配も軽い敵意を感じるくらいだ。こんなこと前は考えたことも無かったが、どの気配も弱そうに感じる。当たり前か、ここのところほぼ毎日死線をくぐるような戦いを繰り返しているのだから、普通の人とは違ってしまうのだろう。
昼休みになるといつも通りに学食に向かう。きっと柊が席をとってくれているだろう。
案の定、柊は4人分の席を取っておいたくれていた。ようと声をかけて座るとなんだか安心したようだ。
「なんかクラス中、みんなアーマゲドンオンラインに夢中で俺いづら過ぎるじゃん」
「そんなの俺達もだ。新堂がいてよかったよ、全く」
「まあ、その点は私もだから気にしないでよ。それより陽菜お弁当持ってきた?」
「ああ、持ってきたよ。まさか今日も作ってきてくれたのか?」
「まあね、でもあるならいいわ。来栖にでも食べてもらいましょ」
確かに昨日は早めに寝たからな。時間はあったのだろう。だが新堂も疲れが溜まっているだろうに、なんだか断るのは悪い気がした。
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