夢k-5
「じゃあ、俺いってくるよ」
「俺も行こう。自分の事は自分で済ませたい」
来栖先輩と2人でマスターの元に向かう。マスターはあえてだろう。いつもの口調で話しかけてくる。
「今回の勝利の立役者が来たか。でクルス、腕がちぎれたってのは本当かい?」
「ああ、ニジエさんにくっつけて貰ったけど、指先しか動かなくなったよ。この腕じゃもう剣は振るえない、俺は引退する。カナエは今後タツヤ君のパーティーに入るから」
来栖先輩はギルドで支給されたダガーナイフを返そうとする。
「それを返す必要はないぜ。俺は忘れねぇぞ。ルンレストの英雄クルスの名前をな」
俺からも言う。
「そういう訳でカナエはウチに入ったから。パーティー移ったこと覚えといてくれ」
「分かったよ。それと俺からも言うことがある。昨日のサキュバスクィーンの羽は本物だと確認された。報酬は10000オーロと少ないが受け取ってくれ。それとモンスター襲撃の原因だが、こちらは却下された。報告のすぐ後に襲撃があったからな」
「そんな、あの魔法陣は……」
「それについては俺からは何も話すなと念押しされて終わった。言いたいことは分かるが、言わない方が良い、感情的にはぶちまけたいところだろうが、何とか矛先を納めてくれ。俺の顔に免じてな」
やはり、城でも確認されてしまったか。これについては手の打ちようが無い。
「それとだ、これから話すことは独り言だと思ってくれ。今回の襲撃はチュレアの森のモンスターが少なかったんだよな。ガーゴイルはタラントの南、【カ―チンガ】の街にたまに出るくらいのモンスターだった筈だ。でもあっちはアハブ領でこっちはキブツ領、ギルドも鋼の角とウチと違うから、何か見つけても報告の義務は無いんだっけ」
マスターの言いたい事が分かった。これはチャンスだと言うことも。
「なるほど、マスター突然だけどタラントにウチのパーティーのユウタって奴が前、世話になったんだ。ちょっと様子を見に行きたい。高くなってもいいから、馬車を用意出来ないかな?」
「襲撃の後だから難しいが、値段次第で口の固そうなとこを探しとこう」
「ありがとう、じゃあ、金貨10枚貰うよ」
「ああ、すまんな、本来なら倍は出したいとこだが、今、こっちの懐がさびしくてな。今回集まった【ガーゴイルの翼】を魔術師ギルドに回してなんとかやりくりしてるんだ。クルス、今回の再起不能者は今後ギルドで生活の面倒を見るから宿、移しな」
「いや、俺は当面、今の宿で過ごすよ。カナエがしこたま貯めこんでるからな」
「そうか、なら自由にしな。金が尽きたら言えよ。それくらいの義理はあるからな」
なるほど、四肢を失ったり闘えなくなった冒険者が浮浪者にならないで済むのも、ギルドのおかげだった訳だ。
「分かったよ。でも当分は自由を楽しむさ」
「そうしろ、お前さんは働きすぎたくらいだからな」
マスターから金貨10枚を貰うと、俺と来栖先輩は皆の待つテーブルに戻る。
「無事引退してきたよ。香苗、当面の生活費くれないか?」
「いいわよ。はい、金貨2枚あればしばらく大丈夫でしょ」
「サンキュッ! じゃあ、俺は宿に戻るよ」
「ちょっと早すぎない? もう少し一緒に居たって……」
「俺は俺でやることがあるし、タツヤ一行はしばらくルンレストを離れる。となると、もし敵にとって俺達が邪魔なら、捕まえて情報を吐かせようとするだろう。なら俺はここから先の話は聞かない方が良い。知らないことは喋れないからね。じゃあ、達哉君の剣、失礼するよ。またね」
そう言い残すと来栖先輩は左手に俺の剣を持ち、ギルドハウスを出ていった。これは剣士クルスの終わりじゃない、きっと新たな牙を研ぐのに忙しんだろう。新堂も察したに違いない。来栖先輩の目は死んで無い。むしろ新しいオモチャを与えられたように輝いていたのだから……
「で、改めてよろしく。新堂香苗よ。クラスは戦術士。なんなら会計係も任せてもらって構わないわ」
これで4人か。頼もしい反面うるさそうな仲間が増えた。だが実力は確かだ。会計係も任せた方がいいのだろうか?
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