夢k-8

「イメージが固まったらその剣をもって魔法陣の中央に立ちな」


 俺は堂々と魔法陣の中央に向かった。ニジエはどう思ってるのか。


「私もイメージが固まりました。どうすればいいですか?」

「なら、ありったけの力を魔法陣に注ぎな。いつもの水じゃダメだよ。この剣士のイメージさ」

「分かりました。では始めます」


 ニジエは目をつむり集中をしている。俺はニジエをイメージする怒ったり、叫んだり、色っぽかったり色んなイメージが頭を流れる。その中でひと際大きなイメージ、虹を見上げ喜んでた姿、俺の中の1番綺麗なニジエのイメージ。笑顔でいてくれる喜び。身体中を暖かい何かが流れ、手から剣に伝わっていく心地いい感触。

 ありがとう。

 それだけが伝えたい全て。

 不意に剣がまばゆく輝き、形を変える。刀身はやや短くなり、鍔の装飾は金色に輝く立派な物に。これが俺とニジエのイメージの剣か。柄から温もりを感じる。


「ヒヒヒ、どうやら成功だね。これは歓喜の剣【ジュワユーズ】日に30の色を変える。虹の剣さ」


 新しい力を感じる。手に吸い付くような俺だけの剣。

 ふと見ると足元の魔法陣が消えていった。


「役目を果たしたから消えただけさね。心配ないよ」


 顔が赤いニジエが尋ねる。


「この魔法陣、生涯をかけて描いた大事なものなんじゃないんですか?」

「これでいいのさ、もう忘れちまうくらい昔にね、調子に乗って相棒の剣士を死なせちまった魔術師の小娘がいたのさ。その懺悔の為に描いたもんなんだよ。使う相手は、もういやしないのにね」


 その魔術師の小娘とはリュシエンヌ婆さんのことだろう。この人も壮絶な過去を背負っているのだろう。


「さて、これで思い残すことはもう無いよ。さあ、このババアを好きにしとくれ」

「なら、長生きして下さいね。こんな素敵な魔法を終わらせちゃうのはもったいないですよ」


 ニジエの提案、そうだこんな子だったからこそ俺はそう思えたんだ。


「まあ、実験じみてたとはいえ、私達のパーティーに貢献したわけだし。対価を払わなきゃね」

「婆さん大魔術師じゃん。こりゃ、簡単に死なないってもんじゃん」

「リュシエンヌさん。ありがとうございます。いずれこのお礼はさせていただきます。この剣にかけて」


 

リュシエンヌ婆さんは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしている。


「まさかそう来たかい。ならアタシの運命如き吹き飛ばす嵐になりな。アンタらならなれるさ」


 今度は腹を抱えて笑いだした。


「いい剣だけど私達、金貨20枚くらいしかないの。とりあえず10枚でいいかしら」


 新堂、お前ぶれないな。


「お代はそうさね、アタシが死にそうな時、助けてくれりゃいいさ。約束出来るかい?」


俺もニジエも柊も新堂も同時に答える。


「もちろん!!」

「なら行きな。そっちのがめつそうなお嬢ちゃんとユウタはマクラウドのガキンチョの店で適当な物を見繕ってもらうんだね。金はその時使いな。それと金貨10枚はとっとくんだよ。コリンの坊主の所に金のかかる足が届くとみたからね。最後にお嬢ちゃん、魔法の極意はイメージを信じる事じゃない、息をするように当然と疑わないことさ」


 マスターは手配を終えたという事か。急がないとな。一通りお礼を言い終えると。一路ホネスタンに向かう。店に入ると笑顔のマクラウドさんが出迎えてくれた。


「これはタツヤ様御一行、本日の防衛戦、誠に見事なご活躍だったそうで、当店としては最高のおもてなしをさせて頂きます」

「じゃあ、戦術士に最適な武器を見繕って貰える? 金貨5枚以内で」


 そう言われ、マクラウドさんはガラスのショーケースに飾られた剣を一振り出して両手で新堂に見せる。ショーケースには値段が書いてない。


「それでしたらこれしかありません【ユニコーン・タクト】かなり突きに特化した刃ですが、斬ることも問題ございません。刃は新開発の圧縮ミスリル銀製でしなやかで決して折れませんし、なにより、戦術士専用の武器となっており、増幅の魔法が付与されています。」


 手を覆うように籠柄が馬の頭の形をし、そこから角を模した刃が一本生えてるレイピアのようだ。新堂は手に取り、2回ほど片手で降りやすさを試す、鋭い風切り音が二度。剣先は見えない速度だ。新堂は納得がいったようだ。


「いいわねこれ。本当に金貨5枚でいいの?」

「もちろんです。カナエ様程高名な方で無ければ、まずお譲り致しません」


 どうやら店の目玉商品のようだ。次に柊が話す。


「格闘士専用の武器で金貨5枚のヤツなんかないかな?」


 マクラウドさんは少し悩むと、店の奥に入って行った。何か悩んでるのか? しばらくすると銀色のやけにシンプルなレガースと銀色の手袋だった。

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