第145話 二日酔い
「んぁー……、頭が……重い」
「ぎゃうぐぎゃ~ぅ!」
「うぅ……、ありがとうクロ。う~ん……体に染みわたるなぁ」
何とか露店までは来たものの、頭も体もまともに働いてくれない。
昨日の酒がまだ体に残っているようだ。
クロに淹れてもらった熱いコーヒーが、やたらとうまく感じる。
俺が酒臭いせいか、ぴんくはクロの頭上で小鳥と場所の取り合いをしている。
小鳥が俺の方にピーピーとクレームを言ってきている気がする。
だが、今は許してほしい。
二日酔いの頭に鳥の声が響きすぎる。
「はやく復活しないとな……」
「いつもにも増して酷い顔だねぇ、ボナス」
「そう言ってくれるなよ、メラニー……」
今日は俺とクロ、シロの三人で店をまわさなくてはいけない。
ギゼラとオスカーは自分の工房で作業。
ザムザとミルも午前中は買い出しに出かけている。
今日は仕立屋の娘達も休みだ。
メラニーは手伝ってくれるだろうが、彼女の店の客も相手しなければいけない。
シロは店番に慣れていないし、俺が潰れていては非常にまずいことになる。
「私も、がんばるよ」
「ありがとうな、シロ。そういや、昨日はどうだった?」
「ラウラがいろいろ良くしてくれたよ」
「そっか。ラウラには改めてお礼を言っておかないとな……」
昨日酒場にいた俺とオスカー以外、商会メンバーは皆領主館に泊っていた。
ラウラと当たり前のように親しくしているので忘れそうになるが、貴族の家、しかも領主家に招待されるなんて、普通はあり得ないようなことだ。
「晩飯美味かった?」
「ぐぎゃ~う!」
「うん。でも、料理番のひとがひっくり返ってたよ」
「そういえばアジトの食材をお土産に持って行ったんだっけ? ……さすがにまずかったかな」
「ううん。みんな、とってもよろこんでいたよ」
「まぁ、まずいことになりそうなら、ラウラが止めただろうし、問題ないか……」
「うん」
その他にもラウラはかなりいろいろと良くしてくれたようだ。
うちの連中はかなり異色なので、受け入れてもらえるか少し心配していたが、どうやら皆楽しめたようだ。
鬼達のために大量の酒を手配してくれたり、それぞれに個室を用意してくれたりと、手厚く歓待してくれたらしい。
ただ、領主館で働くメイドや護衛達はボナス商会やクロ達のことを、すでに良く知っていたようだ。
実際、俺達の露店に常連客として来てくれている者も少なくはなかったらしい。
クロはもちろんのこと、シロもいろいろな人物に酒を注がれたり、握手を求められたりと大変な人気だったようだ。
「まぁ、クロは当然として、シロさんも人気あるよね~……かっこよすぎるもん」
「メラニーは最初からシロのこと見てうっとりしてたもんな」
「いやぁ……まぁ……だって、シロさんは反則でしょ」
「はんそくなの?」
「もともと格好良かったけど、最近なんてすっかりお洒落になっちゃって……ほんともう、手が付けらんないほど……見てるだけで目の保養になるわぁ」
「まぁそうだよなぁ……。それなりに容姿の整っているアジールなんかでも、シロと並ぶとただの引き立て役にしか見えんからなぁ……。まぁでも……意外と可愛いんだけどな!」
「そう? ……ふふふっ」
「はぁ、朝からまったく……あんたら仲いいわねぇ」
朝の光と戯れるように白い髪を揺らし、シロがにっこりと笑う。
青い瞳に吸い込まれそうだ。
そりゃ男女問わず憧れるだろう。
クロだって同じようなもんだ。
ただコーヒーを淹れてるだけなのに、なんでこんな絵になるのだろうか。
昨日一晩、別れて酒を飲んだせいか、余計にうちの連中が魅力的に思える。
「ボナスは、昨日どうだったの?」
「ああ、洞穴族ってあんな感じの連中なんだなぁ。シロは知ってた?」
「うん。ちっちゃくて可愛いよね」
「そうだなぁ……、なんか……ムチムチしてるよな。オスカーの知り合いみたいで……、意外と職人っぽい感じもして、不思議な連中だったわ」
「洞穴族は見た目以上に強くてね……鬼男たちは良い戦いができるからって、よくちょっかい掛けたりしてたみたい」
「えぇ……そんな戦闘しそうな感じに見えなかったけど?」
「だよね」
どうやらシロの話によると、洞穴族の戦闘能力は俺が想像していた以上のもののようだ。
一度洞穴族に手を出すと大変なことになるらしい。
仲間達で一致団結し、傷つくことも恐れず、相手が死ぬか自分たちが全滅するまで戦い続けるらしい。
あのムチムチがそんな死兵のようになるとは……想像できないな。
鬼族からすると、そんな洞穴族は素晴らしい戦士として認めており、まさに好敵手と言える存在らしい。
さすがに体力的には鬼には劣るものの、意外に技巧的な戦いもできるようで、かなりいい戦いになるとのこと。
もちろん相手の不利にならないように夜に戦うらしい。
なかなか鬼も頭がおかしい。
洞穴族もそんな鬼とだけは痛み分けで済ませることも多いらしい。
そういやザムザも黒狼と死闘を繰り広げてるとき、やたら活き活きしてたもんな。
「なんか洞穴族は鬼族のことは苦手そうにしてたけど……なるほど」
「鬼男たちが勝手にライバルみたいな扱いしてるだけだから、いい迷惑だと思うよ」
「片思いなわけだ」
「わたしも、洞穴族はちっちゃくて可愛いから好きだけどね」
なんとなく洞穴族に同情してしまう。
ただ、変わり者も多いようで、個人で傭兵をやっていたり、人のいないような辺境で一人暮らしをしている者などもいるらしい。
シロは意外と洞穴族については詳しいな。
かつて仲の良かった知り合いが居たのかもしれない。
「でも……、そういう人たちはあまり長生き出来ないみたい」
「日光が苦手なのはさすがにきついよなぁ……」
「夜目は効くみたいだけど、昼に襲われたらどうしようも無いからね」
「そうだろうなぁ……群れていればやりようもありそうだが、一人じゃやられたっきり、見せしめに反撃もできないもんなぁ。昨日はあんまりそんなこと思わなかったけど、実際は気苦労が多そうな連中なんだろうなぁ」
「ボナスは洞穴族と遊んだのかい?」
「メラニー……その卑猥な手つきはどうかと思うぞ。昨日はただ飲んでただけだよ。少し話はしたけどな」
「洞穴族なら……病気にならないし、他種族とは子供も出来ないみたいだから、たまにお店に行くのもいいとおもうよ……?」
「飲みに行くなら今度はアジトの連中みんなでいくさ。触れ合うならシロの方がずっと良い。もちろんクロもな!」
「ぼなす!」
「わたしも……ボナス、今日は早めにアジトに帰ろう?」
シロが後ろから絡みついてくる。
嬉しくないわけでは無いのだが、二日酔いの今は辛い。
なんか飛びでそう。
「まだ少しお酒臭いね」
「そっちも相当飲んだろうに……、なんでお前らからは良い匂いがするの?」
「そう? なんか……ちょっと恥ずかしい」
「あ~、イチャイチャしてるところ悪いけどさ、お客さん来てるよ」
いつも朝から居座る常連爺どもが、ニチャァっとした笑顔でこちらを見ている。
さすがに客を捌かないとな……。
メラニーも呆れ顔だ。
それから暫く三人でなんとか客の対応をする。
久しぶりの露店かつ二日酔いで、我ながら動きが悪い。
実質七割くらいはクロが対応している。
シロも意外と手早く対応している。
俺より動きがいい気がするな。
頑張ろう。
しかし……、自分の店のことながら人気店になったもんだなぁ。
「……少し、いいかしら?」
「はい?」
いつの間にか目の前に小柄な女性が立っていた。
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