第28話 リラックス

 今日は久しぶりの焼肉だ。


「……!!!」

「うまい~うまい~」

「ぎゃっぎゃぎゃ!」



 シロは見た目通り大食いだが、意外と食事をゆったりと楽しむ。

 美味しいものを食べると顔がトロンとした感じになって、見ていると和む。

 焼肉も相当気に入ったようで、ゆっくりだが延々食べ続けている。

 シロは意外と肉だけで無く野菜も満遍なく食べる。

 

 ぴんくは最近焼いた芋がお気に入りのようだ。

 こいつはその時々で好きなものが結構違う。

 

 それにしても肉を焼くのは久しぶりだな。

 宿では流石に煙や匂いが出るかと、遠慮して煮てばかりだった。

 適当に芋や野菜もどんどん焼いていく。

 基本、塩と露店で買った謎のスパイスミックスのみの味付けだが、今はこれで十分だ。

 いずれはオリジナル焼肉のたれも作ってみるかな。

 意外とチョコレートも使えるかもしれない。

 食後はみんなでチョコレートとコーヒーを楽しんだ。


 腹も膨れてゴロゴロしていると、クロが自分をブラッシングした後、シロの頭もブラッシングしだした。

 よくクロがシロにぐぎゃぐぎゃ言っているが、もしかしてこいつら会話できているのかな?

 クロが延々ブラッシングしていると、シロの髪が艶々のサラサラになってきた。

 水浴びするまでグシャグシャでよく分からなかったが、全く癖のないストレートだな。

 今は適当にザクザク切ったかのようなぐちゃぐちゃショートだが、きっちりカットすれば、相当いい感じになりそうだ。

 俺が適当に切ってもいいが、はさみも無いし、マリーの髪を切ったやつに頼みたいところだ。

 とか思ってたら、クロがナイフでシロの髪を整えだした。

 ナイフで切れるのかよ。

 やたら手が早いし、めちゃくちゃ上手いな。

 成長してからさらに器用になったな。

 …………俺も切ってもらおう。

 既に髭はクロに剃ってもらっている。

 最初めちゃくちゃ怖かったので、足の毛で実験した。

 しかし実際やらせてみると、手早く絶妙な力加減で精密にナイフを扱い、すいすい削ってくれる。

 今では電動シェーバー以上に信用している。

 クロがモンスターであることに関係しているのか、人間のようなむらっ気がない。

 まるで精密機械のように動く。

 スペックは全く違うが、街でよく見かける、死んだ目で延々と単純作業をさせられている小鬼たちもある意味同じなのかもしれない。

 シロは結局マリーよりさらに短いショートボブになった。

 なんかだか都会的で大人びた女性になった。

 やたらかっこいい。

 シロもすっかりすっきりしたようで、とても満足した顔を見せる。


「…………クロ」

「ぎゃっぎゃ!」


 シロがクロに何か話しかけている。

 こいつらやはり会話できているのでは?

 まあ実際はフィーリングだろうが……。

 しかし、シロをよく見ていると、たまにささやき声で何か言っているのは間違いない。

 耳をそばだててみると、多分街で使われている言語ではない。

 今度メナスあたりに聞いてみるか。

 知り合いの中では、あいつが一番博識で、活動範囲も広い。


 クロは髪の手入れが終わると、カカオの挽き方をシロに教えだした。

 シロはおとなしく教えられている。

 今のところカカオやコーヒーを挽くのには、花崗岩でできたボールを使っているが、シロが作業すると、おままごとセットに見える。


 いい加減石臼を用意しないとなぁ。

 街で作ってもらってもいいが輸送が難しい。

 頑張ればシロなら運べそうだが、大きめの物はさすがに厳しいかな。

 そもそもこの世界に石臼はあるのかな。

 無ければ、最悪自分で作るか。

 粉挽きのための石臼は、昔実家の納屋にあったので、馴染み深い。

 子供のころ、爺さんにそば粉を挽くのを見せてもらって、一緒にそのそば粉でそばを作ったりした。

 当時は結構面白く感じたので、自分でも回してみて、どういった仕組みなのかをよく観察した。

 なので、自分では重い石も運べないし、加工もできないが、図面なら多分描ける。

 石はシロが運べそうだし、道具があればクロが加工できそうだ。

 加工する道具はどうすればいいのやら……。

 当然ながら電動グラインダーやドリルも無い。

 木工所の親方に相談するか。


 クロはシロへの作業指導が終わると、今度は刃物の手入れに取り掛かる。

 今クロは4つのナイフを常備している。

 武器として使用している大型のナイフを2本、調理や日常生活用として中型のものが1本、髪を切ったり、髭を剃ったりと細かい作業用に一本。

 全て並べて一本ずつ手早く、そして入念に研いでいる。

 砥石は4種類使っているが、俺には違いが分からない。

 ねだられるままに購入した。

 作業自体は丁寧だが異様に早い。

 完全に職人の動きだな。


「ぐぎゃ~ぎゃ~ぎゃ~、ぎゃっぎゃっぎゃ~」


 謎の鼻歌を歌いながら、あっという間に4本仕上げてしまった。

 今度はシロのものも手入れするようだ。

 シロは剣鉈を持っていたが、かなりボロボロだ。

 研いで何とかなるレベルなのか……?

 と思っていたが、あっという間に綺麗になった。

 これ……商売になりそうだ。

 ちなみに俺はクロが持っている中型のものと同じナイフを一本だけ持っている。

 これもクロに研いでもらっている。

 切れ味が良すぎて正直怖い。


 ぼんやりと2人の作業を眺めていたが、なんだか手持ち無沙汰になってきたので、出来る作業を考える。

 寝床を拡張するか。

 相変わらず岩壁の亀裂に暮らしているが、意外と空間は広いので、人数が増えても狭い感じはしない。

 ただし収穫物を保管できるような、天然の岩棚になっているところは限られるので、出来ればノミで削って保管場所を増やしたいところだ。

 体力のあるシロも来てくれたし、岩を削って部屋とかも作ってみたいな。

 寝床にしていた岩棚は割と広いので、相変わらずクロも横で寝ている。

 シロは寝られるだろうか……。

 まあ奥行きが3メートルくらいはあるので余裕か。

 重要なのは敷くものだな。

 今のところ寝具として使用しているのは、ウシのようなキダナケモの毛を大きな布袋に入れただけの敷布団と厚手の布だけだ。

 シロの分の敷布団を作るか。

 布を縫い合わせるのも意外と面倒だ。

 シロの場合さらに大きいんだよなぁ……。

 とりあえず敷布団の長さが2.5メートルくらいは必要か。

 まずはペンでしるしをつけ、ナイフをクロに借りに行く。


「ぐぎゃ?ぎゃっぎゃぎゃ」


 既に刃物研ぎは終わっていたので、結局布を切るのも、縫うのも手伝ってくれた。

 クロは俺の倍くらいの速度で作業を進めていく。

 こいつといると、仕事をどんどん持って行かれる。

 ダメ人間にされそうだ。

 そのうちお母さんと呼んでしまいそう。


 そんな感じで細々と作業をしていると、あっという間に日も傾いてきた。

 早めに晩飯を用意し、3人と1匹で食べる。

 これまでの疲れがどっと出たのか、あっという間に眠ってしまった。

 久しぶりに何も警戒することなく、ゆっくりと過ごせて、心の底からリラックスできた。

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