第32話 街歩き①

 三角岩までたったの15分。

 エリザベスに乗って俺たちは三角岩へ到着した。

 いやいやエリザベス…………便利すぎだろ。


「最高だよお前!」

「メエエエエ!」


 これまでは、アジトから三角岩まで、どんなに急いでも4時間は必要だった。

 それほど急いだわけでもないのに、こんなに早くつくなんて……。

 体が大きいせいか、安定感があり、揺れもそんな嫌な感じがしない。

 当然3人と1匹、荷物満載で乗っても全く問題ない。

 とはいえ、エリザベスとはここで一旦お別れだ。


「エリザベス~! しばらく俺たちは帰らないけど元気に暮らすんだぞ!」

「ぎゃう~!ぎゃっぎゃっぎゃ!」

「むりしちゃだめだよ」

「メエ~メエ~メエ~!」


 3人と1匹で別れを惜しんでモフり倒す。

 暫くこの手触りを楽しめないのか………………。

 残念だ。

 とはいえ、流石に街へ連れていくわけにはいかないだろう。

 メナス達には出来れば紹介しておきたかったが、仕方ない。



 というわけでここからは歩いていく。

 今回は限界まで荷物を持ってきたので、正直かなり重い。

 俺とクロもかなりの荷物量だが、シロにはその4倍くらいの荷物を背負ってもらっている。

 本人は平気な顔をしているが、自分より大きい荷物を軽々背負う姿は、絵的にかなりおかしなことになっている。


「クロ、シロ、荷物重かったら言ってくれよ」

「ぐぎゃうぎゃうー!」

「余裕」



 サヴォイアへの道も、もう慣れたもんだ。

 襲撃された苦い思い出もあるが、気力体力ともに万全な今は全く気にならない。

 おまけにエリザベスで三角岩まで来たせいで、体力的にも大分余裕がある。

 これならいつでも半日あれば行けるな。

 そう思うとサヴォイアが急に近く感じてくる。



 

 そんなことを考えているうちにあっというまに関所へ到着。

 今回はクロについての説明が面倒なので、3人分の税金を払う。

 シロとクロの分は傭兵として払うが特に問題ないようだ。


 まずは前と同じ宿へ荷物を置き、木工所へ向かう。

 道を歩いていると結構視線を感じる。

 とはいえ俺でなく、クロとシロを見ているわけだが。

 確かにこいつら最近見た目も整えているので、中々強そうに見える。

 シロは言わずもがな、クロも腰に4本のナイフを刺し、堂々とよどみなく歩く姿は、中々の強者感がある。


「ぐぎゃ?」

「喋ると一気に小鬼感出るよな」

「クロは………………かっこいいよ」

「ぐぎゃあ! ぎゃあ!」

「ここだな、木工所」


 作業台の上に親方が寝ている。

 こいつも個人的には結構好きなタイプだが、なんか変な奴なんだよな~。


「おーい、親方! 起きろ~!」

「んー? おおおお! チョコレートとコーヒーくれよ!」


 相変わらず声がでかい。

 しかし地味にうちの店の一番の顧客は親方なんだよな。

 前回も出店中は毎日来てくれた。


「親方久しぶり! 露店は明日からだけど――――これ、新作のお土産のチョコレート。良かったら試してみて」

「新作か! なんだこれ?」

「それは刻んだオレンジが入っているものと、ミルクが入ってるもの」

「へ~…………食っていい? ――――うんめえわ!」

「出来れば感想聞かせてほしいんだ」

「うめえうめえ!」


 こいつに感想効いた俺が馬鹿だった。

 元々チョコレートもコーヒーもかなり好きな奴だからなぁ。


「売れるかな?」

「んなの当たり前だろ。俺このオレンジのほう特に好きだわ。明日も置いてんの?」

「明日は置いてない…………けど今後これを高級なお菓子として売っていくつもり。それで、その入れ物の木箱を親方に頼もうと思ってたんだよ」

「ああ~なるほどな。箱はなぁ…………。どうしても割高になっちまう。こういうのは箱屋に頼む方が良いぞ」

「多少高くついても、別の工房に委託してもいいから、木製品は基本親方に任せたい」

「おお? おお~そうか~まぁいろんなとこ顔出して頼むの面倒くさいもんな。じゃあ~やっとくから金用意しといてくれ!」


 意外と鋭い分析をされる。

 実際のところ面倒くさいのもあるが、この親方は任せきったほうが、きっと良いもの作ってくる。


「1箱いくらかかりそう?」

「う~ん、そうだなぁ……。やっぱわかんねえ! 多分500レイあれば作れるんじゃないか?」

「わかった。じゃあこれくらいの大きさの箱100個お願い。一応積み重ねても倒れないようなデザインでよろしく」


 5万レイを渡すと、親方がめちゃめちゃ嬉しそうな顔をする。

 見るたび心配になる笑顔だ…………。


「ところで親方って名前何て言うの?」

「オスカー・ボット」

「なんか無駄にかっこいいな」

「そっか? ところでそのデカいねーちゃん誰だ?」


 そういえば、まだシロとは会って無かったか。

 シロはホットパンツにノースリーブのワンピースを着ており、移動中はこれにローブを羽織っている。

 クロが手持ちの服と布を改造して作ったが、中々セクシーかつスタイリッシュだ。

 シロは手足が長く筋肉も発達しているので、激しく動くたびに服をボロボロにしていた。

 この格好になってからは服をダメにしていない。

 鬼特有の再生力があるので、肌を守るより動きやすさを重視したのだろう。

 そういうわけで、今やシロは一目見れば女性であることはすぐにわかるのだ。


「俺の仲間で鬼族のシロだよ」

「へ~お前の仲間は変わったやつが多いな。べっぴんだな。それに…………良い筋肉だ」

「筋肉…………」


 シロが首をかしげている…………。

 まぁ親方も体格がいいし、筋肉好きそうだもんな。

 わかるぞ。

 確かにシロの体には憧れるものがある。


「クロも中々いけてるだろ?」


 ちなみにクロもシロと同じようなホットパンツにノースリーブのシャツを着て、その上からローブを羽織っている。

 腰にはキダナケモの革で作った、ごつい革ベルトをしており、4本のナイフが吊られている。

 髪の毛もボリュームは凄いが、入念なブラッシングのせいか、今はうまくまとまっている。

 むしろ顔が小さく見えて可愛らしい。


「おー? ああっ! こいつ前の小鬼か!? うええー凄いな…………」

「ぐぎゃ!」

「うちの小鬼もそのうちこんな感じになんのか?」

「いやこいつが変わっているだけだと思うぞ」

「うーん、そうかぁ。まあしゃあないな!」


 工房の隅で無表情に座っている小鬼を残念そうに見ている。

 クロも不思議そうにその小鬼を見ている。

 変わっているのは多分お前の方だと思うぞ…………。


「箱はいつできるかな?」

「え~っと、贈答用のチョコレート入れる箱100個だな。…………5日後には出来てると思うぞ!」

「じゃあよろしく!」


 次に回るのは傭兵斡旋所だ。

 マリーに伝言残さねば…………。

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