第33話 街歩き②

 斡旋所の中に入ると、これまで以上に多くの視線が集まる。

 ほぼ全員シロを見ている。

 一部クロを見ている連中もいるようだ。

 俺はほぼ視界に入っていないようだ。


 いつもの窓口に行くと、ハジムラドが爪を磨いていた。


「ひさしぶり」

「ああ…………ボナスか」

「また伝言を頼みたいんだけどいいかな?」

「マリーか。ずいぶんお待ちかねのようだぞ」

「ちょっと思いがけず色々あったもんでね」

「内容は前と同じでいいか?」

「ああそれでよろしく」

「今回は…………傭兵はいらないな」

「ああ、当面は何とかなりそうだよ」

「ところで…………あ~…………」


 珍しくハジムラドガ言いよどむ。

 何か悪い知らせでもあるのか?


「お前さん、チョコレートとコーヒーと言うものを売ってるんだってな?」

「あ、ああ」

「それで、それを今度俺にも売ってもらえんか?」

「そりゃもちろん構わないが、なんでまたそんな急に?」

「マリーが……お前が来ないとずっと愚痴るせいで、どうも気になってな。そんなにうまいものなら食ってみたいと思ったんだ」


 こいつこんな仏頂面して、結構美食家なのかな。

 ありそうだな。

 金は余るほど持ってそうだし、女遊びするタイプでも無さそうだ。

 飯と服に金かけるタイプか。

 それにしても、恥ずかしそうにチョコレート食いたいなんて、可愛いところがあるじゃないか。

 誰も得しないがな。


「なるほど、明日仕事の合間にシロかクロに持って行かせるわ」

「…………たのむ。後ニヤニヤするな」

「んじゃ伝言の方よろしく!」

「ああ…………」


 今日のノルマはすでに達成してしまったな。

 だが、まだ日暮れまでは時間がありそうだ。

 今まで行けなかったところに行ってみるかな。




 一番治安の悪いドゴール闇市場に武器を買いに来てみた。

 今回はこれまでと違い、クロとシロを連れている。

 2人に限っては、格好もずいぶんそれなりのものになっただろう。

 これでそう簡単にはなめられないと思いたい。


「ボナス」

「うん? シロどうした?」

「あれ」


 シロが一軒の露店を指さす。

 地面に直接布を敷いて、雑然とこん棒やメイス、斧などを大量に並べている露店がある。

 剣は無いのでメイス専門店かな。

 奥には、やたらでかい銀色の長髪の女が気だるげに胡坐をかいている。

 あ、鬼だわあれ…………。

 こっちを見て手招きしている。

 シロのお友達かな?


「――――」

「こっちの言葉で話そう。私はこっちではシロって呼ばれてる」


 向こうは鬼語でシロに挨拶でもしたようだ。

 俺とクロを面白そうに見ている。


「あれ? こっちの言葉喋れるようになったんだ」

「うん」

「連れの2人もよろしく。私は、えーっと…………シロと同郷のギゼラ。鬼だよ」


 見た目露出も多くて、色っぽいお姉さん風だが、喋り方はふわっとしていて少し子供っぽい。

 シロに比べると全体的に小柄だな。


「ボナスだよろしく。こっちは小鬼のクロだ」

「ぐぎゃあ!」

「あれ? 小鬼だったんだ……初めて見るタイプだなぁ」

「よく言われるよ」

「シロ仲間が出来たんだね。よかったねぇ」

「うん。よかった」

「ニコニコしちゃってー」


 ギゼラとシロは結構仲が良いようだ。

 ギゼラはシロと比べると大分流暢に喋るので、サヴォイアで長く暮らしているのかな。

 シロが最初に持っていた武器は、ギゼラが用意したものなのかもしれないな。


「あれ? シロ武器は?」

「ぐにゃぐにゃになっちゃった」

「うわ、相変わらずの馬鹿力だなぁ。次はもっと丈夫なのじゃないとだめだねぇ」

「剣鉈も折れちゃった」

「うわぁ。あれ? シロ大きくなった? 元々おっきかったけど…………うわっ、角どうしたの? えーどういうことー?」

「わかんない」

「なーにーそれー! いいなー! 私も角長くしたいー!」


 やっぱシロは鬼の中でもでかいほうだったのか。

 あと角が伸びるのもかなり珍しいと。

 地獄の鍋で暮らしているせいか、キダナケモの肉食べているせいか…………わからんな。


「ギゼラ、もしよければシロに合う武器選んでやってくれないかな? 予算は10万レイしかないんだけども…………」

「10万レイでシロが使って壊れない武器を用意するのは無理だね。でもシロの武器ならあげるよ」

「ギゼラいいの?」

「いいよ、その代わり今晩おごってよ。久しぶりに一緒に飲もうよ~」

「ボナスを置いていけない」

「じゃあ4人で一緒に飲もう!」

「ぐぎゃあ! ぐぎゃあ!」


 何時の間にか飲む流れに…………まぁ10万レイ以上の武器をおごってくれるようだし、たまにはいいか。


「まだあまりサヴォイは長くなくて、店知らないんだけど任せていいかい?」

「いいよー! じゃあパパっと武器選んじゃおう………………一番頑丈なのは…………これこれ」


 ギゼラは背後の木箱をゴソゴソ漁り、黒光りする金属バットのようなものを取りだした。

 まんま鬼の金棒だなこれは。


「これなら暫くは大丈夫じゃないかな? どうぞ」

「ちょっと振ってみていい?」

「中まで鉄はいってるから結構重いよ。気を付けてね」


 シロが金棒を持ち、まるでテニスラケットのように軽々と振る。

 先端は速すぎてほぼ見えない。

 目の錯覚か、実際そうなのかわからないけども、シロが振るたびに金棒が結構しなっているように見える。

 怖すぎる。


「うわわわわ…………これでも遠からず壊れそうだなぁ…………」

「まあまあいい感じだよ」

「そっか。まぁ剣鉈はどれも同じだよ。適当に持って行って。1割くらいの力で使うんだよ」

「うん」

「よーし! 今日の商売は終わり! これからお店片付けるから待っててくれる?」

「かまわんよ。今日の予定は全部こなしたしね」

「うん」

「ぐぎゃうっ」



 ギゼラはあっという間に店じまいを終わらせ、大量の荷物を一人で軽々と持ち上げる。

 こいつも十分馬鹿力だな………………。


「よーし! それじゃ飲みに行こ~!」

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