第42話 職人達
「今日は私もいっしょに行くよ」
次の日、みんなで朝食を食べていると、ギゼラがそんなことを言いだした。
「なんでまた?」
「寂しいからに決まってるじゃん! せっかく仲間で活動できると思ったら、ずっとひとりで残される身にもなってよ~」
まぁそんなことだろうとは思ったが…………。
しかし商売のほうは大丈夫なのだろうか。
「私もボナスの横で武器売るよ。品質はミシャールでも通用するからね」
「確かにギゼラは俺よりはるかに先に商売していたんだよな。よろしく先輩?」
「あっはっはっは。まかせなさい」
「ギゼラも来てくれるんだ。うれしいな」
「ぐぎゃう~!」
「まぁ実際色々と心強いわ」
「えへへ~」
それからギゼラはやたらハイテンションで持って行く武器の選別をしていた。
たまにクロを肩車したりして、かなりはしゃいでいる。
シロはそんなギゼラをうれしそうに、ニコニコと見ていた。
俺としても、今日は買い物にも出たかったのでちょうど良かった。
「鬼の鍛冶屋とは珍しいね。しかも鬼女とは……。まぁ、あんた達なら同じ場所で商売しても構わないさ」
クララに相談すると、思った以上にすんなり出店の許可が出た。
出店料も何故か1人分でいいらしい。
なんだか親切過ぎて怖かったので、チョコレートギフトを渡そうとすると断られる。
「これがチョコレートかい? ふーん。でもそれは貰えないよ」
「そうかい? まぁ味見用の試作品なんで、気にしなくてもいいんだが……」
「一応この市場を取り仕切っているんだ。誤解を生むようなことはできないさ」
「なるほど…………すまんかったね」
「まぁそのうち買いに行かせてもらうよ」
そう言うとクララはいつも通り滑るように消えていった。
取り入る隙も無いとはまさにこのことだな。
流石は市場の取りまとめを任されるだけはある。
それからいつも通り屋台を借りて露店の準備を始める。
ギゼラも手慣れた様子で、さっさと準備を進めていく。
メラニーとうちの屋台の間、ほんの2メートルくらいの間口を使うようだ。
「じゃあこの辺に置かせてもらってもいいかな? メラニーもいい?」
「いいよー」
「ギゼラさんも一緒にやるんだ。ちょうどボナスの顔も見飽きてたんだ。私はうれしいよ。よろしく」
「あっはっは。よろしくね~」
「俺はたった3日で飽きる顔なのか」
露店の準備も、もう手慣れたもので、あっという間に終わる。
手の空いたシロがギゼラの手伝いをしてやっている。
クロは早速やってきた親方にコーヒーを用意してやっている。
「ぐぎゃうぎゃぎゃう!」
「クロ! ボナスよりおまえさんが入れたほうが遥かにうまい!」
「知ってるよ! ほっとけ!」
そう、なぜかクロの入れるコーヒーが一番うまい。
あまり気が付いている客はいないが、無類のコーヒー好きの親方は直ぐに気が付いた。
同じいれ方しているはずなんだがな……。
「そういやボナス、箱の装飾はなんかするか? 簡単なのならできるぞ」
「う~ん、面取りを綺麗にしておいてくれればそれでいいかなぁ。焼き印でも入れたいところだが、デザインも決まって無いし、金掛かりそうだからなぁ」
「焼き印なら私が作ろうか?」
「ギゼラそんなこともできるの?」
うわー夢広がるなぁ。
デザインしっかり考えないと。
そもそも店の名前も無いしな。
ちゃんとブランディングのことも考えるか。
「まぁ難しい形じゃなかったら出来るとおもうよ」
「お! また仲間が増えたのか? ん~鍛冶屋か? いいな!」
「木工屋さんかい? うちは刃物も目立てもやってないけど、まぁよろしくね」
職人同士なにか通じるものでもあるのだろうか、意外と気やすい感じで話している。
「ということで、まぁ装飾は特にいらないんで、木目の綺麗な素材を使って、丁寧に精度よく仕上げてくれればいいいよ」
「わかった! まぁ、それが一番難しいんだけどなぁ」
焼き印なら箱が出来てからでもいいしな。
そういえば、石臼も買わねばな。
朝の人の流れがさばけたら買い物に行くか。
「今日はちょっと買い物にも出ようかと思うんだけど、誰かついてきてくれる?」
「ちょうど買いたいものもあるから、私が付いて行ってもいいかな?」
「じゃあギゼラよろしく」
「シロ、クロ、何かあったらよろしく頼むよ」
「ぐぎゃう!」
「うーん…………ギゼラ任せたよ」
「わかった」
ギゼラの実力はよくわからんけど、まぁこいつも鬼だし大丈夫だろう。
それより無駄遣いしないようにしないとなぁ。
服はもうちょい金貯めてからにするか……。
ギゼラは砥石を買いたいらしい。
俺も丁度石臼が欲しかったので、石屋へ行くことにする。
サヴォイア歴が長いギゼラは、どこにどんな店があるかについて、事細かく教えてくれる。
「ギゼラについてきてもらってよかったよ」
「あっはっはっ、私と来てよかったでしょー?」
「うん。ほんと助かるわ」
そうして、2人で話しながらのんびり歩いていると、前から鬼男が歩いてきた。
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