第23話 マリー来店

 露店3日目。

 午前中にマリーが来た。


「ボナス。久しぶりね。連絡ありがとう」

「おおっ! マリー久しぶり。来てくれたんだね」


 相変わらず、ただ立っているだけで迫力があるというか華があるというか。

 前回見た時も派手な髪色だと思ったが、今日は屋外ということもあって、余計にオレンジ色のショートボブが光り輝いている。


「チョコレートはオマケなのね」

「ああ、メインはコーヒーなんだ。チョコレートはたくさん手にはいらないから、こういった売り方をしているんだ」

「そうなの。私は少々値が張ってもチョコレートを塊でほしいところだけど………………とりあえず、一杯試しにいただくわ」

「コーヒーもお勧めだけどね。ただ苦みが嫌な場合はミルクを追加しているんで、言ってね」

「じゃあ少しミルクを入れてもらえる?」

「わかった。やや少なめに入れておくから、もし足りなければ言ってね」


 何故かマリーとのやり取りをしている間、遠巻きにギャラリーが集まっている。

 確かに立っているだけで絵になるし、実際この辺じゃある程度有名人なのだろう。

 これはいい宣伝になるかな。

 ただし、近寄り難いせいか、現時点では人は寄ってこない……。


「あら、良いわねこれ。チョコレートとも合うじゃない。意外だわ」

「気に入ってもらえてよかった」

「あの~、もしかして……、双剣のマリーさんですか?」


 横からメラニーが恐々声をかけてきた。

 双剣……まぁ見たまんまだけど……二つ名とかかっこいいな。


「ええ」

「うわぁ~噂通り素敵ですね!」

「どうも。そういえばボナスその後ろで働いてるのって……」


 なんという塩対応。

 メラニーがしょんぼりしちゃっているじゃないか……。

 それにしても、やはりクロの変化には気が付いたか。


「前連れていた小鬼なんだけど、……なんか……成長したみたい?」

「……」

「ぐぎゃあ?」

「まあ……ありえなくも……ないのかしら……」

「ぎゃっぎゃっ」


 クロは何故かマリーの立ち姿の真似をしている。

 そういや前にマリーの真似しろって言ったな…………でも今はやめておいてくれ。

 少しの間、かなり不審そうにクロを観察していたが、すぐに気にしないことにしたらしい。


「ねえ、あのぴんくも見せて」

「ああいいよ。ぴんく~」


 寝ていたのかポケットから顔をだしてキョロキョロしている。

 ぴんくは露店中は結構自由にしている。

 ポケットから出たり入ったりコーヒー飲んだり、チョコレートつまみ食いしたり……。


「可愛いわねぇ。ほら、こっちにおいで」


 意外とマリーは可愛い物好きだと思う。持ち物など見ていてもそうだが、お洒落にもこだわりが強そうだ。

 持ち物の細かいデザインが洗練されている。

 ぴんくは野生をかなぐり捨てて、マリーにチョコレートをねだっている。


「あら、仕方ないわねぇ……これ食べさせても大丈夫かしら?」

「ああ、問題ないよ。そしてこれはサービス」


 マリーがぴんくに残りのチョコレートを半分あげようとしていたので、追加で2枚ソーサーの上に置く。


「ありがとう」

「こいつ、トカゲのくせにチョコレートが好きなんだよね」


 ぴんくはチョコレートを貰うとマリーの指を両手で握ったりして、適度に愛想を振りまいてからポケットに戻ってきた。


「この子可愛いわ……」

「そういえば、ちょっとアドバイス貰いたいことがあるんだけど、聞いていいかな?」

「ええ、いいわよ」

「まだ商売を始めたばかりなんで、安全のため日替わりで傭兵を個別に雇っているんだけど、中々大変で……。長期で頼めそうな良い人知らないかな?」

「ハジラムドに聞いたわ。まあ金額的にも条件的にも、普通は難しいわね。う~ん……でもそういえば……」


 なんだか考え込んでしまったな。

 長期で良い人に一定期間ってなると、金額が跳ね上がるのだろうな。


「ちょっと……心当たりが……なくもないわ。明日昼に斡旋所へ来ることはできるかしら?」

「ああ、商売は今日で一区切りだったから、明日なら何時でもいいよ」

「じゃあそれで。その時出来ればチョコレートとコーヒーを飲みたいわ」

「喜んで持って行くよ!」

「うふふ、ありがとう」


 メラニーとのやり取りを見ていると、取っ付きにくそうな印象だが、なぜか結構親切に対応してくれるな。

 ぴんくとチョコレートのおかげか……。




 

「マリーさんとあんな親しげに話せていいなぁ」

「まあ、たまたまうちの商品を気に入ってくれただけだと思うよ」


 マリーが帰った後、メラニーが恨めし気に話しかけてきた。


「そんな有名人なの?」

「この街ではかなり有名なんじゃないかな。実力もトップクラスで領主様の専属で、よく仕事を依頼されているみたいよ」


 思った以上に凄い奴だった。

 ますますこの縁は大切にしておきたいところだ。

 明日はコーヒーのセット以外にも、チョコレートを別途包んで持って行くか。


 気が付くと昼になっていた。

 マリーが来て個人的には盛り上がっているつもりだったが、他のお客が遠巻きに見ていただけだったので、実はあまり売れていない。

 とりあえず、午後から頑張ることにして、斡旋所に傭兵を迎えに行く。




 斡旋所では相変わらず髭面男、ハジムラドの窓口はガラガラで、暇そうに本を読んでいる。


「ハジムラド、昨日の報告にきた。後、マリーと会えたよ。伝言ありがとう。今日の傭兵はまだかな?」

「ああ、まだ来てない。時間まではもうちょっとあるだろ。もう少し待っていてくれ」

「わかった。それで……昨日の傭兵なんだが、依頼達成で問題ないんだけども……あ~正直今後は別の人にやってもらいたいな。まあ出来ればだが……」

「…………わかった。今後配慮しよう」

「後、店は明日から少し休むので、とりあえず傭兵の依頼は今日でいったん終了ということで」

「わかった」

「またしばらくしたら再開すると思うから、その時はよろしく」

「ああ」





 結局その日の傭兵は10代の女だったが、始終座って寝ていた。

 まあ別にそれでもいいんだけどね……。

 とはいえ午後から客足は一気に増えた。

 マリー効果もあるのかな?

 リピーターも多くてうれしい。

 木工所の親方は何気に3日連続来てくれた。

 親方含め、リピーターの他の人たちに、明日からしばらく休むことを伝えると、かなり残念がってくれた。

 客商売は色々神経使うけど、こういう反応を直接味わえるのは、純粋に楽しい。

 結局今日は51杯売れた。


「メラニー3日間ありがとう。正直横にメラニーがいてくれて本当に助かったよ。数日したら再開する予定だけど、また近くに場所指定してもらえたらいいなあ」

「私の方こそ面白かったよ。ボナスみたいに色々変な人はそういないからね」

「常識に疎いだけだと思うけどね。まあ確かに扱っている商品とかクロは変わってるとは思うけどね」

「クロもまたね! 市場に来たら顔みせてよ!」

「ぐぎゃうー!」

「もちろん! あとこれどうぞ」


 短い付き合いだが、メラニーはいい奴だと思う。

 野心的なところがなく、目の前の日常を素直に愛そうとしている。

 意外とそういう人は少ない。

 なるべく長く付き合っていきたいものだ。

 最後にチョコレートの入った包みをあげる。


「貢物だ! わーい! もうコーヒーとチョコレートが無い生活に耐えられるか不安だよ。また買いたいから早く戻ってきなよ」

「ありがとう。じゃあまたねー!」

「ぐぎゃぎゃぎゃー!」

「ボナスにクロとぴんくも……またね!」


 色々あったが、3日間何とか乗り切った。

 思ったより充実した時間を過ごせた気がする。

 お客さんを目の前にしてする商売は、怖い面もあるけど面白い。

 課題は色々あるが、それは明日以降考えよう。

 今日は宿に帰ってゆっくり休もう。

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