第49話 メラニー邸

「おまたせ~」

「ぎゃうぎゃう!」

「メラニー早かったね」

「もうそんな時間か、すっかりぼんやりしてしまった」


 メラニーの家は徒歩5分の距離にあった。

 ミシャール市場から一本入った路地の中々小綺麗な戸建てだ。

 古い建物だがよく手入れされている。


「いいところに住んでいるね。建物も中々いい」

「母さんから引き継いだ家だけどね。昔は好きじゃなかったけど、今は気に入っているんだー」


 中に入り、ダイニングに案内される。

 日当たりの良い中庭に面してリビングとダイニングが配置されている。

 意外と広く、大柄な鬼3人を含む5人で座ってもそれなりに余裕がある。

 部屋には既に食べ物のいい香りが充満している。


「もらったお肉凄いね。シチューにしてみたんだけど、びっくりするくらい美味しかったよ」

「それは楽しみだ」

「じゃあ早速並べていくからゆっくりしてて~」

「ぐぎゃう~!」


 クロがメラニーについていく。

 きっと手伝いに行ったのだろう。

 相変わらずメラニーとクロは仲がいい。



 

 暫くするとテーブルに所狭しと料理が並ぶ。

 メラニーは確かに料理が上手いらしい。


「おいしー! メラニー凄いね~」

「ギゼラありがとう。お替りもあるからね~」

「確かにうまいなぁ。メラニーがこんなに料理うまいなんて……結構意外なんだけど」

「ボナスは普通に失礼なこと言う時あるよね」

「うまい。メラニー、俺はこんなうまいの食ったことない。お前凄いな」


 ザムザが嬉しそうにシチューをかき込んでいる。

 こいつこうやってニコニコ飯食っていると大分幼く見えるな。


「ザムザだっけ? いっぱいあるから食べてね」

「ああ、ありがとう」


 うわぁ、メラニーがザムザの笑顔を前にちょっと乙女な顔をしている。

 まぁ鬼族は中性的な美形だからなぁ。

 確かにそんな奴に無邪気な笑顔を向けられて、母性をくすぐられるのも分かるが……。

 しかし、こいつはまだお前の半分も生きてはいない。

 そのことはよく考えたほうがいいと思うぞ。



 それにしても自分で言うだけあって、メラニーの料理はサヴォイアで食ったものの中でも一番うまかったかもしれない。

 特にザムザは何度もお替りし、すっかり餌付けが完了していた。


 

「今日母さんに言われた件について私も考えてみたんだ」

「んあ?」


 食後、満腹感に緩み切っていたところで、メラニーがおもむろに話し出す。


「まず問題は、ボナスのお店にはお客さんの滞在する場所が不足しているってことでしょ?」

「まぁそだね」

「考えたんだけど、私とギゼラとボナスの露店で場所を共有して、コーヒーが飲める場所を作るのどうかな?」

「う~ん……なるほど、ありかもしれない」


 ようするに、オープンカフェ併設の複合露店にしようってことか。

 場所を集約、効率化して、それぞれの店舗の集客力もアップするのは悪くない。

 普通ならば、お互いの信用の問題や複雑な利益分配が問題となるが、メラニーだったら大丈夫だろう。


「なにそれー面白そう!」

「ギゼラのお店も一杯人来るから利益があると思うんだよね~」

「いいね! ボナスの手伝いしてて気が付いたんだけど、私ああいう仕事も嫌いじゃないんだよね~。もちろん鍛冶が第一だけど」


 既にギゼラは乗り気のようだ。

 俺にとって間違いなくありがたい話だろう。


「俺も賛成だよ。よく考えてくれたね。メラニー結構賢いね」

「いや~私もさ~ボナスたちが商売始めてから、色々な人とコーヒー片手にお話するじゃない? 実はあれ楽しくてさ~」

「なるほど、メラニー喋るの好きだもんね。俺より接客向いてそうだわ」

「ぎゃうぐぎゃう~」

「メラニーと一緒に露店するなら私も安心かな」


 クロとシロも賛成のようだ。

 黒狼の件が片付いたら早速そういう方向で進めていこう。


「じゃあメラニー。明日からまた少しサヴォイアを離れるんだけど、次に戻ってきたら一緒に露店開こうか」

「わかったよ。いいね~なんだかワクワクしてきた! 母さんには私が話を付けておくよ。椅子やテーブルも用意できればいいんだけどなぁ」


 メラニーからクララに言ってもらえるのは助かるな。


「家具なら常連のオスカー親方に相談してみるのがいいかな。喜んで協力してくれるはずだ」

「いいなー楽しみ。私も鍛冶仕事で何か協力できることないかなぁ」

「今度乳香も売ろうと思っていたから、それ用に洒落た鉄皿が欲しかったり」

「私にできるかなぁ?」

「ギゼラはデザインセンスすごくいいと思うよ。この杖とか最高にかっこいいじゃん」

「えへへ~。実は私そういうの結構好きなんだよね~。やっぱ武器は見た目も実用性のうちだからさ。ボナスちゃんと分かってくれてるじゃない!」

「ギゼラのことは職人としても普通に尊敬してるよ」

「……うん」

「ギゼラ嬉しそうだね」

「シロー! もうそういうの言わなくていいよ!」


 ただ、問題がないでもないんだよな。

 多分メラニーの提案に乗ると、必然的に今よりも商売の規模はやや大きくなる。


「そうなると、問題は人手だなぁ」

「ああ~確かに……。ボナスが適当に探してきてよ。そういうの得意でしょ?」

「いやぁ…………俺常識無いからなぁ。まぁ戻ってきてから考えるわ」

「ぐぎゃう~!」

「あ、クロありがとー」


 クロがコーヒーを淹れてきてくれた。

 既にメラニーのキッチンを完全に使いこなしている。

 それから暫くは、たわいもない話をするうちに、いい時間になり解散となった。

 傭兵の仕事が終わり次第一度アジトに戻り、オープンカフェに対応できるように色々準備しなおす必要があるな。

 さて、明日は初の傭兵仕事か。

 どうなることやら……。

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