第66話 角
マリーがアジトを発ってから3日経った。
急ぎすることも無かったので、マリーが帰ってくるまでは、みんなで最大限休暇を満喫することにした。
黒狼との戦いで疲れた身心を、この機会にしっかり休めたい。
そんな中で一番はしゃいでいたのは、間違いなくギゼラとミルだろう。
彼女たちはアジトに来るのは初めてだ。
マリー達が出発してから延々アジトを歩き回り、あらゆるものを収穫して回っている。
たまにキダナケモに追いかけられ、命からがら逃げたりもしつつも、たいそう楽しそうにしている。
「ミルちゃん。このキノコって食べられる奴じゃないの?」
「あ~! ほんとだ! これめちゃ美味しやつだよ! ゼラちゃん籠にまだ空きあるかい?」
「もうあんまないよ~。あ~ここダメだ~お宝だらけで頭がおかしくなる~」
「あ! あそこの湿地に生えてるのパンに使えそうだ!」
そしていつの間にか、ミルちゃんゼラちゃんとお互いを呼び合っている。
まるで幼馴染のようだ。
「おーい、ゼラちゃ~ん」
「え? なんかやだ」
「……なんか、ごめんな」
俺はダメらしい。
自分でもちょっとどうかと思った。
晩飯時にも、あれを作りたい、これも作りたいと2人で大盛りあがりしている。
食後もクロを交え、エリザベスの毛を紡ぐのに悪戦苦闘しているようだ。
ちなみにシロはあの夜から特に変わった様子も無い。
何か作業をしていると、たまに後ろから忍び寄ってきて抱き着かれるくらいだ。
ちょっと嬉しいのが悔しい。
昨日たまたまそれを見ていたザムザが、まるで偶然人殺しの現場でも見てしまったかのような、凄い顔をしていた。
前から思っていたが、おまえの中でシロはどんな存在なんだよ……。
ちなみにシロは日中、クロとエリザベスに乗り、アジトの周りを駆け回っているようだ。
どうもキダナケモに挑んでいるようで、帰ってくると大体ボロボロになっている。
黒狼との戦いで何か思う所でもあったのだろうか。
そして3日目の今日、遂にキダナケモの討伐に成功したようだ。
巨大な黒いオリックスのようなものを持って帰ってきた。
エリザベスよりもひと回り大きく、鬼達が総出で四苦八苦し、何とかアジトへ運び込むことに成功した。
ザムザはそのサイズ感と威容に、若干ひき気味だったが、ミルとギゼラは歓声をあげた。
ナイフ片手に目を光らせ、嬉々として解体に取り掛かる。
「すごいって、もうこれ凄いって! これだけの皮があれば、みんなの防具一新できるね! なにから作ろうかね~。まずは鞣さないとだめだね。ああ、忙しい。忙しいねぇ~、フフフッ」
「ねぇ、この角見てよ~! ちゃんと魔力が固定化されてる! ねぇボナス、なにつくろ? ねぇねぇ! あっはっはっはっは」
ミルとギゼラは何に使うのか、キダナケモの糞でさえ喜んで収集していたくらいだ。
なので、今回の猟果にはとりわけ大はしゃぎしていた。
最初は俺も手伝っていたのだが、解体ナイフを嬉々として振り回しながら、色々な部位をほじくり返しては高笑いする2人がだんだん怖くなってきたので、解体は彼女たちにすべて任せることにした。
これまでキダナケモの相手はぴんく頼みだったので、必然的に体の半分以上が消し飛んだものしか手に入らなかった。
それが、今後こういう形で狩猟できるようになれば、有効利用できる部位が飛躍的に増え、色々とありがたい。
「でもまだ、エリザベスがいないと倒すのは難しい」
「シロ、あんまり無茶な戦い方はやめてくれよ」
「大丈夫だよボナス。私の角触ってみて」
シロが俺の手を取って、自分の角を触らせる。
ツルツルとした滑らかな手触りの角は、以前と比べ少し大きくなっている気がする。
「あれ? また大きくなった?」
「うんー。えへへ」
ちょっと恥ずかしそうな顔をして頬を染めないでほしい。
なんだかいけないことをしているような気がしてくる。
「うわわ~っ」
「!!」
ギゼラが何故か顔を赤らめてこちらを見ている。
ザムザは両手で顔を隠し、指の隙間からこちらを見ている。
いやいや、なんだよその反応……。
「なぁギゼラ、角って伸びると何かいいことあるの?」
「え~ボナス知らないの~? 私たちの回復力は角のおかげなんだよ。大きい程回復力が上がるの。結果的に、より一層限界まで力も出せるから、角の大きさは、ある程度強さの指標にもなるよ」
「へ~そうだったんだ。だんだん伸びてくるの?」
「そんなわけないよ~シロが異常なだけ。羨ましいなぁ~。普通はザムザくらいの年になれば止まるよ。ってあれ? ……なんかザムザ、角伸びてない? あっ! 私も? ええっ、うそっ?」
ギゼラとザムザが自分の角を掴んでびっくりした顔をしている。
かなり面白い絵面になっているぞ。
「ぎゃっぎゃっぎゃっぎゃっ」
「え~うそでしょ~? なんでだろ」
「俺の角が……」
「よかったね」
シロはそんな2人をニコニコ嬉しそうに見ている。
クロは鬼達が自分の角を掴んで驚愕している様子が面白かったのか、笑い転げている。
「なぁ、クロお前の角どうなってる?」
「ぐぎゃう~? ぎゃあうあー!! ぎゃっぎゃっぎゃ」
クロは自分の髪の毛をかき分けて黒い角を掴むと、2人と同じように驚愕している。
あ、お前もそうなのね……。
「いつのまに、そうなったんだろうな」
「全然わかんない」
「おーい、ゼラちゃん! ちょっと背骨抜くから手伝って~」
「あっ、ごめ~ん」
ミルは我関せず延々キダナケモをほじくりまわしていたが、手が足りなくなったようだ。
ギゼラも慌てて手伝いに戻る。
ザムザはにやにやしながら少し大きくなった自分の角を撫でさすっている。
鬼的には中々にうれしいことのようだ。
俺としても皆が強くなっていくのはやはり嬉しい。
だけど原因が分からないのは、なんだか不安だなぁ。
アジトでの生活が関係してそうな気はする。
ただ、一番長く滞在しているはずの俺が何かに目覚める気配は……まるで無い。
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