第37話 露店再開 午後

 3人で簡単な昼食を取った後、シロにお使いを頼む。

 ハジムラドにコーヒーとチョコレートを届けてもらう。


「クロ、ボナスよろしく」

「ぐぎゃうー!」


 どれだけ俺は頼りないと思われてるんだ。

 最近シロの過保護が止まらない。

 流石に真昼間のミシャール市場で襲われることはないと思うぞ。


 

 そうして露店を再開して間もなく、ついにマリーがやってきた。


「ボナス。遅すぎ」

「マ、マリー…………。すまんね。色々あったのだよ」

「ぐぎゃうー」

「あら、ありがと。これお金」


 クロがさっさとマリーにコーヒーを渡し、相手をしてくれる。


「クロって言ったかしら。あなた大分変わったわ」

「ぎゃう?」

「可愛いわね」

「ぐぎゃうぎゃう!」


 何故かマリーがクロを気に入った模様。

 思い出したようにぴんくも出てきて、クロの頭で可愛いアピールしている。

 お前は何と戦ってるんだよ。


「あなたも可愛いわ」

「ところでマリー。これお土産兼新商品。オレンジとミルクのチョコレート。感想また聞かせて」


 若干不機嫌そうだったマリーの顔が、コーヒーを飲み、チョコレートを食べ、お土産を貰ったことで、段階的に緩んでいき、最終的にご機嫌になった。


「ああ…………おいし。ボナスあなた色々ずるいわね」

「ええー…………」

「こんなおいしいものを独占的に売ってるし、こんな可愛い子たちをはべらせているし」

「いやぁ別にはべらせているわけでは…………」


 どうしろと。

 よっぽどチョコレート我慢してたんだろうか、やたら絡んでくるな。


「ただいまボナス。こんにちはマリー」

「えっ?」

「おかえりシロ」

「ええ? あれ? あなた…………あれ?」

「私だよ。ボナスを紹介してくれてありがとう」


 シロが帰ってきた。

 マリーが珍しく、混乱して面白いことになっている。

 でもなぜに、剣に手を添えているのかね。


「鬼だよ。今はボナスにシロって名前をもらった」

「ああ…………あなた女だったのね。そう…………あなた…………綺麗ね」

「うふふっ」


 マリーがポカンとして剣から手を放しシロをぼんやり見つめている。


「ボナス、私からもマリーに感謝したい」

「うん? チョコなら多めに渡しておいたぞ?」

「マリーと一緒に飲みに行きたい」

「お、おう」


 昨日の醜態がフラッシュバックする。

 マリーの前にあの姿をさらすのは勘弁してほしいところだが…………。


「いいわね。それ……、とてもいいわ!」

「いいよね。ボナス?」

「ぐぎゃうぎゃう!」

「もちろんいいよ!」


 マリーが完全に乗り気になっている。

 こんなの断りようがないだろ。

 だが、せめて日程だけは先延ばしたい…………。


「3日後どう?」

「じ、じゃあそれで」

「夕方迎えに来るわ」

「ばいばい」

「ぎゃうー」

「ぴんく、クロ、シロまたね」


 あ、あれ? 俺は……?

 マリーのキャラクターがどんどん掴めなくなっていくな。

 基本的に可愛いものと綺麗なものと甘いものが好きなことだけは分かった。

 クールな奴かと思っていたが、意外と乙女だな…………。


「そういやボナス。ハジムラドが明日も欲しいって」

「わかった。シロお使いありがと」

「うん。結構気にいったみたいだよ。珍しく顔がゆるんでた」

「へぇ~見たかったなそれ」


 その後も中々盛況だった。

 かなり在庫を用意していたが、このままのペースだと10日持たないかもしれない。

 15日分は持ってきたつもりだったんだけどな…………。



 

 そろそろ今日は切り上げようかと思っていた時、ギゼラがやってきた。


「あーっと、ボナス。まだ仕事中だよね? ここで待っててもいいかな?」

「ああ、ちょうど終わるところだよ」


 なんかえらくモジモジしているな。

 こういう時体がでかいと、なんとも言えない気分になるな…………。


「なんかギゼラ可愛いね」

「ちょっとシロやめてよー!」


 鬼同士キャッキャしだした。

 ギゼラがシロの背中をポカポカ叩いているけど、あれ俺が食らったら一発で骨折れそうだわ。

 見ないようにして粛々と露店を片付ける。

 細かい部分は、クロとシロに任せて、ギゼラに向き直る。


「おまたせー」

「それでボナス。私あれからずっと考えたんだけど、やっぱり仲間に加わりたいんだ」

「うん」

「だけどさ、私はまだシロたちみたいに信頼関係を築けていないからさ、良いこと考えたんだ」

「うん?」

「私とボナスで子供を作ればいいんじゃないかな?」


 あっれ~?

 なんか思ってた話の流れと違うような?

 いやいやいやおかしいだろ。


「それはダメ」

「なんでよー! シロ!」

「なんか嫌」


 なんか勝手に盛り上がっているな。

 いやそんな悠長なことを考えている場合じゃない。

 これは、早く軌道修正しないと、絶対面倒くさいことになりそうだ。


「いやまぁ…………。俺もあれから考えてみたんだけど、よくまとまらなかった。でも結果的にはギゼラが望むなら俺も是非仲間になってほしいと思ったよ」

「え? ほんと? やったー!」

「よかったね」


 シロがギゼラをよしよししている。

 ギゼラを仲間に迎えるのはシロにとっても良いだろう。

 なんだかんだ言って、ギゼラと話しているときだけは、ちょっといたずらっぽい面が見える。

 やっぱり、同郷の女友達は気兼ねなく接することが出来て楽しいんだろうな。


「ぐぎゃう~」

「うわーボナスがまた美人捕まえたよ。パッとしないくせにやるわね~」


 いつのまにかクロとメラニーが並んでコーヒー飲みながらこちらを見物している。

 こいつら謎に仲いいな。

 後パッとしないとかいうなよ。

 …………もうちょっといい服買おう。


「じゃあ今日の所は解散して帰るか~」

「あっちょっとまって、せっかくだから私の家泊れば? そんなに広くはないけど、多分みんな寝られると思うよ」

「いいのか? まぁもう変に遠慮しても仕方ないか。じゃあそうしよっか」

「ぐぎゃうー!」

「お腹すいた」

「んじゃメラニーまた明日なー」

「またねー」


 そうして、俺に新しい仲間ができることとなった。


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