第39話 メッ
それから俺はアジトのことについて一通りのことを話した。
「やっぱり地獄の鍋に住んでいたんだね。まぁぴんく見てからそうかもなぁって、思っていたんだけどね」
「どういうこと?」
「私たちの集落って地獄の鍋のすぐ東にあるタミル山脈のふもとにあるんだ。それで集落では成人になると10人くらいでチームを組んで、地獄の鍋でなるべく弱そうなキダナケモに挑戦するんだよね」
「倒せた鬼たちは英雄になるの」
「そうそう、まぁ集落で偉そうにするだけなんだけどね。でもまぁそういうわけで、私たちは結構キダナケモとは身近に接しているんだ。だからその気配というか存在感で何となくわかるんだ」
「そういうことだったのか」
「うふふふ」
ぴんくがシロの首筋を尻尾でくすぐっている。
なにしてんだこいつ…………。
それにしても…………こいつもキダナケモと同種ってことか。
まぁ明確な定義があるのかもよくわからんしな。
「あ、そうだ。ちょっとまってて」
「うん?」
そう言うとギゼラは工房の方へ行き何かゴソゴソしてから戻ってきた。
「はい、これあげる」
硬貨がパンパンに詰まった袋を渡される。
重すぎて持てない。
「こ、これどうすりゃいいんだ?」
「好きに使って。今まで貯めたお金」
いきなり全財産渡すとか……こいつもシロと同じ感じか。
しかし結構溜め込んだな。
明らかに俺より金持っている。
それにしても、こいつらはほんとに一度身内だと思うと、一気に距離感ゼロで、警戒感完全に無くなるな。
鬼としてはそれが普通なんだろうが、人間相手だとトラブルの元だな。
どんなに仲のいい相手でも、適度な距離感を保つことは、長く付き合う上で重要だぞと言ってやりたいが、今更意味ないか……。
「わかったよ。金はみんなのために有効に使わせてもらう。でも今は一旦預かっておいてくれないか?」
「うん、じゃあ工房にまた置いとくねっ! 私はこれからちょっとボナスの武器をなんとかするよ」
「えっ」
「実はずっと気になってたんだよね。その木のこん棒、そんなの持ってたらなめられるだけだよ」
「ええっ」
「まだ手ぶらの方が良いと思う」
「まじかぁ」
「そういうのは外部の人間だと指摘するのはマナー違反だからね」
ショックだ。
今までみんなに、こいつこん棒なんか持ってるぞ、うわーあいつだっせーまじ弱そうとか思われ続けていたのか。
「んでも今からって厳しくない?」
「いや、軽い簡単な奴作るから直ぐだよ。ベースになるのはあるしね」
「俺も横で見ててもいい?」
「うん。いいよー」
ということで、鍛冶場にきて見学中なんだが、とにかく熱い。
ギゼラは小さな杖のような武器を作ってくれるようだ。
鍛冶をしている時の彼女は普段とは全く違う。
完全に無表情になり、一心に槌を振るう。
大量の汗をかきながらも、表情の無い美しい顔が火に照らされ揺れる様子は、なんだか神々しいものを感じさせる。
それにしても、普段は言動からあまりぴんと来ないが、こうしてみると女神のような美しさがある。
これだけの美人なんだから、普通は人がたくさん寄ってきそうなものだが。
むしろそのせいで、変なのがいっぱい寄ってきたのか。
それにしても、鬼族はみんな美形なのかな。
であれば一度くらい集落に行ってみたいもんだ。
「できたよ。軽さ重視のスタッフだね。見る人が見ればいいものだとわかるよ。これで、簡単にはなめられないはず」
見た目のサイズ感は普通の杖だ。
先端はそこまで尖っていないが、突き刺すこともできるだろう。
剛強でありながら、繊細な意匠性もあり、素人目にも中々美しい。
グリップ感も素晴らしい。
ああ……これに比べると、こん棒とかまじでサルが持つものだわ。
買ったら相当高そうだ。
「ありがとうギゼラ。大切にするよ」
「あはははっ。どんどん使いつぶしていいよ。いつでも作り直したげる。だいぶ汗かいちゃった。体拭こうっと」
クロが既にお湯と手ぬぐいを用意してくれていた。
ありがたい。
「あははははっ。くすぐったいよーあははははっ」
「ぐぎゃう!」
手入れ好きのクロが早速ギゼラの体を拭きだしたようだ。
そう思って、振り向くとシロが手ぬぐいを持ってこちらを見ている。
「……大丈夫! 俺は自分で完ぺきに拭けるよ!?」
「てつだってあげる」
――――またシロにおもちゃにされてしまった。
尊厳は破壊されたが、やさしく丁寧に拭いてくれたおかげで普通にさっぱりした。
こういうのに徐々に慣れていく自分が怖い。
「それじゃ、みんなおやすみー」
「ぐぎゃう~」
「おやすみ」
「あっ、ボナス子供作る?」
「メッ」
まぁそんなわけもなく。
シロとクロの間でがっちりガードされて平和に寝ましたとさ。
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