第18話 再び街へ

 三角岩へ到着。

 まずは予定通り。

 無事メナス達と会うこともできた。

 いつも通り商品の売り買いをさせてもらう。

 その後、街から三角岩への移動について相談した。


「メナス、毎度ありがとう。今回は話した通り、もしかしたら頼らせてもらうかもしれない。借りばかり増えて、大したお返しもできていないのに、申し訳ない」

「いえいえ、その程度のこと気にしなくていいですよ。いつでも頼ってくださいね」

「ねえボナス!…………その連れてるのは何? ローブからすんごい毛がはみ出てるんだけど?」


 エッダがどうしても気になる様子で割り込んできた。

 そりゃ気になるよな。


「エッダが言った通り、成長したわ。……小鬼」

「成長………………まじで? うそでしょ?」

「私も気になっていたのですが、それは前にお引渡しした小鬼ですか?」

「ぎゃう? ぎゃっぎゃ~」


 やはりメナスも気になっていたようだ。

 ……キャラバンの他の面子まで集まってきたな。

 やっぱみんな気になってたのね。


「そうなんだよ。なんか数日前、朝起きたらこんな感じになっていてね」

「ぎゃうぎゃうぐぎゃーぎゃ! ぐぎゃ!」

「わしも長いこと旅しとるが、こんな小鬼は初めて見たな」

「ジェダも見たことないのか」

「うーん、小鬼は相当色々なタイプいるからのぉ。個体差と言えば個体差なのかもしれんが…………いや、やっぱり変わっとるわ」

「何かきっかけになるようなことはあったのですか?」


 メナスにどこまで説明するか悩む。

 今回街の外で襲われたことについて、言っていいものやら。

 普通に3人死んでるからな……。

 まあぴんくの所だけぼかして全て話してしまおう。


「実は………………」


 簡単に先日襲われた話をした。

 メナスは俺が襲われたことも、それを撃退したことも特に驚きはしなかった。

 ここでは人の命は想像以上に軽いようだ。

 しかし、クロが襲撃者を撃退したことには心底驚いていた。

 それはメナスの常識ではありえないことらしい。

 まず自発的に襲撃者を撃退しようとしたこと自体ありえないことのようだ。

 加えて、実際に撃退できてしまったことも驚きらしい。

 一般に単体の小鬼は、子供でも倒せてしまうくらい弱いのが常識で、それがチンピラとは言え、大人2人を殺してしまうのはまったく異常なことのようだ。


「もはやあたりと言って喜んでいいのかもよくわかりませんね…………。商売がら多くの小鬼を見てきました。ですが、このようなケースは初めて見ました。何が起こるかわかりませんので、念のため暫くはよく観察しておいてくださいね」

「わかったよメナスさん。でも俺としてはクロを譲ってくれて本当に良かったと感謝しているよ。当たりという言葉じゃ足りないくらいのいいやつだったよ」

「ぎゃっぎゃっぎゃ!」

「そう言っていただけて何よりです」

「実際メナスさんに間接的に命を救われたようなものだよ」


 今日中に街へ着くならば、そろそろここを出なければならない。

 別にここに泊まってもいいが、予定してた要件はこなせた。

 もう出発してしまうか。


「んじゃ、そろそろ行くよ。今日中にサヴォイアまで行っちゃいたいんだ」

「それではまた後日お会いしましょう」

「それじゃ、またね!」


 他の連中にも挨拶し、街へ向かう。

 メナス達は明日からタミル帝国へ行くようだ。


「それじゃサヴォイアへ行くか」

「ぐぎゃー!」





 思いがけず、関所で一瞬険悪な空気になってしまった。

 クロが小鬼だと理解してもらうのに手間取ったのだ。

 モサモサの髪の毛をかき分けて角を見せても、本物かと疑われてしまった。

 結局ギザギザの歯を見せることで何とか納得してもらった。

 街に入るたび、毎回こんなことがあるのかと思うと、さすがに面倒だ。

 下手にトラブルになるくらいなら、もういっそ人として税金を払った方が良いかもしれない。

 それなら文句も言われないだろう。


 さて、まずは宿探しだな。

 条件は3つ。

 安全に荷物を預けられること。

 火を使える調理場があること。

 1泊5000レイ以下で泊まれることだな。

 体力のあるうちに頑張らねば……。


 なるべくミシャール市場の近くから探していこう。

 この辺は比較的治安が良い。

 職人通りにいい店があると、安くて安全に泊まれるのだが…………。



 ダメだ……見つけられん。

 そもそも安宿は看板もろくに出していないので見つけにくい。

 普通の宿でさえ看板に統一感が無くて、酒場なのか宿屋なのかも良くわからない。

 もうその辺の職人に聞いたほうが早いな。


「そこのお兄さん! ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど…………いいかな?」

「あん?」


 なんか俺怪しい客引きみたいだな……。

 中々誰も相手にしてくれない。

 都会は厳しいよ。

 

「忙しいところ本当に申し訳ない!この辺で良い木賃宿は無いかな? 実はさっきからずっと泊まるところが見つからなくて……」

「うん? 宿か…………あ~う~んそうだなぁ…………まあ、安いとこならあるよ」


 5人ほど話しかけやすそうな男を見つけて、声をかけたが雑に追い払われた。

 なので、6人目には敢えて190㎝くらいある、目つきの鋭い職人に声をかけてみると、やっとまともに答えてもらえた。

 見た目は怖いが、人が良さそうだ。


「それは助かる!」

「そこだよ、その赤い扉の建物。そこが宿屋だ」

「ありがとう! 俺ボナスって言うんだけど、明日から市場で店やるんで、良かったら寄ってくれ!サービスするよ!」

「へ~、何売るんだ?」

「ちょっと変わった飲み物と菓子だ」

「そうか。サービスしてくれるなら寄ってみるよ」

「ありがとう!よろしく!」

「ああ。んじゃな」


 そう言い残すと、でかい職人はさっさと歩いて行った。

 ぶっきらぼうだが、なんだかんだで周りに可愛がられるタイプだな。

 

 

 とりあえず赤い扉の前まで行き、外から様子をうかがってみる。

 窓がほとんどないので、中の様子はまるでわからない。

 まあ、入ってみるか。

 赤い扉を押して中へ入る。


「いらっしゃい」

「いらっしゃい」


 なんか顔の同じ婆さんが2人並んで同じ挨拶してきた。

 それぞれ赤と緑の服を着ているが、それ以外は違いが判らん。


「こんにちは、ここって宿だよね?」

「ああそうだよ。泊ってくかね?」

「1泊3500レイだよ」

「料理は出ないよ。薪は有料だけど、奥に調理場がある」

「1束100レイだよ」

「うちの部屋は清潔だよ」


 赤と緑の婆さんが交互に情報を小出しにしてくる。

 何らかの心理実験でもさせられているような気分になる。


「それはいいね。荷物を預かってもらうこともできるかな?」

「ああ。もちろん荷物を預かることもできるよ」

「泊まるならね」

「泊まらなくても有料なら預かるよ」

「それなら泊まろうかな」


 赤い婆さんがカウンターの下からゴソゴソ帳面を出してきた。

 表紙が真っ黒だ。

 なんだ名前を書かれるとよくないことが起きそうなノートだな。


「それじゃ、お客さんとお連れさん、名前教えてもらえるかい」

「あ、ああ。俺はボナス。それで…………実はこいつ小鬼なんだけど」

「ええ?そいつが小鬼だって?」

「そんな小鬼見たことないね」

「本当に小鬼なんだろうかね?」

「まぁ変わってるけどほら頭に角もあるでしょ。あと…………クロ、口開けてみ」

「ぐぎゃあー」


 クロがパカッと口を開けると同時に、何故か目玉をくるんっと上を向く。

 白目になって怖いのでやめてほしい。


「あれまぁ。こりゃ確かに」

「こりゃあ、変な小鬼だねぇ」

「まあ、同じ部屋を使うなら一人分で良いよ」

「助かるよ。それじゃ………………これ3500レイ」

「はいどうも! 木札と同じ絵が描いた部屋を使っとくれ」


 男性器のシルエットが掘られた木札を渡された。

 大丈夫かこの宿……一気に不安になってきた。

 もしかすると、この世界には何か神聖な意味がある形なのかもしれない。

 深く考えないようにしよう。


「ごゆっくり!二階に上がってすぐの部屋だよ」

「ごゆっくり!右手の部屋だよ」

「どうもよろしくー」

「ぐぎゃぎゃぎゃぐぎゃー」



 宿の良し悪しはまだよくわからんが、条件に見合う部屋を見つけられただけ上出来だ。


 まずは部屋と調理場を確認する。

 部屋は4畳半くらいの広さに木のベッドと机、椅子がある。

 荷物を置いたら身動き取れないけど、まあ必要十分だろう。

 調理場は中庭にあった。

 中庭に面して庇をかけたところに竈がいくつか並んでいる。

 井戸もあり、水も使えそうだ。

 これは予想以上に良いな。

 アジトより料理しやすいかもしれない。



 宿の確認はここまでにして、荷物を預け急いで出かける。

 明日店を出すのであれば、今日中に木工所と傭兵斡旋所に行かねば。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る