第19話 木工所と斡旋所

 まずはクロを連れて木工所へ向かう。


「こんにちは! 皿とコップと出来ているかな?」

「あ!? 誰だお前!? ああ~おまえか! 出来てるぞ!」


 親方が何か作業しながら答える。

 相変わらず声がでかい。

 奥から別の職人が木箱を運んできた。


「おおっ! いいじゃないか! なんだか思っていたよりずっといい感じだわ」

「結局漆塗ってもらったわ! いいだろ! 5000レイな!」


 かなりいい出来だ。

 漆が良い艶を出している。

 透けて見える木目も美しい。

 これは気に入った。

 これで20セット10000レイは安すぎだろ。

 大丈夫かこの親方。


「はい、これ残りの5000レイ。どうもありがとう。これはいいわ。本当に気に入ったよ」

「そうか!」

「俺はボナスって言うんだ。明日からミシャール市場で店やるんで、良かったら寄ってくれ。飲み物とお菓子を売るんだが、一杯おごるから」

「菓子って甘いやつか? いいな! 今度寄るわ!」

「それじゃクロ、木箱もってくれ」

「ぐぎゃあ」


 俺の後ろでキョロキョロ工房を眺めていたクロが、ひょこひょこ木箱に近寄る。

 職人達はクロが木箱を持ちあげるのを不思議そうに見ている。


「…………なあボナス。こいつは一体何なんだ?」

「小鬼だぞ」

「はぁ? 小鬼だって!? そんなことあるのか…………うちの小鬼とだいぶ違うぞ?」


 まあ大きさも雰囲気、動き方も大分違うからな。

 木工所の小鬼は完全に目が死んでいて、あまり意思を感じない。

 今まで見てきた限り、特にこの工房の小鬼が珍しいわけでは無い。

 むしろそれが普通で、クロが特別変なのだろう。


「俺もあんまり知らないけど、変わった種類の小鬼らしい」

「面白い髪形だな!」

「ぐぎゃっぎゃっぎゃ!」

「はっはっはっは! こいつ面白いな!」

「愉快な奴だろ? それじゃ親方、またよろしく!」

「わかった! じゃあな!」



 次は傭兵斡旋所か……緊張するな。

 場所は大広場に面する一等地。

 流石傭兵の街だな。

 建物周囲の治安は決して悪くない。

 だが、やはり暴力の気配を感じる。

 本格的な武器や防具を身に着けた人々が斡旋所を慌ただしく出入りしている。

 仕事帰りだろうと思われる傭兵が、モンスターの収集品や縄に繋がれた小鬼などを持ち込んでいるのも見える。

 俺自身のことは誰も見ていないが、クロをチラチラ見てくる人がたまにいる。

 目の前の様子に何となく腰が引けるが、そうも言っていられないよな。


 「ぐぎゃあ?」

 

 クロがくっついてきて、こちらを見上げる。

 俺が不安なのを察知したのかな?

 可愛い奴め。

 少し気が楽になった。

 これ以上怖がっていても仕方がないと、あえて何も考えず中へ入る。


 入ってみると、予想以上に中は広い。

 大きなホールになっており、銀行の窓口のように、受付が複数並んでいる。

 それぞれ役割が違うのかは分からないが、並んでいる受付もあれば暇そうな受付もある。

 傭兵が多い並ぶ場所には何となく近寄り難い。

 一番暇そうにしている、不機嫌そうな髭面男の受付のところに行く。


 

「初めてここを利用するので教えてほしいんだけど、特定の傭兵に伝言を頼むことはできるかな?それと傭兵に仕事を依頼するにはどうすればいいのかな?」


「伝言か。字は書けるのか?」

「いや全くかけない」

「じゃあちょっと待っとけ」


 ごそごそ後ろの方でやっているかと思ったら、台帳のようなものを持ってきた。

 そういやこれって無料でやってくれんのかな……。


「じゃあ、おまえさんの名前と相手の名前、伝言内容を順番に言っていけ」

「俺の名前はボナス。相手の名前はマリー・ボアロ。伝言内容は……露店を明日から3日間出すのでよろしく」


 マリーの名前が出た瞬間、髭面男の表情が一瞬動いた。

 やはり結構な有名人のようだ。


「お前……マリーと知り合いなのか?」

「ああ、まぁつい最近たまたまね。有名人なのかな?」

「サヴォイアの傭兵であいつを知らない奴はいない」

「やっぱりそうなんだな。ところで、伝言は無料で受けてくれるのかな?」

「ああ、基本は無料だ。……後は仕事の依頼か?」

「そうそう。さっき伝言の内容の通り、明日から露店を出す予定なんだが、午後から宿に戻るまでの護衛を頼もうかと考えている。……こういう場合どう依頼すればいい?」

「そうだな。何を重視するかによって変わる。本気の護衛か、店番程度か、それとも店の手伝いか、何を一番に考えるかだな。」


 この髭面男、愛想は全く無いが、何かと的確に対応してくれそな気がする。

 人が並んでいなかったのは少し不安だが、結構優秀なのかもしれない。

 よく見ると服は上等なものだし、意外と小綺麗だ。

 長く伸ばした髭もよく手入れされている。

 左手の人差し指と中指に、でかい指輪をしており、人の話を聞きながら指輪を触るのが癖のようだ。

 場所もいいし、ここは給料が良いのかな。


「小さな露店なんだ。わずかな儲けを奪うにはリスクがある、と思われる程度で十分なんだ」

「まぁそれならどの傭兵雇っても問題ない。半日仕事で最低限の金額を提示すればいいだろう。明日からでいいのか?」

「ああ、明日から頼みたい。いくらかかるかな?」

「特に選り好みしなけりゃ、そうだなぁ……半日5000レイで依頼するのが良いだろう」


 相場はわからんが、払える金額だ。

 とはいえこの金額では、それなりに売り上げなければ、まともな利益は出せないな。

 まぁ今回は様子見の安全第一だ。

 細かな金額と採算性については次回の課題ということにしよう。


「それじゃその金額で頼むよ」

「じゃあ5000レイ先払いで、明日の正午に仲介する。このカウンターへ来ることはできるか?」

「市場に直接来てもらうことはできないかな?」

「できんでもない。だがトラブルになることもある。そうなると面倒だぞ」

「ああ……想像がつくな。わかったよ。明日正午に来る」

「それじゃ伝言と斡旋の件承った。またのご利用を」

「ああよろしく」


 結局窓口の違い、聞き忘れたな。

 愛想は無いが、別に対応は悪くなかったけどな。

 よくわからんな。

 まあ目標は達成したし早く宿に戻ろう。

 疲れてきて集中力が無くなってきている。

 こんな状況で厄介ごとに巻き込まれたらまずい。

 

「あ~疲れた。明日から頑張ろうなー」

「ぐぎゃう~!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る