第35話 仲間

 詳しく話を聞いた感じ、どうもギゼラは今の生活がいい加減嫌になったらしい。

 元々鬼族は、帰属意識がとても強いようだ。

 集落を出たとはいえ、ギゼラも例にもれず、何らかのコミュニティを強く求めていたらしい。

 そういうわけで、サヴォイアに来た当初は色々と人間関係を作ろうと頑張ったようだ。

 だがその結果、騙されたり襲われたりと、ろくなことが無く、そのうち他人と深くかかわるのはやめてしまったらしい。

 他人とはあまり関わらず、鍛冶の技術を磨くことのみに閉じこもってしまった。

 当初は相当苦労したようだ。

 街の鍛冶師は鬼を恐れて誰も働かせてくれず、鋼を買う金も無い。

 仕方なく、その辺で鉄くずを拾い集め、何とか粗悪品を作るところから始めたらしい。

 まともな設備すら無い中、鬼の頑強な体と剛力、再生能力があったからこそ、なんとか乗り切れたようなものだ。

 普通なら1月でのたれ死んでいただろう。

 そうして6年間ただひたすらに鍛冶に打ち込み、今では一端の鍛冶師として、鈍器を愛用する傭兵には名の知られた存在となった。

 そうして生活にも余裕が出てきたころ、改めて孤独な自分に心細さを感じ始めたらしい。

 とはいえ、いまさら習慣付いた生活を変えるのは難しいものだ。

 孤独に耐えつつも、ただひたすら鉄を叩き、出来たものを売るだけの生活を繰り返した。

 結果今に至り、いくら鍛冶仕事を愛していると言っても、もうこれ以上はたった一人で生活をすることに耐えられなくなっていたようだ。

 そんなときに仲間たちと幸せそうなシロを見て、もう我慢できなくなったらしい。


「なるほどなぁ、俺もサヴォイアでは何度も殺されそうになったりしたからなぁ」

「ギゼラ…………」

「でも一番きつかったのは、そんなときに街にいる鬼の男どもが何もしてくれないどころか、襲い掛かってきたりしたことだね」

「あいつら何なんだろうね」

「だから、そんな中シロが集落から出てきたのを知って嬉しかったんだ~」

「私は……おなかが減りすぎて、何もしてあげられなかったけど……」

「シロは意外と分かりにくいんだよ。あの時困ってるって言ってくれればいくらでも助けられたのにー。難しい顔で頑張るしか言わないからさー」

「確かに最初シロに合った時、すごく険しい顔してたよな」

「えへへ」

「そういや俺、まだ鬼男を見たことないんだけど、街に結構いるの?」

「数は少ないけど、結構いるよ。ほぼ街の外でモンスター狩ってるとは思うけど。あいつら馬鹿だから、戦うことしか頭にないんだ~」


 中々根深いなぁ。

 閉じた集落では、それぞれの気質がかみ合って社会的にうまく機能していたのだろう。

 ところが、街に来るとお互いの気質が悪い方向に働いてかみ合わなくなくなったんだろう。

 まぁシロは集落にいたころから、男鬼の粗野で暴力的な振る舞いが嫌いだったらしいが。

 俺からすると戦闘中のこいつこそが暴力の化身のように見えるけどな……。


「仲間の話にもどるけど、最終的な回答は明日にしようと思う。今酔ってるからね」

「うん」

「ぎゃうぎゃう! ぐぎゃあ?」


 踊りまくっていたクロが、何か俺たちの雰囲気が変わったことを察知してか、戻ってきた。

 なんか客からも店員からもすごい拍手されて、手を振ってこたえている…………。

 ギゼラを仲間に加えることについては、クロの意見も聞かなければ。

 俺が今こうしていられるのは間違いなくこいつのおかげでもあるしな。

 あとこいつ勘が良いし。


「ただ、前々からシロにはよくしていてくれたみたいだし、クロとシロが良いと思うなら、俺はギゼラが仲間に加わるのは良いと思う。鍛冶屋が仲間になるのは心強いしね」

「私はいいとおもう。そのほうがボナスも死ににくくなる」

「ぐぎゃあ?ぎゃうーぐぎゃう!」


 まあ反対は無さそうだ。

 だが一応釘を刺しておこう。


「ただし、仲間になるのは良いと思っているんだけど、すぐに抜けられると困るんだ」

「うん…………」


 そう、仲間になってもらうのは俺としてもメリットしかない。

 問題となるのは抜けられることだ。


「実は俺たちには色々と秘密にしたいことが多い。そしてそれが外に漏れるのは死活問題なんだ。俺は正直クロやシロ、ぴんくには別に殺されてもいいと思っている。今まで何度も命を救われているし、まぁこいつらのことが好きだしね。だからもう抜けるなとも言うつもりもない。ただ、ギゼラとはまだ今日あったばかりだから、そういうわけにもいかない。いずれそう思えたとしてもね」

「ぐぎゃうぎゃう!」

「ボナス~!」

「シロっ、つ、つぶれるっ、つぶれちゃうって! 中身が出ちゃうっ――」


 シロが俺を抱きしめる力が強くなる。

 圧搾されてボナスジュースが出るところだった。

 こいつ本当に酔うと危ないな。


「まぁ明日とは言わず、しばらくこの街にいるから、その間に言ってくれればいいよ」

「いいなぁ…………。分かったよ。もっかいちゃんと考えてみるね」


 ギゼラは俺たちをじっと見つめると最後にそう言った。




 その日は、フラフラする俺を、シロとクロが支えつつ、3人でわちゃわちゃしながら帰った。

 久しぶりに酒を飲むのも悪くないな。

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