SS 「あのひと」
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだよ、あかり、じゃなくてシャリ」
言い間違えたら、妹が一瞬にして不機嫌になった。
「なんでそこ間違えるのかな、おにいちゃん」
「いやだって、ずっとあかりって言ってたし、それを言ったら他の人の前ではあかりって呼ばないとおかしいだろ」
「おにいちゃんの妹は誰ですか?」
「シャリ……だよ」
「他には?」
「……いません」
「まあいいでしょう」
シャリの不機嫌がちょっと直った。シャリってそういうキャラだっけ?
「ところで、おにいちゃんに質問があります」
「なんだい、シャリ」
ここで先手を打って妹の頭を撫でる。妹はちょっと目を細める。
「おにいちゃんも分かってきたね」
「そりゃ、おにいちゃんだから」
「それじゃ聞くけど」
頭を撫でられながら、妹が僕の目を見る。
「おにいちゃん、本当はメイちゃんのこと好きだったでしょ」
「ぶへ」
妹の頭を撫でる手が止まる。
「やっぱりそうだったんだ」
「えー」
新たな冤罪が発生した。
「なんでそう思うんだよ」
「だっておにいちゃんがシャリやあかりおねえちゃんにキスする時ってなんか家族への挨拶の延長っていう感じだったけど、メイちゃんの時だけ照れてたもん」
「じゃあ王女は?」
「なんか義務的だった」
「えーと」
考えてみる。
「だって、シャリやあかりは妹なんだから実際のところ家族じゃない?」
「さっき妹はシャリだけだって」
「話がねじれてない?」
「やっぱり怪しいと思ってたのよ」
「そんな転生前の異世界の話されても……メイはもうここにはいないんだしさあ」
「それなんだけどね、おにいちゃん」
シャリが首をかしげる。
「中国に言ったらメイちゃんいるんだよね」
「えー、どうなんだろうな」
「ちょっと検索してみる」
妹がスマホでtiktokを見始めた。
「メイっていっぱいいる」
「だろうね」
っていうか、向こうの記憶もないだろうしメイって名前じゃないかもしれないし。少なくともカタカナのメイじゃないよ。
・・
「フィン……」
え?
翌朝、目が覚めると黒髪の女の子に抱きつかれていた。顔はよく見えないけどメガネをかけている。
「誰?」
「私ですよ」
「……」
女の子の頭に手を伸ばして黒髪のウィッグを外す。ついでにメガネも外す。
「なにやってんだよシャリ」
「さすがは、おにいちゃんですね」
「わかるに決まってるだろ」
メイはもっと抱いた感触がぷにっと柔らかい感じだから、と言おうと思ってやめた。
「メイちゃんに会いたいのならシャリがかなえてあげようかと思って」
「朝からなにやってんだか」
シャリの頭をポンポンとする。
「でもメイちゃんには会いたいでしょ」
「まあ、そうだな。メイにも会いたいし、あかりもどこにいるんだか……」
「あかりおねえちゃんはそのうち会えるよ。こっちにはいるんだから」
「そのはずだけど……」
本来ならあかりが妹のはずだったんだけど、シャリが入ってきたために世界が変わってしまったのかもしれない。あかりも、それにメイも、また会える時が来るんだろうか。
「おにいちゃん、朝ご飯にしよう」
「うん」
◇
「やっぱりそうか……」
実験結果を前に、白衣にメガネの少女は考え込んでいる。
精密な測定の結果、分かったことは二つ。
この世界では長さに最低単位があった。ある一定の微細な長さより短い長さを測ることができないのだ。もちろん原子よりもはるかに小さい長さではあるが、それはあたかも液晶画面を拡大したような微細構造が世界にあるかのよう。
そしてもう一つ、この世界は時間にも最低単位がある。ある微細な時間より短い時間が存在していない。つまりこの世界は離散的に時間が流れている。
ここから分かることは、この世界は計算機の中だということ。ちょうど巨大なマインクラフトのようなものだ。だとすれば……
この世界が計算機の中であるならば、脆弱性を突いて他の世界に行くこともできるかもしれない。
「待っててね。フィン」
――
おしまい
挿絵は黒髪でメガネの妹
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654722545145
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます