67 盗賊団
さてこの最初の町ともお別れだ。ここからは毎日移動。最初のうちは村もあるし野営はしないで済むらしいが途中に山越えがあるとのこと。僕らはこの道を二週間ほど二人組と一緒に旅をする。
この辺まで来ると道をすれ違う人が居て、最初ちょっと驚いた。僕らの村のほうだと道を歩いていても人に出合わなかったのだ。あそこは本当に辺境だったらしい。むしろよく今まで人が住んでたな。
「このあたりはゴブリンとか出ないんですか?」
「道からよっぽど外れなきゃないな。たまに山からはぐれた魔物が来るぐらい。代わりに別のめんどくさいのが出るよ」
「何ですか?」
「盗賊だよ」
人間と戦うというのはあんまり想定していなかった。
・・
「たまにって言ってませんでした?」
「空は繋がってるんだからしょうがないだろ!」
僕たちは空から襲撃を受けていた。大きな鳥のような何かが馬を狙っている。一度追い払ったのだが、空を飛んでついてきている。
「あれはグリフォンね」
あかりがのんきに言う。
「山から来て時々家畜を襲うのよ」
「なんか熊みたいな物言いだけど、魔物じゃないの?」
「どっちかというと動物ね。食べられるわよ」
「よし。倒そう」
食べられると聞いて即断。移動中の塩漬け肉の食事にも飽きてきたしね。あかりが魔法でやろうかと言うけど僕がやることにした。二人組に僕の力を見せるいい機会だし、ひょっとしたらレベル上がるかもしれない。
グリフォンは速度が速いので、倒すのであればタイミングは一瞬だ。馬を攫いに急降下して来るグリフォンに槍を構える。念のためプロテクションは掛けてもらい、ぎりぎりまで引き付ける。
『3,2,1、縮地!』
次の瞬間、僕は空中でグリフォンに激突した。
あたりに飛び散る羽。僕の目にも星が飛び散る。グリフォンに轢かれて地面に頭から落ちたようだ。
「おにいちゃん大丈夫?」
シャリがやってきてヒールしてくれる。耐久力向上の恩恵もあるし大丈夫かと思ったけどちょっと無謀だったみたい。メイの鎧がグリフォンの衝撃を、プロテクションが落下ダメージを吸収したようなのでそこまでのダメージではないがうっかりすると危なかったよ。
「グリフォンは?」
見回すと馬車の横に大きな鳥のような姿が転がっている。今日の夕食!
肉以外の羽と皮はその場で商人の二人が買ってくれた。なるほどこういうのはお金になるんだね。
「他に売れる魔物は何があるんですか?」
「爬虫類系の皮とかワイバーンの皮は需要がある。ドラゴンがあれば売れるけどめったに出ない」
「なるほど」
「それ以外はまあ珍しけりゃ誰か買うかも。なにせ出回ってる量が少ないから相場があるわけじゃないしな」
冷凍庫があるわけじゃないから肉は腐っちゃうし、売れるのは皮関係になるんだね。
ところでグリフォンを解体してみたら肩の後ろあたりに羽の付け根があるんだけど、この部位は肩ロースなのか手羽元なのか不明。このグリフォン肉だけど獣臭いが味はいい。
余った肉はアイテム化して腐るのか実験することにした。代わりに実体化させたバグベアの酒は馬車に乗せてもらうことに。お礼に商人に飲ませたら気に入ったようなのでこれも買い取ってもらった。
◇
そして僕たちは平地から山地に入ってきた。ここからしばらくは野営が続くのだが……
山地の二日目、前方の路上で倒木が道をふさいでいる。左右は森なので馬車では迂回できなさそう。どかすのも結構大変そうだな、と、思ってたら商人二人組がなにやら話している。
「なんか怪しくないか?」
「そう言ってもここしか道はないから……」
彼らに提案する。
「ちょっと見てきますね」
倒木は直径30cmぐらいあった。どかすには手斧の恩恵を使えばなんとかなりそうだけど一日かかるかも。それよりも。
「誰か見てるわね」
一緒に来たあかりが囁く。
「気が付いた?」
倒木の根元を見ると、斧で切り倒した跡。状況を総合すると。
「これは、待ち伏せ?」
「おにいちゃん!」
シャリの声。振り返ると、シャリとメイと二人の商人を男たちが取り囲んでいる。
「シャリ!」
駆けだそうとしたところに矢が飛んできた。地面に刺さる。
『古典的かつテンプレすぎなのでは感』
もし先にシャリに傷一つでもつけていたらうっかり皆殺しにするところだったけど、うーんどうしよう。あんまり人間とは戦いたくないんだけど。
「ちょっと責任者の人出してもらえますか?」
叫んでみるが返答がない。
山賊の親玉っぽいのが向こうの集団に現れた。商人に向かって何か話しているんだけど聞こえない。どうもこっちは無視されているな。
『縮地!』
あかりと一緒に親玉の背後に移動する。
「だから、金目のものと女を置いて行けと言ってるんだ」
「私の一存ではなんとも……」
商人がのらりくらり。
「だったら殺してもいいんだぞ」
「ねえねえ」親玉の背中をちょんちょんと叩く。
「何か事情でもあるの?」
なんだ?という顔で振り向いた親玉を格闘スキルで締めあげる。
「事情があるのかと聞いてるんだけど」
親玉は何か言いそうだが、首を絞めているのでしゃべれない。
「言いたくないならいいんだけどね」
親玉の首を絞めたままあかりのほうを向く。
「あかり、あの倒木吹き飛ばしちゃってよ」
あかりが呪文の詠唱を開始した。伸ばした手に白い光の粒が集まってくる。そういえば近くでゆっくり見たことなかったな。集まってきた光の粒子は光の球体となって、そして呪文の詠唱が完了。
「マジックボルト!」
エネルギーが太い光の柱となって噴出した。道幅ほどもある光の束は倒木を貫通しそのまま突き抜ける。
『やっぱりビームライフルだな』
親玉のほうを振り返る。
「で、事情があるのか聞いてるんだけど」
あ、首絞めすぎた。親玉以外の盗賊たちはとっくにいなくなっている。
「今に俺の子分達がやって来てお前らなんかゴホゴホ」
盗賊の親玉は咳込みながらしゃべる。
「へー、それって何人いるの?」
「100人はいるぞゴホ」
まあそれはいいや。
「ところでアジトに捕らわれの人はいないの?」
いや、テンプレでしょ。盗賊団に捕らわれの美女とか貴族とか。
「そんなのいないってゴホゴホ首絞めるなゴホ」
本当かな。
「シャリ、聞いてみて」
シャリが親玉の前に立つ。
「私の目を見て…」
100人は嘘で10人ぐらいだった。捕らわれの人がいないのは本当。割とどうでもよくなってきた。一応聞いてみよう。
「で、なんで盗賊なんかやってるの?」
彼が語るには、作物が不作で取れず残りも税金として取り立てられて家族も飢えて死んでしまい仕方なく盗賊になったとのこと。
「全部あのくそみたいな領主が悪いんだ。あいつらは人殺しだ」
盗賊の親玉が罵る。うーん。
「なんでその怒りを領主にぶつけないの?」
「は?」
何を言ってるのかわからない顔。説明が足りなかったかな。
「盗賊団とかやる才覚を社会をよくするために使うとか」
「子供にはわからないこともあるんだよ!」
・・
その夜は山の中で野営となった。盗賊の親玉はぐるぐる巻きにして引き連れたまま。商人に聞いてみたら、どうせ山賊は縛り首だから今やっても一緒と言われたんだけど僕がやるのもねえ。
野営地からちょっと離れた木に親玉を縛り付けておく。
「それじゃ朝また迎えに来るから」
「おにいちゃん、あの人どうするの?」
「あいつがいい奴なら誰かが助けるよ」
僕はシャリにそう言うと野営の準備を始める。念のため野営地の周りには罠スキルでトラップワイヤーを仕掛けておこう。
翌朝、トラップワイヤーは作動していなかった。散歩がてら親玉を見に行く。正直面倒くさいので逃げていて欲しいんだけど。
盗賊の親玉は縛られたまま首を掻き切られていた。子供にはわからないこともあるみたい。
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