66 旅の仲間

 メイの家は王都にある。ここからは歩きだと一か月以上かかる。


「父さん、母さん、行ってきます」

「元気でな!」「元気でね」

ということで僕たち四人は行商人と合流。


 僕らはわりといつもの恰好。メイの恰好も来た時と同じ冒険者風。行商人はおじさんと見習いと護衛の三人組だ。レベルを見ると、3、1、3。そこそこだな。


「おはようございます!」

「おはよう。強いって聞いてたけど随分と若いんだね」

まあそう言われると思ったからあかりに行ってもらったんだけど。


 辺りを見渡すと10mほどのところに手頃な立木があった。腰の手斧を取って、投擲の恩恵を効かせて投げる。


 ドゴン!

 太さ10cmほどもある立木が倒れる。


「若くても大丈夫ですよ」

「いや、失礼」


・・


 行商人の二人は荷馬車に乗り、僕らと護衛の人は話をしながら歩く。最初は変な敬語で話されたので、お願いしてやめてもらった。パフォーマンスが過ぎたかも。加減が難しい。


 護衛の人はいつもこのおじさんに雇われているそうだ。この森は前はゴブリンが多かったけど最近は出てないとのこと。ゴブリン以外はこの辺りでは出たことはないらしい。


 道を行く途中、気配を感じる。小さいサイズ。動物ではない。妖精かな。

テイムを使ってみる。何か見えないものが僕の前に来た気配。

「この辺りにいる魔物を教えて欲しいんだけど」

「魔物ってなに」

「人を襲う妖精」

「ゴブリン?」

「そういうの」

「ゴブリンはあんまりいないよ」

「もっと大きいのはいる?」

「近くにはいないかな」

僕が話している間、あかりが僕のほうをきょろきょろ見ている。


 その晩は野営をすることになった。荷馬車の速度では次の村に届かないのだ。

「毎回この辺で野営するんだよ」

おじさんが言う。ちょっと開けた場所。


 そういえば野営とか初めてだな。いつも日帰りだったし。シャリが食事を作っている。あかりは慣れた様子で辺りを見て回っている。メイはどこか落ち着かない感じ。


 食事の後、僕の耳元でささやき声がした。

「大きいのがいたよ」

「近い?」

「うーんとXXXぐらい」妖精の距離の単位が言語理解で翻訳される。3~4キロぐらいらしい。微妙な距離だな。来たら嫌だけど。


 商人のおじさんを心配させるのもなんだしで、こっそり相談。

「私が行きます」

メイが言い出した。バグベアならメイのレベルなら問題はないはずなんだけど、恐怖症がぶり返さないかはちょっと心配。

 結局あかりが付き添って行くことになった。僕とシャリは野営地で待機する。


「あの子たち二人で森に行って大丈夫なの?」

おじさんに聞かれるけど、レベル6のエルフが森で負ける事なんてない。

「念のための見回りですよ」


・・


 二人は二時間もしないで帰ってきた。

「おかえり」

「うん」

メイはちょっと落ち着いたようすだけど。


 寝る前、メイが僕の後ろにそっとやってきた。

「バグベアを倒したの」

「怖かった?」

「……全然怖くなかった」

「よかったじゃない」

メイは僕の背中からぎゅっと抱きついてきた。

「前はあんなに怖かったはずなのに……変ですよね」



 その後、他の村も経由しながら更に数日後、僕らは最初の町についた。この町は人口数千人ぐらいで壁に囲まれている。森の入り口みたいな町らしく、ここで荷を下ろすとの事。


 ここは町としては小ぶりらしいけどそれでも僕らのいた男爵領全体より人が多い。僕はフィンとして物心がついて以来こんなにたくさんの人を見たことがない。


「おにいちゃん、人がいっぱい」

「はぐれるなよシャリ」

僕らがおたおたしているのにメイとあかりは全然平気そう。僕も日本人だから平気なはずなんだが経験が抜け落ちてるんだよな。


 おじさんたちとはここで別れるが、同じ商人宿に泊まってるので他の商人を紹介してもらう。この世界は人づての紹介の世界だ。冒険者ギルドもないしね。


 王都の方に行く行商人を紹介してもらった。王都の近くまで行けば治安もよくなるだろうからなんとかなるだろう。今度は若い男の二人組の商人。ちなみにレベルは2。


「聞いてたけど本当に子どもばっかりだな」

会うなりまたもや微妙に失礼な発言。

「そう見えても私はエルフですから」

あかりが大人な返答をする。エルフは年齢不詳だ。

「いやでも強いって太鼓判押されたから信頼してるよ。ま、よろしく頼むよ」

もう一人が握手してくる。悪い人たちではなさそう。


・・


 実際のところ旅をするだけなら僕たちだけでも十分強いんだけど情報が欲しかったんだよね。特にモンスターとか盗賊とか貴族とか戦争といった面倒くさい関係の最新情報。


 出発まで時間があったので、町の人を観察する。どのレベルの人がどのぐらいいるのか比率を調べようと思ったのだ。村で見ていた時はざっくりとレベル2が1/3、レベル3が1/10、レベル4は1/100かそれ以下かなと思っていたけど。


 町の人を眺めていて判ったのはやっぱりレベル4は少ない。そしてレベル5はまだ見てない。しかしそんなことより。


『なんか僕のレベルがちょっとずつ上がってる気がする』


 僕は母さんのレベルを上げた時にレベル2の最初になったはずなんだけど、ちょっと増えている。これまでに魔物は倒していないし何かの訓練もしていない。


『そういえば……』

僕が最初にレベルが見える恩恵を獲得して、村中の人のレベルを調べてから自分のレベルを見たら1.3ぐらいあったな。これはひょっとして。

 通りでずっと人のレベルを見て過ごす。集中力が必要なので段々気持ち悪くなってきたけど夕方までやってわかってきた。


「どうやら、僕の恩恵は他人のレベルがわかるだけじゃなくて使うと自分のレベルもちょっとずつ上がるみたいなんだ」

夕方にみんなで集まった時に話しをした。


「ちょっとってどのぐらい?」

「今のところ400人見たら一割ぐらい」

「あと10日やればレベル上がるじゃない」

「ダンジョン行く方が楽なんだけど」

いやでも街中でノーリスク10日で1レベル上がるのチートだよな。

「あかりの鑑定もひょっとしたら一日中やってたらレベル上がるかもよ」


・・


 翌日の夕方。へろへろになったあかりが登場。目の下に隅ができている。

「私、レベルちょっとは上がった?」

見てみるけどわかんないな。

「わかんないや」

「まあレベル6にもなっていまさらそんなことで上がらないわよね」

「僕もそうだろうとは思ってたけど」

「でも検証はしないと」

あかりのバイタリティすごい。


――

メイちゃんが悩んでいる挿絵

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653172962759

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