65 出発の日

「おにいちゃん、レベルアップおめでとうー」

「おめでとう、フィン」

「無礼講だけど、多分今まで何回か飛ばしてるわよね」

「僕はおまけなんで時々やってくれればいいです」



「父さんにも言ったんだけど、僕たちメイを家に送ってくることにしたんだ」

「そう。フィンもシャリももう大人だからね。気をつけてね」

この世界、旅というと数ヶ月単位だ。帰ってくるかどうかもわからない。母さんはちょっと涙ぐんでる。

「それじゃお別れの挨拶の前に、母さんはあったらいいなと思う恩恵ない?」


・・


 母さんの答えはアンチエイジングだった。人類の夢みたいな気もするけど他の恩恵も十分インチキだからアリだろう。

「それじゃエルフ式の挨拶するから欲しい恩恵をしっかり念じててね」

ということで。

レベル接続コンタクト!』『レベル譲渡トランスファー!』

なんか気恥ずかしいぞ。


 母さんは心なしか若返った感じがする。レベルもしっかり3になってるし。あと自動食器洗いのカゴの説明もしておく。母さん大喜び。



 夜。6人でぎゅうぎゅう寝ている。これももう少しで終わりだな。なんかちょっと寂しい。

 シャリの方を向いて頭を撫でていると後ろから抱きつかれた。

『あかり?いや違うな』

背中に当たる胸の感触が違う。あかりはもうちょっと柔らかくてこんなに弾力感ないはず。ということは。

「メイ?」

「そうです」

耳元で囁かれる。

「なんで判ったんですか?」

おっぱいの感触とは言いにくいな。

「メイの匂いがする」

いや、十分気持ち悪い回答な気もする。今更だけど。

「いつもメイのこと気にしてくれてるんですね」

セーフ?


「私もっとフィンやあかりちゃんやシャリさんと冒険したいの」

敬称がみんな違うのが前から気になってたけどとりあえずスルー。

「そうなんだ」

「だからね、私の親の説得に協力して欲しいんですよ」

そう言いながらメイは胸を僕の背中にグリグリと擦りつけてきた。

「えっと、僕に出来ることなら何でも」

「ありがとう!」

メイは僕の耳元で囁きながら手のひらで僕の胸をなぞる。足も絡ませてきた。

「約束だからね」

頬にチュッとキスされる。


(・・ おにいちゃんデレデレし過ぎじゃない? ・・)

シャリ寝てなかったの?

(・・ 明日はシャリの番ですからね ・・)

番ってなに?


・・


 次の夜。シャリの方を向いて寝ていると前からシャリが抱きついてきた。

「うふ、おにーちゃんだ」

僕の胸に顔をスリスリしている。

「こうやって寝るの久しぶり」

「そうだっけ?」

そういえば昔はよくこうやって寝てたな。


 シャリは僕の首に腕を回して体をぎゅっと引き上げると、耳元で囁いてくる。

「シャリもちょっと大きくなったんだよ」

まあ僕もこの一年で身長が伸びたからシャリも大きくなってるかな。

「そうかそうか」

頭を撫で撫でする。


「大きくなったのは背だけじゃないんだよ」

シャリは僕の首に回した腕に力を込めると、胸を僕の胸にスリスリする。

『えっと、なんか柔らかい……けど大きくなったのかな』

「そうかそうか」

とりあえず頭を撫でておく。


 シャリはちょっとムッとした顔をすると、いきなり僕にキスしてきた。

(・・ いま適当に流したでしょ ・・)

「ねえフィン」

後ろから背中に当たる感触。これはメイだな。わかる様になってきたぞ。


「私たちいつ出発するんですか?」


 そうだよね。



「きょうだい会議を開催します!」


 朝方。納屋に集合。

「いつ出発しようか?」


「お兄ちゃんレベル2よね」

「レベル3にするならあと何回かダンジョン行けばだけど」

「そんなことしてたら、また何か起きて永遠に出発できなくなるわね」

「ほら指輪だって旅に出るまで二巻ぐらいかかるじゃない」

「あれは全六巻だからよ」


「シャリはおにいちゃんと一緒ならいつでもいいよ」

「私もいつでもいいです」

「これだと決まらないな」

こういう時は前例に頼ろう。


「ラノベだと冒険者ギルドに行って護衛のクエスト探すよね」

「この世界冒険者ギルドはないけど」

あかりが考えて言う。

「行商人を探しましょう」


 村で聞き込みをした結果、3日後に出発する行商人がいるらしい。あかりが会って話を付けてきた。王都までではないけれど方向は一緒だから途中まで一緒できる。無料で護衛するから一緒に行きたいと騎士団経由で連絡したら喜んでOKしてくれたとのこと。僕たちは騎士団には顔なじみだしな。


・・


 僕たちは旅の支度を始めた。といってもダンジョン装備に加えて食料や毛布を買い足すぐらい。重いのは水だけどメイのアイテム化があるから分けて持てば相当な量を持てるし大丈夫だろう。これアイテム化なかったら大変だったな。


 村の人に挨拶して回る。ウェンさんが餞別代わりと言って王都の人を紹介してくれた。騎士団にいるはずだから何かあったら頼りなさいとのこと。ありがたい。あと僕たちの身分証も書いてくれた。やっぱりいい人だな。


 薬草のおばあちゃんにも挨拶して、レイラさんのパーティにも出発を告げる。しばらくここのダンジョンに通うそうなので茶店をよろしくと言ってこれで大体全員かな。両親とも出発パーティーをして慌しく出発の日を迎えた。


――


フィン:レベル2(down)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング


メイ:レベル5(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工


父:レベル3(up)

・恩恵:力持ち、槍使い、調理(new)


母:レベル3(up)

・恩恵:水、癒し、アンチエイジング(new)

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