68 教会

 ようやく目的地の町が見えてきた。ウェンさんに書いてもらった身分証を見せて町に入る。どうやら通じるみたいだな。商人たちと一緒だからかもしれない。彼らとはここで別れる。

 着いたのは中規模の町。というか村を出た最初の町より大きいので、僕にとっては今まで来た中で最大の町だ。二つ目だけど。


 メイはここに以前来たことがあるそうだ。

「ここは知っている人がいるの」

メイに付いていった先は布や服を売る店だった。実家の取引先とのこと。


「おじさん!」

メイが入るなり声をかける。

「メイじゃないか。田舎の男爵領に行くとか言ってたけど。帰ってきたのか!」

メイに声をかけてきたのは初老の男。この店の主人みたいだ。


「一緒にいたダストン達はどうした?」

「事情がありまして。私たちはこれから家に帰る途中です」

メイは僕らのほうを振り返る。

「こちら私の大事なお友達です」


 ということで僕らも紹介された。ダストンというのはメイと一緒にいた元番頭の事で、この店の主人の顔なじみとのこと。彼が魔物にやられたと聞いてしんみりとするがそれでもメイが助かったことを喜んでいた。

 そしてメイが家に帰る途中と言うと、来週の王都に向かう隊商に同行を勧められた。ようやく王都まで繋がった。


・・


 出発まで時間があるので町を散歩する。道行く人にレベル判定を使って細かく稼ぐ。レベル3にしておきたいところだけどグリフォンの分を合わせてもまだレベル2の半分にも満たない。盗賊団を倒したらレベル上がったんだろうか。でも悪人とはいえレベル上げるために人を殺しちゃいけない気がするんだよね。


『おっと!』

レベル5の人を発見した。僕の姉・妹以外では初めてだ。後をつけると、とある建物に入る。宗教建築っぽい。近寄って入り口を見る。

「人と恩恵の神教会」

そう書いてある。たしかメイが言ってた教会と同じだな。入口は開いてるしちょっと入ってみよう。


 お祈りの時間ではないらしくがらんとしている。椅子がいっぱい置いてあるところを見ると定期的に説教があるのだろう。

 祭壇に近寄ってみると、集中線のある星のような模様が掘りこまれている。この宗教のマークなのかな。祭壇にちょっと触れてみると。


 突然、僕の周りにいくつもの光が浮かび上がった。いろいろな形をした光の塊。それがぐるっと僕を取り巻く。パッと見て半周で10だから全部で20ぐらい?


「君!」

声がした。びっくりして祭壇から手を離すと光は消えた。

「今の恩恵の数、君は何者なんだ」

なんかやばい?えっと。入ってきたほうを振り返って。

『縮地!』

とりあえず逃げ出した。最近何でも縮地で解決してる気がする。



 今日はお世話になっているお店の主人の晩餐となった。メイが服を作ってくれる。ちゃんとした服も作れるんだなと初めて感心。


 僕は普通にシャツとズボン。シャリは刺繍の入った白いワンピース。あかりはレースが大胆にあしらわれた緑のドレスっぽいチュニック。刺繍やレースはメイが恩恵でさくっと作った。シャリはお姫様みたいに可憐だしあかりはソシャゲのレアカードみたいでレースから透けて見える肌がちょっとドキドキする。


 アイテム化を解除したところグリフォンの肉は腐っていなかった。どうやらアイテム化すると時間が止まるみたい。手羽元だか肩ロースだか不明な部位の肉を切り取って素材として提供する。


 夕食の席では僕らの村の話になった。そしてメインのグリフォン肉が出るとグリフォンに襲われた話で盛り上がる。


 食事後にお茶を飲みながら主人の話を聞く。

「そういえば今日、教会に納品に行ったんだがど面白い話があったんだよ」

「そうなんですか」ちょっと嫌な予感。


「数十の恩恵を持つ少年が祭壇の前にあらわれて消えたんだそうだ。教会では神の使徒が降臨されたのではと大騒ぎだ」

『えっとー』

「なんで恩恵の数がわかるんですか?」

シャリが聞く。いい質問だね。


「教会の祭壇には触れたものの恩恵が浮かび上がる仕掛けが施されてるのだよ。なんでもその少年は数十の恩恵が取り巻いていたとか」


 あかりが僕をじろっと見る。そんな見ないでほしいな。目が泳いじゃうから。

「王都の大司教様は20の恩恵を持つというが、この町でとなると本当に神の使徒が降臨したのかもしれんな」

『ふーん。大司教は20の恩恵があるんだ。レベル20なのかな?』


 ちょっと興味がわいたので話を逸らしながら質問してみる。

「ところでその人と恩恵の神の教会ってどういう教義なんですか?」

「この世界を破滅から救うために神は人に恩恵を授けた、という教義だな。私は信徒ではないがこの国では一番大きな宗教派閥だよ」


「うちは田舎だったので教会とかなかったんですが、他にはどういう神様がいるんでしょう?」

「そりゃまあ商売の神様もいるし、他にも天気の神とか健康の神とか農業の神とかそれこそいっぱいだけど。もっとも本部があってあちこちに教会があるのはあそこぐらいかな」

多神教なのかな。日本っぽいな。


「なるほど。ありがとうございます」

この教会については王都でもうちょっと調べてみよう。レベル20かもしれない大司教にも興味がある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る