後日談「三泊四日・日本の旅」 2023年12月追加

後日談1 メイの実験

(こちらはノベルピア版に乗せていた後日談SSを編集したものです。第三部後、おまけSSと同時期のお話です)



「行っちゃったね」

「行っちゃいましたね」

シャルロット王女のため息のような声にメイが答える。


 王国の西の果ての町。フィン達三人の兄妹を見送った二人は、ダンジョンから宿に戻ると互いに顔を見合わせた。


「で、どうやって王都に帰ろうか」

「それって私に何とかしろってことですか」

「そうしてくれるといいなってことかな」

「うーん」

メイは考えている。王女が言う。


「保留してる恩恵がまだいっぱいあるんでしょ。転送ゲートとか覚えればいいんじゃないの?」

「そう簡単にはいかないんですよ」

「なんで?」

「えーっとですね……」

メイは説明する。


「そもそも私は魔法使いじゃないんですよ。まず魔法というものの体系を学んで、それから空間魔法の理論を勉強しないとですね。そうしたら徐々に簡単な魔法から実験して……」

「今日中に終わらない?」

「無理です!」



・・



 翌日、宿を出た王女とメイは町から離れて人目に付かない山の中に入った。メイが大きな紙をアイテムボックスから取り出す。


「やっぱりこれにしましょう」

メイが紙を投げると、それは巨大な鳥に変化した。翼幅で10m以上はある巨大な式神だ。


 メイはにっこりと王女に言う。


「乗ってください!」

「えー」

「えーじゃありません」

ぐずる王女を前に抱えてメイは巨大な鳥に乗り込んだ。


「それでは王都に向けてしゅっぱーつですよ!」

ロック鳥姿をした式神は、巨大な翼を羽ばたくと王都に向けて飛翔を開始する。


 最初は怖がっていた王女だが、徐々に慣れてきてロック鳥からの景色を楽しみだした。


「こう見ると王国って結構広いね」

「そうですねー」


 メイは王女にうなずきながらも別のことを考えていた。

『フィンはちゃんと日本に着いたのかな……』


「メイ、前方に雲があるけど大丈夫なの?」

「雲ぐらい大丈夫……大変!あれは積乱雲ですね」

「なんか違うの?」

「式神は雨に弱いんですよ!」

「えー」

「掴まってくださいね!」

急降下しながら大きくターンするロック鳥。

「わー」





 王女とメイが王都に帰ってからしばらく、二人は幾多の仕事に忙殺された。まずは長さ、重さ、時間、といった単位系の整備、通貨制度の整備、道路工事の指示に農業指導……


「国を運営するって大変ね」

「まあ何百年分かの改革を一度にやろうとしてますから」

さすがに疲れた様子の王女にメイが答える。


「それでも反対する人がいないだけましですよ。普通は何か変えようとするとわけわからない人がやってきて意味わからない反対するものです」

「お父様もみんなも私に甘いから」

「それだけではないような……」


 もちろん反対する人はいくらもいたのだが、王女の”説得”の恩恵で押し切った。国王はほぼシャルロットの言いなりだ。王女は”説得”とか言ってるけど実は”洗脳”なんじゃないかとメイは思っている。


「その恩恵、私には使わないでくださいよ」

「もちろん、友達だからね」

にっこり微笑むシャルロット。友達でなければいいらしい。


「この後は官僚の育成、法体系の整備、公衆衛生、それに学校教育ですよ」

「やること決まってるならメイやっといてよ」

「だめです。王女の仕事です!」

「えー」

「えーじゃありません。それに隣国ではダンジョンがあふれたという話があります。この国でもダンジョンの警戒を強めないと、っていうか聞いてますシャルロット王女?」





「何ここ?」


 ある日のメイの秘密基地。遊びに来た王女がメイに尋ねた。

 そこは秘密基地に新たに作られた、体育館ほどもある地下室だった。


 直径数十メートルもある輪のような機械が壁面をぐるっと取り囲むように位置している。一方、部屋の真ん中あたりは床が盛り上がって台座になっている。そして台座の上にはゆったりとした椅子というか、一人掛けのひじ掛け付きソファーが二つ並んでいる。


「空間魔法の研究をしていたらいろいろわかったんですよ」

メイがドヤ顔で王女に説明を始める。


「この世界は計算機の中だってことはご存じかと思うんですが」

「知らないっていうか、その”計算機”って何?」

王女が話に割り込んだがメイは早口で説明をやめない。


「フィン達が他の世界に移るサーバー間コンバートにあたってはレベルを100にしてカンストさせてなおかつベヒモスの肉イベントボスドロップが必要だったわけですが、ちょっと他の世界を覗くだけならなんとかなるハッキングできるんじゃないかと思ったんですよ」

「よくわかんないけどわかった」

「世界を計算する計算機に局所的に負荷をかけて脆弱性をですね」

「はいはいわかったから」


 王女はメイの手を取って話を遮った。話を止めない少女のメガネの奥を覗き込む。

「で、私も行けるの?」

「ロック鳥に乗るのは怖くても異世界に行くのはいいんですか?」

「高いところはちょっと苦手なの」



・・



「とりあえず、言語理解と異言語会話の恩恵を取得しました。私の周りにいれば言葉は通じます」

「わかったから早く行こうよ」


 王女はもう行く気になっている。


「いろいろ準備とかしなくていいんですか?」

「まずちょっとだけ行ってみようよ。お試しお試し」

「そうですね、じゃあタイマーを三時間に設定して……」


 メイが機械についているダイヤルをぐるぐると回す。


「はやくー」

「はいはい」


 メイはちゃちゃっとダイヤルを合わせるとそそくさと王女の隣に来た。


「それではスタートです」


 白衣を着たメイとドレスを着た王女が並んでソファーに座った。メイが手元のボタンを押すと、ギュィーンとかキーンとかいう音が周りから聞こえてきた。


 部屋の壁面を取り囲むように設置された機械が青白く光りだす。二人は青い光に照らし出される。


「3、2、1、転移!」


 部屋の中は目を開けられないほどの白い光で満たされた。

 そして光が静かに消えると、ソファーの上にはメイだけが座っている。王女の姿はない。


「あれ?」


メイ:レベル9(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術、アイテム合成、物体複写、保留[保留中×79]、時空構造理解(new)、言語理解(new)、異言語会話(new)



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双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

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