SS 「シャリとSS」

「ねえ、おにいちゃん」

「なんだよ、あ……シャリ」

「いま、なんて言おうとしたおにいちゃん?」

「えーと、ああシャリはかわいいなあって思わず感嘆詞が口から」

「……まあいいでしょう」

『セーフ』

危なかった。


「で、なんだシャリ」

「そうだ、おにいちゃん、SSって何か分かる?」

「えっと、ナチスドイツに関係ある?」

「ないかな」

「じゃあセガサターン?」

「なにそれ?」

「それともスペシャルステージとか?」

「なんの?」

こっちが聞きたい。


「ていうか、どういうコンテキストの話?」

「これなんだけど」


 妹はノートPCを開くとさらっとロックを解除する。


「えっと、いまどうやってPCのロック解除した?」

「シャリはおにいちゃんのこと何でも知ってるから」

「ひょっとしてブックマーク見た?」

「で、SSなんだけどね」

妹がこっちの話聞かずに指さした画面には小説投稿サイトが表示されている。


「えっと、そういうサイトでSSならサイドストーリーか、ショートストーリーのことかな?」

「それどういうの?」

「小説投稿サイトで、時系列的に昔の話とかサブキャラ視点の話とか何かの理由でメインストーリーに入らない話をSSって言うんだよ」

「なんでそんなの書くの?」

「よくあるのはマンネリ化した主人公の俺強ぇ感を新たな視点で表現かな。あとは厄介オタク向けファンサービスとか?知らんけど」

「ふーん」


「ところでシャリはどんな小説読んでるの?」

「妹モノのラブコメとか?」

「面白い?」

「のもあるよ」


 もしかして異世界転生かと思ったけど違ったみたい。


「最近のラノベの妹動向を知っておこうかと思って」

「ラノベの妹って例えば俺妹みたいなやつ?」

「ツンデレ妹って一世代前じゃない?」

「それじゃ俺ガイルの小町は?」

「他の女二人がおにいちゃんを取り合ってるのをただ見てるとか妹としてどうなの?」

「どうなのって言われても」

「そもそもあれももう古いでしょ。最近の妹トレンドは重い系じゃない?」

「なにそれ」

「やっぱり妹に大事なのはおにいちゃんに対する執着の強さだと思うのよ」

「そうなの?」


 シャリは横目でPCの画面を見ながらうなずく。


「シャリも前世では義妹に甘んじてたけど、ついに正妹の座をゲットしたからもう大丈夫よ、おにいちゃん」

「なにが大丈夫?」

「考えてもみてよ」

妹は首をかしげてうっとりとした表情。


「恋人や夫婦は別れたらただの人だけど、妹は永遠に妹なのよ」

「そうだね」

「世界に永遠なものがどれだけある?」

「なるほどですね」


・・



「おにいちゃん……」

「え?」


 翌朝、起きたら金髪の少女に抱きつかれていた。


「よいしょ」


 おもむろに少女に頭に手をかけて、金髪のウィグを外す。下から茶髪の女子高生が出てくる。


「なにしてんだよ、シャリ」

「えへへ。おにいちゃん、おはよう」

シャリが眠そうに微笑む。


「……おはようシャリ」

「おにいちゃん、前世を思い出した?」

「えーっと」


 前世ではこんなに胸がなかったけどそういうことは言わない。


「……そうだね」

「それで、おにいちゃんはどっちがいい?」

「どっちって?なんの」

「金髪と茶髪に決まってるでしょ」

妹の瞳孔が一瞬小さくなった。


「あー、そうね、どっちもかわいいんじゃない?」

「ふーん」


 妹は口をとがらせる。


「シャリ知ってるんだけど、本当はおにいちゃん黒髪ストレートロングが好きなんだよね」

「え!?なんで?」

「だってPCのブラウザ履歴見たらそういう……」

「わーわー」


 慌てて話を遮る。


「シャリも黒髪にしてもいいんだけど、なんかそれって負けな気が……」

「わー」


 全然遮れていない。


「そうだシャリ、夏休みだし、どっか遊びに行こうか」

思いついたように言ってみる。


「やった!おにいちゃんとお出かけ!」

妹が再び抱きついてきた。


「だから抱きつかないで!ほら支度するから!」



おしまい


【追記2023/12/3】

この作品はカクヨムコン9には不参加ですが、せっかくお祭りなので近日に後日談を掲載します。お楽しみに!


挿絵は金髪のウィグをかぶった妹

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654898593934

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