後日談2 日本・東京
◇ 東京 秋葉原
夏の日差しの中、空間に光の粒子が煌めいた。夜であれば目立つのだろうが日中なのであまり目立たない。それでも光の粒子は急激に密度を増し、夏の日差しの中でもまばゆく輝く光の柱となったあたりで周りの人が注目し始める。
数秒間の間、光の柱が目を開けていられないほどの光を放ち輝いた後、それは周りで見ていた人の目に残像を残してだしぬけに消えた。
光が消えたところにはドレスを着た少女が立っている。
背の高さは140cmもない。小学生のような小柄な体形。日の光を浴びて煌めく長い金髪、そして紫がかった青い目。ひらひらとしたドレスが秋葉原の夏の風に舞う。
「え?いまの何?いつそこに来た?」
すぐ近くでメイド喫茶のチラシを配っていたメイドさんの口から声が漏れた。なにせ突然目の前に少女が現れたのだ。それもとびっきりの美少女。
目の前の少女はきょろきょろとあたりを見渡している。白いドレスに包まれた金髪で華奢な姿は妖精のよう、というかファンタジーRPGのキャラクタのようだ。思わず話しかける。
「かわいいーー!なんのコスプレ?」
「〇◇●△#=!」
「なに、英語?」
・・
「ここがおにいさん達のいた世界なのね!」
思わずシャルロットは声を出した。大きな建物、色とりどりの看板、あでやかな装いの人々。なにもかもが王国とは違っている。
「(%&!!$=%’”++?*‘」
近くにいた女性が話しかけてきたが何語かわからない。ただその女性の装いはメイが時々着ていたメイド服という服によく似ている。
『そういえばメイはどこ行ったのかしら』
あたりを見回すがメイはいない。メイド服を着た人はあちこちにいる。メイみたいな黒髪の人ばっかりで、自分みたいな金髪はほとんどいない。まあここでじっとしていればメイが見つけてくれるだろう……たぶん。
見つけてくれるよね?
―――――
◇ あかり(29) アパートにて
(・・ あかりちゃん、あかりちゃん ・・)
名前を呼ばれた気がして、山峰あかり(29)は辺りを見回した。日曜の朝も遅いのにうっかりウトウトしていたようだ。会社も夏休み期間ということもあり、すっかりぐだぐだな生活になっている。
(・・ あかりちゃん! ・・)
「誰?」
もう一度アパートの部屋の中を見回すが自分しかいない。なんだろう今の声。
(・・ 私メイよ。秋葉原にシャルロット王女がいるから助けてあげて ・・)
部屋にはもちろん自分しかいない。
『疲れてるのかな……』
(・・ 王女は白いドレスを着ているわ。場所は…… ・・)
今、明らかに声が聞こえた。
「メイ、王女、シャルロット……」
自分で書いている小説の登場人物たちだ。
「やっぱり疲れてるのかな」
―――――
◇ シャルロット 秋葉原
『なんなの、この人たち!』
秋葉原の路上、シャルロットの周りにはさっきからずっと人が群がっていた。
「かわいいー」
「何のコスプレ?」
「写真いいですかー」
「視線ください」
メイはまだ現れないのに周りには人が増える一方。
「最後尾はこちらですよ」
「ちょっとそこ、ローアングルはNGですよ」
人々の話す声はシャルロットには通じない言葉だ。そんな時。
「シャルロット?」
彼女の名前を呼ぶ声がした。声の方を見る。
「シャルロット」
茶色がかった髪の女性が自分の名を呼んでいた。年のころは20代過ぎぐらいか。知らない顔なんだけど、なんとなく知っている雰囲気がする。この雰囲気は……あの子に似ている。
「あかり?」
呼びかけてみると茶色い髪の女性がびっくりした顔をしている。もう一回名前を呼んでみる。
「やっぱり、あかり?」
茶色い髪の女性が自分を指して「あかり」と言う。シャルロットも自分を指して「シャルロット」と言ってみる。
「#%=)@」
女性に手を掴んで引っ張られた。多分「こっちよ」と言ってるのだろう。
―――――
◇ あかり 秋葉原
謎の声が気になって秋葉原に来たあかりは、指定された場所で群衆に取り巻かれている少女を見つけた。
中学生かそれ以下に見える華奢な身体。金髪で紫がかった青い目。そして白いドレスにティアラ。身に着けた服もアクセサリーも妙に立派で安物という感じがしない。
「ひょっとしてこの子がシャルロット……?」
思わず口にしてしまう。すると。
「……あかり」
少女が彼女の名前を呼んだ。まさか自分のこと?
「あかり」
少女がもう一回自分の名前を発音した。こっちを見ている。やはり自分のことだろうか。あかりが自分を指して「あかり」と言ってみると、少女も同じポーズをしてシャルロットと発音する。通じているみたいだ。
『どういうことなの?』
シャルロットはあかりが書いている小説のキャラクターだ。それがなぜ秋葉原に。しかしどう見ても自分が書いたキャラクターそのものだった。
あかりが少女に近寄ると、二人のまわりに人が集まってきた。
「順番を守ってくださいよ」
「最後尾はこっちです」
えーっと。
「こっちよ!」
あかりは少女の手を掴んでその場から逃げ出した。タクシーを捕まえて乗り込む。
自宅の住所を告げ、走り出したタクシーの涼しい後部座席でようやく一息。隣に座る青い目の少女は興奮した様子で、走る車の窓から外の景色を眺めている。
『で、どうしたらいいのかしら』
秋葉原に降り立った王女のイラストはこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330668202723856
(後日談は12/16まで毎日更新します)
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5秒でわかるあらすじはこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330667888952008
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