後日談3 メイの実験その2

 一方、転移ルームに取り残されたメイは自分が転移できなかった原因を考えていた。


『まずは確認よね』

装置の設定を見直す。転移質量には問題なさそうだし、転移先の座標は合ってるし、あれ?


『転移時間が三時間だと思ってたら三日になってる』

となると、王女は三日の間むこうの世界に取り残されるわけで……


「大変!」


 とりあえず転移装置の設定を物質転移モードからメッセージモードに変更する。転移するほどのエネルギーはまだ溜まっていないがメッセージだけなら送れるはず。問題は誰に送るかだけど……


 ちょっと悩んだけど、こういう時には一番頼りになりそうなあの人にメッセージを送ることにした。


(・・ あかりちゃん、あかりちゃん ・・)


 ・・


『それはそれとして、王女と自分の違いと言うと、転生者かそうでないかだよね……』


 なぜ自分が転移できなかったのかはまだ判っていない。ひょっとして転移先に実体がある転生者は転移できないのだろうか。検証の必要がある。


 メイは秘密基地の奥、錬金術実験室の扉を開けた。ここには身の丈を超える大きなガラス瓶が並び、その中には裸の人間がふわふわと液体の中に漂っている。


 錬金術で作られた人造人間、ホムンクルスだ。


『これにしよう』


 メイは一つの巨大な瓶を選ぶと中の液体の排水を始めた。メイよりも背の高いエルフの少女の体が浮力を失い瓶の底に倒れこむ。

 おもむろに瓶を開封すると意識のないエルフの少女の体を取り出し、近くの寝台に横たえた。その頭に電極が生えたヘルメットをかぶせる。


 メイはその隣の寝台に自分も横たわり、自分も同じようなヘルメットをかぶった。


「実験開始!」


 白い光が部屋を満たす。



・・



 光が消えたようだ。眼球を動かして自分の体を見る。ほっそりしたエルフの裸身が目に写った。


「やった、成功だ!」


 大司教の魂の宝石にヒントを得た魂移しこみ装置の初稼働はぶっつけ本番だったが無事成功した。ホムンクルスに自分の魂を移しこむという、普通に考えれば大偉業なのだが、今回はまだ準備に過ぎない。


「この体ならダブってないから転移できるはずよね」

あかりそっくりの体に入ったメイは裸身のまま寝台から降り立つ。


『とりあえず服を着ないと』



 ・・



(・・ あかりちゃん、あかりちゃん、私も行くから迎えに来てね。場所は…… ・・)


 これでいいかな。それじゃ装置を物質転移モードにセットしてと。ここまでの準備にかかった時間を転移時間から調整して設定する。今度は念入りに指さし確認してと。


 露出多めの緑のチュニックドレスを着たエルフの少女はソファーにゆったりと座り込む。


「それじゃ、しゅっぱーつ!」



・・



 秋葉原の路上、午後も遅い時間。熱せられたコンクリートから夏の熱気が立ち上る路上に光の粒子が舞う。そして光は集まるとまばゆい光の柱となった。


 チラシを配っていたメイドさんたちが「また?」という感じで注目する中、光の柱は一瞬激しく輝くと残像を残して唐突に消えた。

 そこには緑の露出の多い服を着た少女が立っている。チュニック風の短いドレス。茶色の髪、緑の目、人間離れした美貌。そして耳がとがっている。


「やった、成功だ!」


 メイは叫ぶと小さく両手を握りしめた。異世界を経由してついに秋葉原に来ることができたのだ。人生の夢の一つが叶ったと言っていい。


『ところで、あかりちゃんはまだ来てないのかしら』


「かわいいコス!エルフ耳とか本物みたい」

気が付くとメイドさんに取り囲まれている。本当に秋葉原だ。すごい。


「秋葉原的本物女仆服之好的萌」

メイは思わず興奮して口走る。


「何だって?」

「ワタシは中国からキマシタ」

「すごーい」

「萌萌」

メイは猫手でポーズを取る。

「萌萌!」

周りのメイドさんたちもポーズを取る。




――――



◇あかり(29)


「とりあえず家に入るわよ。シャルロット」

あかりは少女の手を掴んでアパートの部屋の前まで来た。鍵を開けようとしたタイミングで隣の部屋の扉が開くと、先日引っ越しの挨拶をした大学生が出てきた。とりあえず挨拶を交わしておく。


「こんにちは」

「あ、こんにちはあかりさん……え、あれ、シャルロット?」

隣の大学生がシャルロットという名前を口にした。え?


「あなた、この子の知り合いなの?」

「えっと」

「どうしたのおにいちゃん」


 大学生の部屋から妹と言ってた高校生ぐらいの女の子が出てきた。たしかこの子もあかりという名前だったな。出てきた女の子はこっちをみてびっくりした顔をする。


「シャルロット!」


 隣の部屋から出てきた女の子が駆け寄ってくると、あかりが連れていた少女に抱きついた。

「私、シャリよ!わかる?」

「シャリ?!」


 なんだかもうわからない。隣の大学生の顔を見ると目をそらした。なんか知ってるみたいだ。


「できたら説明をお願いしたいんですけど……」

「えーとなんというか」

「とりあえず家に入ってください」

あかりは自分の部屋の鍵を開け、隣の大学生兄妹を迎え入れた。


 あ、部屋を片付けてなかった。引っ越しの段ボールが積まれたままだ。大変。


・・


「どうしてあなたたちはこの子の名前知っているの?」

あかりは隣の部屋の兄妹を自分の部屋に上げると質問を始めた。


「えーと言っちゃ何ですけど、どうしてあかりさんもこの子の名前を知ってるんですか?」

「え」

目が泳ぐ。

「えーと、この子が自分で言ったのよ!」

「聞いてみますね」

「&%$@¥・・・」

隣の部屋の大学生が謎言語で少女と会話する。


「あなたが先にシャルロットの名前を呼んだと言ってます」

「なんであなたはその子の言葉判るの?」

「えっと」

「おにいちゃんお腹減ったんだけど」

「わかったよシャリ。すぐご飯にしよう」

「妹さんの名前はあかりじゃないの?」

「えっと」


(・・ あかりちゃん、あかりちゃん ・・)


「私のこと呼んだ?」

「え?」


(・・ 私も行くから迎えに来てね ・・)


「行くから迎えに来てって言われた」

「誰に?」

「わかんないけど、いや、確か最初にメイって言ってたような……」

「メイ!?」


 兄妹が口をそろえて叫んだ。そしてシャルロットと呼ばれている少女も叫ぶ。

「メイ!」


 どうやらこのメイという人物がカギを握るようだ。


「とりあえず行きましょう」

「どこに?」

「秋葉原!」



~~~

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双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

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